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いつか、どこかで  作者: 眠る人
20/86

20 父と子と

 突然の伯爵の発言に驚いているど、伯爵は続けて話始める。


「今月はディランの誕生月なんだよ。今年成人の儀式を迎えたので、お披露目の場を設けない訳にはいかないんだ。その為、各村や町に配置している代官や、この街に別宅を持つ貴族を集めての催しが必要になる。だから、思いつき等ではないよ。」


「なるほど・・・。」


 成人の儀式は夏に行われ、その年に15になる者が対象で、本来ならその時にお披露目されるべきなのだろうが、よくよく考えれば王都に行っているディランさんの領地でのお披露目を学院の長期休暇中に行うのは不思議ではなかった。恐らく、儀式の後で学院でも何かしらの催しはしているだろうとは推測出来るけど、そちらとは別に領地で行う事も必要なのだろう。最初からそう言ってくれたらいいのに。


 学院は成人を迎えた貴族の子弟が通う場所で、領地運営や伝統を学び、他にも貴族間の繋がりを作る場なのだと伯爵は教えてくれた。


「基本的な知識や、読み書き計算はそれぞれの家で学んでくるのが前提だが、貴族としての在り方を学ぶ場所だと思ってくれたらいい。貴族として生まれたものの義務のため、リズやフィーもいつか通う事になる。」


「ん?伯爵様、それならイーオも通うべきなんじゃ?」


「それは、まぁ、そうなんだけどね・・・。イーオの場合、扱いにやや困る部分があるのだよ。お披露目には、キースの名代であるイーオが参加しさえすれば、本来呼ぶ必要はないが、キースの考えを一度知る必要があると考えている。既に手紙でこちらに来ると返事は貰っているから、弟が来た時にイーオを交え三人で今後どうするかを話合いたいと思っているんだ。」


 伯爵は寂しそうな表情で、そう告げる。

 少し考えれば、幾ら伯爵が父に拘っていたのだとしても、僕を利用してまで呼び戻そうとするのは不自然だと思う。何故そんな風に感じたのだろう?


 それと、伯爵や父が哀しげな表情をしていた事に、漸く合点がいった。

 僕の扱いに困っているのは、父ではなく伯爵の方で、このまま伯爵の実子扱いだと貴族の子弟としての義務が発生してしまうために、父と話合う必要がある。

 父の実子の扱いなら、その辺りは問題ないけれど、その為には父が未婚のままでは出来ない訳で・・・、なんか混乱してきたな・・・。もっと早くこの問題が話合われるべきだったんじゃないのか?


「今の所は、武官としての修行をキースの元でしているという建前があったために誤魔化す事も出来ていたが、流石に私の実子のままでは義務からは逃れるわけにはいかない。イーオも、自分がどうしたいのかを考えておかなければならないよ。キースの子供として生きるのか、私の子供として生きるのかをね。」


「突然そんな事を言われても・・・。」


「無論、直ぐに答えを出す必要はない。学院の入学式は6月なんだ。流石に私の実子として生きるなら、イーオにも通って貰わなければならない。だから、それまでに決めなければいけないのだよ。イーオは来月には17になるのだから。・・・イーオがこのままなら、選択しないといけないんだよ。」


 もしかすると父は、こうなるのがわかっていたから、寂しそうな表情だったのだろうか?

 最後の一言は気になるけれど、あやふやなままこうしている訳にはいかないのはわかった。


 そして、この話を聞いた事で、いくら僕が村に帰りたいと思っていても、父が望まない限り帰る事が出来ないのだと気付く。


 父の元でこれまで通りひっそりと生きるか、伯爵の元に留まり貴族の子弟として生きるか・・・その事を、選ばなくてはいけない。


 父と共に村で生きる事を選択すると、自分の身体が普通とは違う事や、あの夢についても二度と知る事が出来なくなるのでは?という考えも頭をよぎった。




 それから、何日も考え続けたけれど答えが出る筈もなく、ただただ時間だけが流れていく。

 僕の様子がおかしいと、リズやサリーナさんが心配してくれていたけれど、相談も出来なくて申し訳なく思うが、話す訳にもいかなくて、余計に心配させてしまったりもした。



 そして、伯爵に告げられてから何日か経った今日、父が話合うため早めに到着する事になる。

 表向きは足の事があるから、早めになのだそうだ。


 でも、僕はどんな顔をして父に会えばいいのだろう?


 考えが纏まらないまま、父が到着する事をアーネストさんが伝えにきて、出迎えのために僕も玄関に向かう。


 玄関には既に伯爵や、リズやノエリアさん達が待っていて、馬車ももう暫くすると到着するようだ。

 父が到着次第、伯爵の執務室で三人で話合う事になっている。


「キース叔父様とお会いするのは初めてなので、緊張致します。かなり有名な剣士だったと伺っておりますし・・・。」

「父さんは優しいから、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。」


 少し緊張している様子のリズにそう言いはしたものの、僕も違う意味で緊張していた。これからの生き方を選ばなくてはいけないのだから、仕方ない。


「・・・イーオ、表情が固いぞ。それではキースも心配するだろう?」

「・・・はい。」


 そう僕に注意をする伯爵の表情も固い。


 16年以上顔を合わせなかったのもあるだろうけれど、今日話す内容の事もあるので、無理もないだろう。

 リズはノエリアさんや、アーネストさんに父がどう言う人物だったのかを聞いている。


 僕と伯爵には、聞きづらかったのだろうな。


 そうして暫く玄関で待っていると、馬車が到着した音が聞こえた後、兵士が扉を開け、キランさんに手を借りながら馬車を降りた父が、館へと入る。


「兄上、ご無沙汰しております。義姉上もお変わりないようで何よりです。」

「キース・・・。よく、来てくれたな・・・。急に呼び出してしまい済まない。」


「兄上、本来なら代官として、こちらに何度も足を運ぶ機会はありましたが、今の今まで参上せずにいた事をお許しください。」


「それは構わない。お前が元気で居てくれさえすれば、私にはそれで充分だよ。」


 父は気まずそうに、伯爵は嬉しそうに挨拶を交わし、伯爵は軽く父を抱きしめ、父の姿を見れた事を喜んだ。


「キース様、遠路遥々よくおいでくださいました。着いて早々ですが、お話合いの前にまずは娘達の紹介をさせて頂きますね。」


「キース叔父様、お、お初にお目にかかります。私長女のリゼットと申します。」

「わ、私は、次女のフィオナと申します。」


 父は二人の挨拶を聞いた後、柔かに微笑みながら、自己紹介をする。彼女達は父の柔らかな笑顔で、緊張も解れたらしい。すると、リズがモジモジとしながら父に話しかけた。


「キース叔父様、ご報告させて頂きたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」


「リゼット様、どうかされましたか?」

「叔父様、私の事はリゼットで構いません。・・・実はこの度、イーオお兄様と婚約致しましたので、私もキース叔父様をお義父様と呼ばせて頂きたく存じます。」


 リズの突然の発言に、父は酷く混乱した様子で僕を見る。リズさん、何故今それを言うのかな?


「・・・なんだって?イーオ、どう言う事だ?」

「その辺りの話は、私から後でしよう。キース、まずは風呂にでも入って旅の疲れを癒やしてくるといい。」


 僕を問い詰めようとしている父を伯爵が制すると、アーネストさんが父を連れてその場を後にした。

 父の姿を見送った後、僕はリズを問いただす。


「ねぇ、リズ?何で婚約の話を一番最初にするのかな?」

「お兄様のお父上なのですから、お義父様とお呼びするのが適当だと思います。」


「いや、そうじゃなくて、何故婚約した事を今言うのかな?」

「私との婚約がそんなに嫌ですか?」


 リズは悲しそうな表情になりながら僕を見つめる。


「嫌じゃないよ。寧ろリズは可愛いし・・・ではなくて、何も今言わなくても・・・。」

「あら?お兄様に可愛いと言って頂けるなんて、光栄ですわ。それに、いつ伝えたとしても変わりませんし、私は事実をお伝えしただけですよ。」


 僕の発言で、彼女はすぐ嬉しそうな表情になった後、伝える事を伝えただけだと悪びれずに言い放つ。

 確かに事実なんだけれど、父に後でなんと説明するべきかを思うと、頭が痛くなる。


「では、私とイーオは執務室に行くから、お前達も戻りなさい。」


 伯爵の一言で僕以外の全員が自室に戻り、伯爵は僕を連れて執務室へと向かった。

 僕がどうしたいのか・・・。未だ僕は、その答えを見つけられてはいないけれど、まずは伯爵と父の話を聞かなくてはいけない。


 僕に選択する権利があるのかは、わからないけれど。

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