31 お守り
「イーオ様の為の物は難しいですね・・・。」
父とファンさんの話を聞いてから数日後、アルの為の武器が出来たとの話を聞いて僕とアルはシュウさんの研究部屋を訪れていた。そこで、僕が扱う物は何時完成するのかと質問した所、そのような返事が返ってくる。
「そうなんですか?」
「えぇ、これまでイーオ様にも幾つか装具をお渡しして発現して頂きましたよね?アレらは制御する為の機構だけ備えていたのですが、出力を抑える機構を組み込んだにも関わらず発現している時間や、盾や鎧の自動反撃の威力にはまるで影響していないんですよ。何か心当たりはありませんか?」
「心当たり・・・ですか?」
うーん・・・?
僕が発現させると形状を変える事が出来ないし、自ら攻撃する能力もないのは確かに不思議なんだけれど・・・。
発現している時、お守りが熱を放っているのが何か関係しているのだろうか?
「僕の持っているお守り・・・ですかね?」
「お守りですか?見せて頂けますか?」
その言葉に、僕はいつも首からかけているお守りを外しシュウさんに手渡す。
「見た事がない素材ですね・・・。一見すると何か機能が付与されているようには思えませんが、このお守りが心当たりなのですか?」
「はい。僕が力を発現させている時、光ったり熱を放ったりしているんですよ。」
「なるほど・・・。では、試してみましょうか。」
シュウさんの提案によりアルの為の装具の試験も兼ねて、僕達三人は練兵場へと移動をし、まずはアルの為の装具の実験をする事になった。
「少し重い籠手にしか思えないが、いつも通り発現させて見ればいいのか?」
「はい。」
シュウさんが短く答えると、アルも軽く頷き短く呼吸する。
すると、籠手が赤く光りだし、光る弓のような物が現れたのだが、何時もと形状が少し違う。
籠手から直接翼のように光が形成されているのだが、アレはなんだろうか?
「シュウさん、あれは?」
「弩と呼ばれる物、ですね。弓の一種ですが、少し扱い方が違うので少しアルさんに説明してきます。」
そう言うと、シュウさんはアルに近づいて説明を始める。特徴等を説明しているのだろうが、ここからではよく聞こえないな。
暫くその様子を眺めていると、シュウさんがまたこちらに戻ってきたので、僕は疑問をぶつけてみた。
「どうしてあんな形状になったのですか?」
「制御装置と、力の発現の仕方を調整する装置を組み込んでいるんですよ。使用者の意思に関わらず形状を固定する事は可能なのですが、用途が限定的になりすぎる為汎用性は損なわれてしまいます。ですが、扱いやすさは格段に向上しますね。」
「そんな事が出来るんですか?」
「義肢にも似たような機構があるので、その応用といった所です。ただ、威力に関して言えば、より使用者の意思を反映させやすい為、良し悪しはありますよ。今は実験なので、そこまでの力は出ないようにしてありますけど。」
だから義肢として動かせるのか。確かにそのまま扱うには、威力の調整等が出来ないと使った側にも危険が及ぶかもしれないから、制御は必要なんだろう。
「アル君!先程説明したように人形に打ってみて頂けますか?ある程度は貴方の意思で連射も出来るはずですから。」
シュウさんがそう言うと、アルは右腕に付けた籠手を人形に向ける。
それから、少し間を置いて軽く弦を引く動作をし、手を放すと光の矢が放たれ、人形に当たると光は霧散した。
それから、アルは数回連続で矢を放ち、試射を終えるとこちらに戻ってくる。
「大丈夫のようですね。」
「あぁ、威力は抑えてるって言ってたから、こんなもんなんだろうけど、確かにこれなら俺でも扱いやすいかもしれない。」
「形は決めてしまっている分、後は軌道と威力を思い浮かべるだけなので、戦いに慣れていなくても扱いやすいかと思います。具体的な形を思い浮かべなければ、暴発する可能性もありますからね。」
「なるほどな。じゃあこれからは、俺はこれを訓練に使えばいいのかい?」
「暫くは私と一緒に調整しながらになりますが、訓練で使用する事は伯爵様から許可を頂いてます。」
ちょっと待ってほしい。今、さらっと恐ろしい事を言っていなかった?
「あ、あのシュウさん?今、暴発って・・・。」
「あぁ、そのまま鉱石を使用した場合時々あるんですよ。目標が無い状態で放ってしまい、至近距離で効果を発揮してしまった事例が過去に何度もありまして・・・。」
「な・・・なるほど・・・。だから使う人が威力や目標に集中出来るように、形状を固定するんですか。」
「はい。その通りです。・・・アル君は大丈夫そうですから、次はイーオ様の番ですね。」
鉱石をそのまま扱うのは、思っているより大分危険だったという事か。
そんな話を聞かされた後なのにに、直接石を僕に渡してくるシュウさん。
あの・・・流石にその会話の後で、そのまま使うのはちょっと怖いんですけど?
「イーオ様の場合、既に制御されているような状態なので、暴発は無いと思います。盾や鎧を思い浮かべている訳ではありませんよね?イーオ様の仰る通りなら、そのお守りが制御しているのでしょうから危険はありませんよ。あっ、お守りは見える位置に掛けて頂けますか?」
僕の表情を見たシュウさんは、こちらを安心させるように穏やかな口調で話しかけ、数メートルだけ離れて僕と向かい合う。お守りの様子を観察するためだろう。
お守りを見えるよう掛け直した僕は、石の力を発現させるため集中する。
今回思い浮かべるのは、鎧だ。
何度か試してわかったのは、盾か鎧はどちらにするか僕が選べるという事だけだから、剣を扱いながら戦うなら全方位から守れる鎧の方が都合がいい。そして、鎧に関しては僕が触る分には何とも無いのも既に確かめてある。
でも、その判定はどうやっているのだろう?
無論、僕が意識している訳ではないから、その点は疑問だった。
「何度見ても、見事な全身鎧ですね・・・。何回も聞いて申し訳ありませんが、重くも無いんですよね?」
「えぇ、重さどころか、息苦しさもありません。でも、僕はこんな鎧知りませんよ?」
考え事をしながらでも発現させられる様にはなったけれど、この半透明な光る鎧は明らかに他の人が発現させた物とは違う。
顔の部分だけは覆われてはいないけれど、僕の動きを阻害する事もない。肩とか股関節とか、明らかに干渉しそうな部分はあるのに。
具体的な形を想像しなくてもいいのは楽だけれどね。
「・・・お守り、確かに光ってますね。それに、緑色だ・・・。」
「色がどうかしましたか?」
「あぁ、いえ・・・。大分前に見た事があるだけですから、関係性はわかりませんが・・・。イーオ様の場合、ある程度の大きさの鉱石を保持する為の装具だけで良さそうですね。」
「やはり、お守りが制御しているんですか?」
「はい、どうやらそのようです。イーオ様が発現させる少し前から光り始めましたので。・・・解除は出来ますか?」
鎧を解除?やった事は無いけれど、試してみよう。
しかし、どうしたらいいのだろうか?鎧を脱ぐ所を想像してみるか?・・・うーん、ダメみたいだ。
それから光が霧散していく所を想像したり、色々試しはするも消えない。木偶人形に体当たりでもしようかな・・・。
「出来ませんか?」
「出来そうにないですね・・・。」
「やはり、イーオ様の意思が介在していないという事ですか・・・。」
「結構不便ですよね・・・。」
発現させる度に攻撃を受けたりしないと解除出来ないのは、不便だと思う。
どうにかできないだろうか?
そう思いながら人形に触れて、鎧の反撃を発動させ解除する。
「次はそのお守りを身に付けずに、鉱石を発動させてみますか?」
確かに、いつも力を発現させた時は、お守りを身につけていたのでそれは試していない。
なので、アルにお守りを預け離れてもらい、発現してみたのだが結果は変わらなかった。
そのまま、館の辺りまでアルに移動してもらったりもしたが、ずっと光を放っていたそうだ。
「では、アル君がお守りを持った状態で、籠手を使ってみて頂けますか?」
今度は僕以外がお守りを使えるのかを試すが、お守りにはなんの反応もなかった。
「なるほど・・・。コレは、イーオ様専用という事ですか・・・。不思議ですね・・・。誰かから貰った物なんですか?」
「父さん曰く、僕を拾った時から持って居たと言ってましたから、恐らく伯爵に預けられた時から所持して居たのではないかと・・・。」
「・・・私はあまり事情をお聞きしない方がいい気がしてきました。それなら、伯爵様に由来を聞いてもわからないかもしれませんね。」
「僕もそう思います。」
「少なくとも、力の発現を補助しているようですから、イーオ様には鉱石を保持する為の装具のみ、お渡ししますね。」
「わかりました。」
実験を終え、訓練を続けるアルとシュウさんを残して僕は先に館へと帰る。
結局、僕には専用の武装は無いって事か。
それに、新しい謎が生まれただけで、お守りについてもよくわからなかったし。
一体、僕とお守りにどんな関係があるんだろう?
・・・そうだ、ディランなら何かわかるかもしれない。
そう思い至り、僕はディランの部屋へと向かう事にした。