32 記憶
「これは・・・発生器?でも、ボクの知っている物より大分小さい・・・。」
明日学院へと戻る事になっているディランの元を訪れ、準備で慌ただしい中お守りを見せ心当たりが無いかを尋ねたのだが、彼も困惑したような表情でお守りを見つめて居た。
心当たりはあるようなのだが、言動から察するに大分形状が違うようた。
「これが何かわかるの?」
「は、はい。恐らくですけど・・・。ただ、ボク達の元にあった物とは大きさがかなり違っています。・・・それに、本人から聞いた話だと自分では作れないと言って居たような・・・?まさか、あれから作りだしたの?だとしたら、ボク達が居なくなってからどれくらいの時間が流れたの・・・?」
本人?コレを作った人物に心当たりがあると言う事か?
「もしかして、僕の夢に出てくる女の子?」
「はい。作れるとしたら、あの子だけです。・・・こういう会話をしているのに話しかけて来ない所を見ると、兄上と会話をする為では無さそうですが・・・。それに、光って無いって事は起動してはいない?兄上、コレ光る事ってあるんですか?」
話しかけてこない?どういう事だ?
しかし、お守りが光る事はまだディランには話していないのに、その事を尋ねてくる辺り彼に聞いて正解だったらしい。
疑問はあるが、どういった時にお守りが光を放つのかを、ディランに説明する。先程のシュウさんとの実験でわかった、僕以外の人間が同じように所持していても、光らない事についても合わせて話した。
「なるほど、鉱石を使った時ですか・・・。となると、お守りの正体は発生器で間違いないですね。それに、鉱石の正体も恐らくですが、見当はつきました。」
「発生器?鉱石の正体?」
「えーと・・・。そのお守りは鉱石の持つ力を操る事が出来る装置で、もしかすると鉱石が生み出された原因かもしれないという事です。・・・兄上を守るため、なんでしょうね。やはり、彼女が・・・ノアが兄上の出生に関わっているのでしょう。だとしたら、ボクも調べて・・・って兄上!?顔色が悪いですよ!?大丈夫ですか!?」
「う、うん。大丈夫。」
ノアという名前を聞いた途端、またしても心臓が強く脈打ち、言い様の無いくらいの焦燥感に襲われる。
でも、以前のように酷い目眩は無い為、なんとか会話は続けられそうだ。
しかし、鉱石が生み出された原因って・・・どういう事なんだろうか?
「本当に大丈夫ですか?明日、学院に戻る予定ですから、王都で色々調べてみますね。彼女に接触出来たら、何かわかるかもしれませんし。」
「彼女?ノアの事?」
「確かにノアと名乗っておいでですが、兄上の夢に出てくる方のノアではありませんよ。この国の王女である、ノア第一王女様です。王女様も学院に通っておられるのですよ。学年が違いますし、取り巻きも多いので接触出来るかはわかりませんが・・・。」
「お、お姫様!?なんでお姫様が知っていると思ったの?」
「それは・・・、姫様が兄上やサリーナと同様に、ボクの記憶の中の人物と瓜二つだから、ですよ。最初は子孫だから偶然だと思ってましたけれど、ボク達同様生まれ変わりなのかもしれません。ボクやサリーナとは違い、王家に彼女と近い髪色を持つ人物は居ませんので、もしかしたら、兄上と同様に・・・。まぁ、それを確かめる為にも、一度接触してみようと思います。」
以前言っていた心当たりとは、王女の事らしい。。
でも、王女に接触するってディランに危険は無いのだろうか?
「危なくは無いよね?」
「危険なんてありませんよ。寧ろ、有力貴族である父の代わりに挨拶をしたいと言えば、接触する事自体は簡単だと思います。ただ、常に従者や取り巻きが居るので、この話が出来るかどうかはわからないんですよ。もし、本当にねぇさまの生まれ変わりなら・・・恐らくは、聞きたい事が聞けるでしょうけれど・・・。」
そうでない場合、ただ挨拶するだけになると。
そうなってしまうと手掛かりは途絶えてしまうから、生まれ変わりであってほしい。
「わかった。頼めるかな?」
「えぇ、勿論。でも、サリーナの記憶が完全なら、多少の情報を得られた可能性があるんですけどね。なにせ、ボクが死んだのは、一番上のねぇさまの翌年だったので・・・。サリーナともう一人の女の子が、その後ノアと何を話したのかがわかれば、そこに理由があるのかも知れませんし・・・。」
「なるほど・・・。でも、サリーナさんの記憶って僕に関する事だけみたいだし、今は別の手掛かりを当たろう。しかし、神様と四人の女の子か・・・。まるで御伽噺、だね。」
「まるで、ではなくてアレはボク達の事ですけどね。あんな形で残るなんて、予想も出来ませんでしたけど・・・。」
「えっ?僕達の・・・事?」
「はい、そうですよ。ノアは・・・不滅なんですよ。だから、兄上の夢に出てくる彼女は、今も変わらず何処かに存在している筈なんです。ずっと、ずっと、一人で・・・。この国が出来てから1450年よりも前からずっと・・・。下手をすると、ボク達が彼女と暮らしていた時から1万年以上経っている可能性だってあります。その間、彼女はボク達の事を語り継いできた・・・そういう事なんです。それが、御伽噺や伝承として残っているんですよ。」
「そんな・・・。」
そんな途方もない時間を生きる事が可能なのか?だとすると、あの子は正しく神様じゃないか。
この話が本当なら、僕が御伽噺に出てくる少年という事になるのだが、まさかそんな・・・。
「兄上が・・・ノアに言ったんですよ。ボク達の事を語り継いでくれって。そうする事で、ボク達はノアの中で生き続けるからって・・・。それを、ただひたすら守り続けてきたんでしょうね・・・。」
ディランの言葉で、僕の中の焦燥感がより掻き立てられる。一体何故、僕はこんなにも焦りを覚えるのだろうか?
あの夢でも、確かに似たような事を言っていたのは覚えている。
だけど、その言葉を僕達の理解が及ばないくらいの長い間、ずっと彼女は一人で守り続けていたのか?
僕との約束を。
その事を考えるとどんどん心臓の鼓動が早くなっていき、泣き出しそうな彼女の表情が頭に浮かんだ直後、突然酷い頭痛に襲われ僕の意識はそこで途絶えた。
暖かくて柔らかいモノに包まれている感覚に気付いて、僕は目を開けるが、後頭部は何かに締め付けられているようで、少し息苦しい。
身体を動かそうと軽く身を捩るが、何故か動けない。僕は今、どうなっているのだろうか?
そう思い、顔の前のモノをどけるため手を伸ばし柔らかいモノを掴む、すると至近距離から悲鳴が聞こえた。
「きゃーー!イ、イーオさん!どこ触ってるんですかっ!」
え?僕、何を触ったの?
柔らかくて、暖かいモノのなのはわかるけれど・・・。
更に少し手を動かすと、今度は抗議の声が上がる。
「ちょっと、揉まないでください!」
「サリーナ、貴方が離れれば良いのでは?」
ディランの声が聞こえ、直後に漸く締め付けから解放されたのだが、僕はどうやらサリーナさんの胸を鷲掴みにしていたらしい。
「流石兄上・・・ですね・・・。」
何が流石なのかわからないのだが、とにかく彼女に謝らなければ。
「サリーナさんごめん、その・・・触ってしまって・・・。」
「いえ、突然だったので驚いただけですから・・・。それより、お加減はいかがですか?」
気分は・・・悪くない。
また意識を失ったのはわかるけれど、然程時間も経っていないようだ。
「大丈夫だよ。それより、僕はまた意識をなくしてたのか。」
「えぇ、兄上。それより気絶する前、最後に仰っていた言葉、覚えてますか?」
「え?ディランに言われた事を考えてたら、酷い頭痛がしてそのまま意識がなくなったんだけど、僕は何か言っていたの?」
「と言う事は、無意識・・・ですか。記憶が戻ったのかと思いましたが、違うようですね。・・・サリーナ、兄上をお部屋までお連れして頂けますか?今日はもう、休まれた方がいいでしょう。」
「かしこまりました。」
ディランの質問に答えられなかった僕の様子に、彼は複雑な表情をすると、サリーナさんに僕を部屋で休ませるよう促す。
サリーナさんに連れられて部屋を出る前に、彼にもう一度僕が何を言ったのか尋ねたのだが、答えてはもらえずに翌朝早く、ディランは伯爵にだけ挨拶をして、王都へと戻って行った。
ところで、僕は何故サリーナさんに抱きしめられていたんだ?その事を、本人に尋ねたのだがこちらも答えてはもらえなかった。




