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いつか、どこかで  作者: 眠る人
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2 夢

 僕を上から覗きこみながら、泣きそうな顔で必死に何かを話す女の子。


 またこの夢か。


 村の子供達に建国のお伽話をした時は、必ず決まってこの夢を見る。


 美しい銀色の髪をしていて、かなり幼く見える女の子なんだけれど、今までにそんな髪を持つ少女になんて僕は出会った事はない。


 夢なんて見た事は覚えていても、夢の内容までは目が覚めたら忘れてしまうものなのに、この夢だけは目覚めてもはっきりと覚えていた。


 勿論、夢の中だから僕は身体を動かす事も出来ないし、彼女が何かを話している事はわかるのだけれど、何を言っているのかまではわからない。


 毎度の事ながら、不思議な夢だと思う。

 こうして薄ぼんやりとだけど、考える事だって出来るんだから。


 この子は誰なんだろう?とか、どうして僕は同じ夢を何度も見るのだろう?とか、ぼーっと考えているうちに、この夢の終わりが近づいてきた。


 段々、自分の意識がはっきりとしていく感覚がやってきて、少しずつ視界が暗くなる最中、何故か一言だけ聞こえてくるんだ。


 ・・・いつか、どこかで・・・


 不安になるくらいにか細くて、且つ悲しそうな声で、唯一分かる一言が聞こえると、僕はいつもそこで目を覚ます。


「また、か・・・。」


 何度も同じ夢を見るが目が覚めた後には必ず、何か自分にはしなければならない事があるという焦りと、凄く切ない気持ちが同時に襲ってくる。


 夢なのだから、馬鹿らしいと一蹴してしまえばいいのだろうけれど、そんな風に考える気にもならない。

 こんな時は幼い頃から付けているお守りを握ると、何故か心が落ち着くんだ。誰かに守られているような、そんな気持ちになる。


 父に拾われた時には、既に首にかけられていたそうだが、このお守りも一体なんなのだろうか。

 緑色の小さな棒のようなもので、中は空洞になっている。首からかけられるように紐を通す穴が空いているけれど、金属なのかもわからなかった。


 ふと、窓の外を見ると外は少し明るくなってきていたので、起きて朝食の準備をする事にした。このままベッドにいても、憂鬱な気分のままだろうから。


 朝食の準備を整え父が起きてくるのを待つ間、前から少し気になっていた事を考える。お伽話について、僕の話す内容と他の人が話す内容は少し違うんだ。


 他の人が話す内容だと、神様は少年と一緒に暮らしてなんか居ない。僕もその部分を変えて話せばいいのだろうけれど、どうしても変えたくなかった。僕は誰からこの話を教えられたのだろうか?


「おはようイーオ。早いな・・・今日も例の夢を見たのか。」

「おはよう父さん。まぁ、何時もの事だから。」


 父には夢の女の子について、心当たりがないかは何度か尋ねた事がある。でも、父も心当たりはないらしい。


「もしかすると前世の記憶、なのかもしれないな。」

「そうかもしれないね。父さん、朝ごはん出来てるから、食べようよ。・・・あぁそうだ、今日は他の猟師の人達と冬籠りの為の今年最後の狩りの相談をしてくるから、お昼は用意しておくね。」


「もうそんな時期だったな。まぁ、税の目録を作っているのだから、当然と言えば当然か。」


 僕の家は父さんが代官だからと言うのもあるけれど、金銭での納税になっている。代官としての給金もあるらしいから、そちらでどうにかなっているようだ。


 この村では商業をやっている家はないので、野菜の塩漬けや干し肉、果実酒等で納めるのが基本となっている。どうしても出せない家がある場合は、僕の狩りの成果を代わりに納める事もあった。今年は野菜が豊作だったから、その必要はなかったけれど。


「多分、夜には帰ってくるよ。」

「猟師をやっている連中はお前を認めている者達だから、悪く言う事もない。私は気にせず、たまにはゆっくりしてくるといい。」


「ありがとう、父さん。」


 何時も冬籠りのために狩りの計画を立てる時は、成功祈願と称して夜は宴会をするのが通礼になっている。

 今までは父さんの事もあるし、去年まで僕は未成年だったからそちらには参加していなかったんだけれど、今回は父さんのお言葉に甘えるとしよう。お酒も飲んでみたいし。


 朝食の後父さんの昼と夜の分の食事を用意して、フードの付いた外套を纏い、村の集会所へ向かう。


 広場の近くにある集会所に到着すると、建物の前で猟師をしている人達と僕の幼馴染みの合わせて4人がすでに集まっていた。


「遅れてすみませんでした。今年はこれで全員ですか?」

「おぉ、イーオ。今皆集まった所だよ。親父さんは来ないのかい?」

 僕だけが現れた事で最年長であり、幼馴染の父親でもある猟師のおじさんが尋ねてきた。父さんは村のまとめ役でもあるから、当然だろう。


「はい、皆さんから集めた物の目録を作ってますから、今日は参加出来ないようです。」

「それは残念だ。なら、今日の宴会は代わりにイーオが参加するのか?今年うちのと一緒に、成人の儀式をしたもんな。」


「はい。そのつもりです。」

「今年は豊作だったから、狩りに出る者が少なくて寂しいと思ってたんだ。村の若者への祝いを込めて、少ない人数ではあるが盛大にやろう!」


「あはは・・・。お手柔らかにお願いします。」

「親父、イーオが困ってるから程々にな。」

「ありがとう、アル。」


 幼馴染みのアルドはちらを見て少し笑顔で頷く。寡黙だけれど、僕の数少ない友人なんだ。


「親父、全員揃ったなら今年の狩りの計画をまず立てよう。」

「そうだな。とりあえず中に入ろうか。」


 建物の中に入り、椅子に腰掛け、狩りの相談が始まった。


 僕の暮らす村は領地の外れにあり、街道の終着点の町から更に小さな道を進まなければならない。かなり広大な森に囲まれ、その向こうには険しい山々がそびえ立つ。

 町から来る道は大きな森の側を通るのだが、森自体は豊かで森の浅い場所では余り大型の獣も出ないため危険はない。

 しかし、人口が余り多くはないので行商は偶にしか来ないのだ。


 何故そんな所に村があるのかと言うと、豊かな森で獲れる果実を使った酒を作るためらしい。名産とも言える果実酒なのだが、流通は父を代官に据えた貴族が行っているため、勝手に売る事は出来なかった。だから余計に他所から人が来ないのだ。


 そこそこ重要な場所だと思うけれど、そんな村を任される父は一体何者なんだろうか?


 ぼーっとそんな事を考えている間に、大体の計画が纏まる。僕は何もしてはいないけれど毎年大体一緒なので、特に何かしなければならない訳でもなかった。


 ほぼ、宴会のための集まりだと言ってもいい。

 口実があれば、果実酒が振る舞われるからね。


 僕の役割は肉食の獣を狩る事や、アルと二人で血抜きと皮剥ぎをする事で、そちらも毎年やっているから慣れたものだった。


「それでは三日後から、1週間程冬籠りのための狩りを行う。」

 アルの親父さんが狩りのまとめ役な事もあり、父さんが来てもする事がないので他の仕事をこなしているんだろうな。


「それでは、今年も狩りの成功を祈願して神様への祈りと酒を奉納する。そこでイーオ、お前さんが親父さんの代わりに仕切ってくれ。」


「僕ですか?」

「そうだ。イーオももう成人したのだから、親父さんの名代として、そう言う事を行う機会が今後幾らでもあるだろう。だから、慣れないといけないぞ。親父さんにも伝えてあるから気にするな。」


 確かに、これからは足の不自由な父の代わりを務める事は増えるだろうな。

 見様見真似だけど、今回は人も少ないから初めて父の代わり務めるにはいいのかもしれない。


 集会所には簡易の祭壇のようなものがあって、そこに酒を並べ、神様へ感謝の言葉と、無事狩りが終わるようにお祈りをした。

 でも、何故だろうか。

 お祈りをしている最中、夢で見た女の子の姿が思い起こされたんだ。


 その後、宴会にて奉納した酒が振る舞われ、僕も成人してから初めてお酒を飲んだ。

 酸味が効いているが、甘く飲みやすい。

 これなら、皆飲みたがるわけだよね。でも、皆より沢山飲んだはずなのに僕は全く酔う事はなかった。僕はお酒に強いのかな?


 それから数日が経ち、いよいよ今年の狩りが始まる日がやってくる。


「イーオ、気をつけてな。」

「はい。と言っても、獲物が獲れ次第うちの解体小屋に運び込むので、遠くに行くわけでもないですけど。」


「それでもだよ。お前は私の自慢の息子なんだから。」

「はい!それじゃあ、行ってきます!」


 父に自慢の息子だと言われ、僕はつい嬉しくて少し気持ちが昂った。


 僕の家は森の側で敷地も広く解体用の小屋もあるため、狩りが行われる際にはよく利用される。僕が狩りに参加するようになる前からそうだったし、小さい頃から解体を手伝っていたから、慣れてはいる。でも油断しないようにしないといけない。


 森の入り口では、既に皆が集まっていた。


「イーオ、来たか。親父さんと話をしているのを見かけたから、もう少しかかるかと思ったが早かったな。」


「すみません、遅くなってしまって。」


「いや、お前さんはよくやってくれているよ。子供達の世話や、畑の手伝いまでしてくれていて、更には狩りでも誰より成果を出すのだから。これはワシらも負けて居られないな!」

 他の猟師達も口々に同意をしてくれて、僕はまた嬉しいと感じていた。


「僕にはそれくらいしか出来ませんから・・・。でも無理はしないでくださいね。」


 こんないい人達が怪我をする所なんて、見たくないからね。


「それは勿論だ。では行くとしよう。役割は話した通りだから、アルは連絡役兼解体小屋へ荷物を運ぶ役だ。イーオは獲物が増えたら、アルの手伝いを頼む。」

「わかりました。」

「俺は親父達程、弓は使えないからな。任されたよ。」


 森に入って手分けをして狩りを始めたけれど、何か様子がおかしい。

 小動物の姿どころか、鳥の鳴き声も聞こえて来なかった。


 どうしたのだろうか?辺りを暫く観察するが物音もしない。念のため通り道だと思われる箇所に罠を作り、場所を移すも何処も同様だった。


 一度、アルの場所まで戻ろう。


「アル、親父さん達は戻ってきたりしてる?」

「まだだな。まだ1時間位だから幾ら何でも早すぎるだろう。」


「いや、そうじゃなくて。森の様子がおかしいんだ。鳥の鳴き声すら聞こえて来ないから。」

「鳥の?・・・言われてみれば確かに。静かすぎる。」


「親父さん達を探しながら、少し様子を見てくるよ。」

「わかった。気をつけてな。」


 普段とは違う森の様子が不気味に感じ、言い様のない不安に襲われながらも僕は再び森の中へと足を踏み入れた。

 もしかしたら、大型の獣でも現れたのかもしれないから、いつでも逃げられるようにしておかなくては。


 そう思いながら、腰にさしている剣に手をかけて慎重に森を進んだ。

補足

15歳になり成人の儀式をしたとしても、次の年明けまでは未成年扱いです。


数え年と、誕生日の概念が合わさったものだと考えて頂けると幸いです。

なので、現時点でイーオは16歳となります。

儀式にも種類がありますので、成人の儀式=15歳ではありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] おっと、不穏な空気になってきましたね……。 ちなみにハッピーエンドのつもりですか?それともバッド?答えたくなければいいですが、少し気になったので……。
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