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いつか、どこかで  作者: 眠る人
19/86

19 アル

「確かに、イーオの言う通り美味いな。」

「よかった。きっとアルも気に入ると思ってたんだ。」


 今日は騎士団での訓練が行われないために、朝食後に部屋に居たアルを連れ出して街に出かけていた。

 なんでも、村の側の山岳地帯で鉱石が見つかり、そのため伯爵も合わせての会議が行われているのだそうだ。


 現状騎士団の指揮権は伯爵にあるので、領地運営だけでなく、こう言った場合にも伯爵の手腕が求められる。

 その場合は、他の兄弟に領地運営を任せているらしい。


「アルさん、訓練の調子は如何ですか?」

「・・・最近、イーオの強さが異常だと解るようになったぐらいだな。サリーナさんにもまだまだ及ばない。」


「なるほど・・・。実力差が解るようになっているのであれば、訓練は順調なようですね。」

「二人の模擬戦をたまに見るが、正直速すぎて参考にもならん。イーオが遙か先にいる事しかわからないな。」


「私も、未だに受ける事だけで精一杯ですよ。イーオさんの訓練相手にはなって居ないと思います。」

「謙遜だな。副団長が、近いうちにサリーナさんにも負けるだろうとこの間言っていたぞ?現状、団長やサリーナさん以外には、イーオの相手は務まらない。」


 実際、ファンさんにもあれから何度か相手をして貰ったのだが、サリーナさん程は僕の剣を上手く捌けなかった。キランさんも、ここ最近になって一度だけ相手をしてくれた時は、試合うまでは自分相手に本気は見せないでくれと頼まれたため、全力ではなかったにしろサリーナさんより上手く返していたが、それは僕の太刀筋が父と似ているからなのだろう。


 恐らく、僕の速度に日々慣れていて、徐々に返し方も上手くなってきている彼女なら、遠くないうちにファンさんに勝てるようになるのではないだろうか。


「サリーナさんに相手になって貰えて、僕はかなり助かってるよ。本来なら、女性に頼むべきではなかったと今は反省もしてるけど、受けの上手いサリーナさんを相手にしているからこそ、僕も成長していると感じられるんだ。いつも相手をしてくれてありがとう。」


 僕がそう伝えると、彼女は嬉しそうな表情で役に立ててよかったと言って、微笑んだ。


「恋人の会話には聞こえないな。イーオ、彼女をちゃんと大事にしてやれよ。・・・だが、いつか俺もイーオに挑みたい。いや、いつかじゃないな。獣の討伐の日取りが決まったら、その前に俺と手合わせをしてくれないか?」


 僕と彼女のやり取りを見ていたアルが、やれやれといった表情をした後、急に真剣な表情で僕に試合ってくれと頼んでくる。


「アルと?構わないけれど、急にどうしたの?」


「ずっと、考えていた。今のままでは、俺が一緒に行ったとしても、足手纏いになるだけだ。だから、お前の目で俺が前線で一緒に戦えるのかどうかを判断してくれ。イーオが無理だと判断したら、その時は悔しいが俺は後方からの支援に回る。それまでは鍛えられるだけ鍛えるつもりだがな。」


「・・・わかった。勿論、本気でやれって事だよね?」

「あぁ。」


 キランさんが前に言っていた、僕の出番って恐らくこの事だ。なら、僕はその気持ちに応える事で、親友の覚悟を見届けるしかないだろう。


「お二人は本当に、仲がいいんですね。」

「腐れ縁だ。」


「そんな言い方はないんじゃない?僕はアルを大事な親友だと思ってるよ。」

「お前はよく臆面もなく、そんな恥ずかしい事を言えるな。」


「アルも大概だと思う。」

「・・・違いない。」


 最近余り一緒に行動していなかったし、必死に毎日訓練をしていたけれど、アルはアルのまま何も変わってはいない。

 その事が嬉しくて、つい笑ってしまうと、僕達のやり取りが面白かったのか、サリーナさんもつられて笑いだし、アルも少し笑顔になる。

 なんか、いいな。こういう時間って。


 その後すぐ、仕事が落ち着いたらしいニーナさんが再び現れ

 僕達が笑っていた理由を聞いてくるが、上手くは説明出来なかった。



 それから、アルに街を案内してから館に戻ると、少しむくれているリズが玄関で待ち構えていたが、噂もあるから連れて行く訳にはいかない事を話すと渋々納得してくれて、前回買う事が出来なかった揚げ菓子をお土産として渡すと、機嫌を直してくれたようだ。


 その後、夕食を摂り、入浴を済ませてから、伯爵の執務室へアルと二人で向かう。

 今日会議が行われていたため、恐らく獣討伐に関しての話なのだろう。


 執務室の前には伯爵の従者の男性がおり、僕達が来た事に気付くと、部屋の中にいる伯爵へ僕達の代わりに声をかけてくれ、入室を促されたので中へと入る。


「二人共待っていたよ。さあ、そちらに掛けなさい。」


 僕達は執務室にある長椅子へ並んで腰掛けると、向かい側の椅子に伯爵が座った。


「まず、すでに察しているとは思うが、エピナルの村の近くの山岳地帯にて例の鉱石が見つかった。」


「はい。なので今日会議があったのですよね?ですが、わざわざそれを伝えるためだけに、呼ばれたわけではないのでしょう?」


 伯爵の口から説明しなければならない理由があるのだろうか?


「君達を会議に呼ばなかった理由は、全軍の数や、兵装、騎馬の数等の情報にも触れるため、機密を漏らす訳にはいかなかったからなのだが、そこは理解してほしい。無論、イーオの言う通りこんな話を伝えるためではないよ。」


 それは仕方ない事だろうけど、何か問題でもあったらしく伯爵の表情は険しい。


「かなり、不味い事になっているかもしれない。私は他の地域での制圧した際の話を聞いていて、多くても黒化した獣が100程度だと言われていたのだが・・・。」


 あの猪のような獣が・・・百匹もいるだって!?


「そんな!あんなのがそんなに居たら、村が!?」


「まぁ、待ちなさい。話は最後まで聞きなさい。黒化した獣は基本生命体としては死んでいる状態だ。だから、冬の只中や、春になってからなら黒化した小さな獣の数は少なくなっているので、そこまでの数になる事はない筈なんだ。」


「では、数が100以上居たと言う事ですか?」


 数が想定より大分多かったために、伯爵の表情が固いのだろうか?


「いいや、逆だ。周辺には少し居たらしいが鉱石が見つかった場所には、一体のみだそうだ。だが・・・。」


「一体だけ?随分と少ないんだな。」


「その一体が問題なのだよアルくん。報告書では、まるで伝承に出てくる龍のように巨大な生物、とある。鉱石が見つかった洞窟の奥の広大な空間に、眠るよう存在するそうだ。」


 龍のような生き物?そんな物は子供に聞かせる英雄譚ぐらいにしか出て来ず、実際には存在しない物だと思っていたけれど。

 余りにも現実感がない話のせいで、僕とアルは思わず呆然としてしまう。


「私も、君達と似たような表情をしていたのだろうな・・・。無理もない。私だって未だに信じられないが、巨大な獣には違いないらしい。しかも通常の黒化と違い、表面が波打つように蠢いていたそうだ。死体でもない巨大な何か、か・・・。一体何が起きているのだろうな。」


 僕達に聞かれても何が起きているのか、解る筈もないのだが、伯爵は僕達に答えを求めている訳ではないのは解る。


「なので、そのままにしておく訳にもいかないため、討伐隊の編成を行う事になった。無論、騎士団で鉱石を扱える者は全員が参加する。後は、私の伝手を使い念の為援軍を呼ぶ事にもなった。そして、君達にも参加を要請したいと思い、此処に呼んだんだ。・・・だが、私の本心としては成人したばかりの二人には参加して欲しくはない。でも、君達は行くのだろう?」


 何が起きるのかわからないけれど、村の近くにそんなものがいるのなら、見過ごす訳にはいかない。


「はい。」

「そのための訓練、です。」


「そうか・・・。君達用の武器は今手配している。王都からもう暫くすれば技師が到着する筈だ。力の強い君達なら、無事に討伐出来ると信じている。」


「解りました。では、その技師の方が到着したら、また詳細をお聞かせください。」


 そう言って話を締めくくった後、僕は噂を流したと思われる張本人を問い詰めようとしたのだが、伯爵は話がもう一つあると言い、やや嬉しそうな表情になった。


「実は、来週辺りに私のもう一人の息子であるディランが、学院の長期休暇に入るためにこの館に帰ってくるんだ。そこで、キースも招待して、盛大な催しを行うつもりなのだが、君達も参加しないか?他の代官達や兄弟も呼ぶから、キースも来ない訳にはいかないだろう。」



 この人、突然何を言い出すんだ?

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[一言] お疲れさまです! 伯爵様キースの事どれだけ好きなんだ……!
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