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いつか、どこかで  作者: 眠る人
3/86

3 獣

 慎重に森の中を進むと、すぐに屈んで罠を仕掛けているアルの親父さんを見つける事が出来た。


「おじさん!」

「ん?・・・イーオか、どうした?」


「何か森の様子がおかしいと思ったので、相談をしようと思いまして。」

「なるほど、確かに鳥の鳴き声も聞こえて来ないし、木の実は落ちているのに小動物すら見ないから、なのだろう?」


「はい。気付いていたんですか?」

「勿論だ。ここ10年位はなかったが、たまにこんな事があるんだよ。獣達が身を潜めているのだろうな。」


 親父さんから今回が初めてではないと聞いて、僕は少し安心した。原因が何かはわからないから調べたいとは思うが、今は狩りの最中だから親父さんに指示を仰ごう。


「そうなんですか?だとすると、僕はどうしたらいいでしょうか?」

「とりあえず罠を仕掛けるだけ仕掛けて、今日のところは帰るとしよう。」


「わかりました。アルにもそう伝えますね。」

「あぁ、頼む。他の奴らにも見かけたらで構わないから伝えておいてくれ。恐らく、わかっているとは思うがな。」


「はい。では、僕は一度アルの所に戻ってから、別の場所に罠を仕掛けてきますね。」

「頼んだ。」


 親父さんからの言伝をアルに伝えるため、来た道を引き返す。

 先程までアルが居た場所にまで戻ると、彼が構えた矢を木に向かって放つ所だった。


「弓の練習?」

「イーオか。恥ずかしい所を見られたな。」


「何故?練習はいい事じゃないか。」

「親友が村一番の名手だから、俺も早く上達したいんだよ。その姿をよりにもよって本人に見られたんだから、恥ずかしくもなるだろう?」


「僕が一番?それはないよ。」

 確かに父に幼い頃から剣や弓は教わったけれど、剣ならともかく、弓は他の猟師の方が上手いと思うのだが。


「親父が言ってたんだ、ウサギぐらいの小さな生き物に、走ってても矢を当てられるのはイーオぐらいだって。お前が一番巧いのは親父達狩りで生計を立ててる人達が認めてるんだよ」

「当てられるのと、仕留められるのは違うと思うけど・・・?」


「当てられれば動きが鈍る。トドメはそれからさせばいい。」

 確かにそうだけど、村一番は言い過ぎではないだろうか。


「お前がどう思っているかは知らないが、イーオがこの村で一番の使い手なのは間違いない。大人でも難しい事を成人前から平気でやってのけていたんだからな。」

「人よりちょっと目が良くて、頑丈なだけだよ。」


 こうやって面と向かいながら臆面もなく言われると、流石に照れる。アルのいい所だとは思うけど。

 このまま居たらもっと恥ずかしい事を言われてしまいそうだから、親父さんからの伝言をアルに伝えて、僕も罠を仕掛けに行く事にした。


 何箇所かに罠を仕掛け終え、再びアルの元へ戻ると猟師の人達は全員戻ってきていて、何かを話し合っている。


「明日はもう少し森の奥に行ってみるしかないかもしれないな。・・・イーオ、戻ったか。」

「はい。罠を仕掛け終わりました。」


「今全員と相談していたのだが、明日もこの様子なら森の奥に行くしか無いと思うのだが、お前はどう思う?」


「何があるかはわかりませんから、今日のようにばらけるのではなく、全員で行くのがいいのではないでしょうか?安全を確かめてから、別々に行動しても遅くは無いと思います。」


「ワシと同じ考えか。よし、では今日の所は引き上げて、明日何も変化が無ければ改めて森の奥へ向かう事にしよう。」


 まだ日は高いけれど、武器の準備も必要だから仕方ないと思う。

 全く成果はなかったので、明日は使わないだろうから持ち込んだ罠の残りをまとめて持ち帰る。


 帰宅後、父に事情を話し明日は森の奥へ向かう事を伝え、父の手伝いをしてからその日を終えた。


 翌日も、何時ものように朝食作り、食べ終えてから森へ向かう。

 今日は動きやすいよう、外套は置いていく事にした。

 昨日と同じ場所には、既にアルと親父さんが来ていた。他の猟師はまだのようだ。


「おはようイーオ。・・・今日は隠さないんだな。」

「おはようアル。フードの事?動きにくいし、視界も遮られるからね。それに、アルなら悪くは言わないだろう?」


「違いない。」

「ワシらは気にもならないが、悪く言う連中が居るからな。イーオが隠したくなるのもわかる。」


「大丈夫ですよおじさん。白い髪は珍しいですから。」

「イーオが代官様の息子なのと、仕事を誰よりも良くこなすから言っているのは酒を作っているごく一部のみだ。気にするな。」

「はい、ありがとうございます。」


 本当、いい人達だな。

 その場で話しながら少し待っていると、残りの猟師の人達もやってきて全員が揃った。


「では、昨日の場所まで移動してから、様子を見て森の奥へ向かうか決めよう。」


 親父さんの一言で全員で移動を始めるが、昨日と雰囲気は変わっていない。アルが練習をしていた場所にたどり着き、近くの罠を全員で確認するも、成果はなかった。


「ここも成果無しか。」

「親方、奥へ行くしかありませんな。」


 罠が空振りだったからか、猟師の人達は森の奥へ行く事に決めたらしい。

 僕は余り奥へは普段立ち入らないから、アルと一緒に親父さん達について行く形になった。


 森の奥へと言っても、特に何か景色が変わるわけではない。

 小さな湖があると聞いた事があるくらいで、植生も変わるわけではないため、代わり映えのしない光景が続く。


 1時間程森の中を進むが、浅い所と同様に鳥の鳴き声もしない。どう言う事なんだろう?

 そのまま更に2時間程進んだ辺りで湖にたどり着いた。


「ここまで何も見かけなかったか?」

「小鳥ぐらいなら・・・。」

「うーむ・・・。もう少し進むべきかもしれないな。」


「親父、昼飯にしないか?そろそろ昼だぞ。」

「それもそうだな。よし、ここで一休みしたらもう少し進む事にしよう。」


 少し緊張感を緩め昼食を取るために荷物を開いていると、湖の対岸辺りに何か生き物のような物が見えた。

 真っ黒でなんなのかはわからないが、黒い何かが動いてているのだけはわかる。なんだろうアレは。


「親父さん!対岸を見てみてください!」

「なんだアレは?動物なのか?」


「わかりませんが、動いているので生き物でしょうね。」

「ん?なぁ、イーオ。お前の目でもわからないって、それ本当に生き物か?対岸までの距離ぐらいなら、なんの生き物かお前ならわかりそうなものだが。」


 アルの言う通り僕は目がいいから、対岸まで100メートルも無いこの湖なら判別くらいは出来るだろう。

 でも、僕にはソレがなんなのかはわからなかった。


「なぁ・・・何かこっちに近づいてきていないか?」


 ソレを眺めていたアルが恐る恐る尋ねてくる。確かに湖の外周に沿って、こちらの方に向かっているようにも見える。


「とりあえず、一度隠れて様子を見よう。」


 親父さんの発言に全員が同意し、広げかけていた荷物を再びしまってから木の影に隠れた。

 動きは早くないようだが、その何かは確実にこちらに近づいてきている。


 暫く物陰から様子を見ていると、先程まで僕達が居た辺りでその何かは停止した。

 僕はソレが何なのか確かめるために、もう少しだけ顔を出して確認をしてみる。


 ・・・猪?それにしては、大きいように感じる。

 近くまで来ているのに、真っ黒くて判別が付かない。その部分だけ空間に空いた穴のように見えて、輪郭ぐらいしかわからないのだ。


 アレは何なのだろうか?


 すぐ側の木に隠れている親父さん達も様子を伺っていたようだが、酷く困惑した表情を浮かべていた。


 行動は猪のように、僕達が居た辺りの匂いを嗅ぎ回っている。食べ物の匂いにでも釣られたのかと考えていたら、その猪のようなものは真っ直ぐ僕のいる方向に、頭と思われる部分を向けた。


 気づかれた!そう感じた瞬間、先程までと違い物凄い速度でこちらに向かって走ってくる。


「木に登れーっ!」


 誰かの叫び声が響き、僕は咄嗟に飛び上がると、太い枝を掴みよじ登る。


 すると、黒い何かは少し方向を変え、真っ直ぐ僕が登った木の方にぶつかって、止まった。

 木はかなり揺れたが、流石に頭から木にぶつかったのだから死んだだろう。


 そう考えたのも束の間で、なんとすぐに動きだして距離を取り、再び僕のいる木に向かって体当たりをしてきた。


 それから何度も繰り返し木に体当たりをする獣の異様な光景に、僕は恐怖を覚える。


「こんなの普通じゃない・・・。」


 僕は腰に差していた剣を抜くと、獣が体当たりをして停止する瞬間を狙い、飛び降りながら脳天に剣を突き立てた。


「イーオ!?」


 勢いよく突き立てたせいか獣の頭を貫通してしまい、剣は柄の部分から真っ二つに折れ、僕も勢い余って地面を転がる。


「いてて・・・。」

 かなり無茶な事をしたから、身体中が痛い。でも流石に、獣の方は生きてはいないだろう。


「イーオ!逃げろ!まだ生きてるぞ!」

 アルの叫び声が聞こえ、獣に振り向く。真っ黒の獣は頭から剣を生やしながらも、ヨロヨロと立ち上がろうとしている。


「イーオ!早く逃げるんだ!」


 親父さんの声に身体を動かそうとするが、身体中が痛むせいか上手く立てない。

 僕がもたついて居る間に、獣は体勢を立て直し今度は僕に向かって体当たりをしようと向かってきた。


 死ぬ。


 そう感じた瞬間、僕は何故か首から下げていた御守りのある辺りを、まだ動かせる腕で服の上から握り硬く目を閉じる。何故御守りを握ったのかはわからない。


 目を閉じた直後に轟音が響き、凄まじい衝撃に僕の身体が吹き飛ばされ、そこで僕は意識を失った。

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