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いつか、どこかで  作者: 眠る人
18/86

18 リゼット2

 翌朝、話声が聞こえた事で、僕は目を覚ます。

 声の方向に視線だけを向け確認すると、サリーナさんがリズの従者を務める女性と話をしていた。


 何故かサリーナさんの顔が赤いように見えるのだが、どうやら女性が朝食を運んでくるまで、3人同じベッドで寝ていたらしく、その事で彼女は女性にからかわれているのだと、聞こえてきた会話の内容から分かる。


 普通であれば、リズも一緒に寝ていた事は大問題のはずだ。

 しかし、女性がサリーナさんを揶揄っている以外には、特に騒ぎもしていないので、昨晩リズが言っていた伯爵公認という話は本当なのだろう。


「お兄様も、起きられたのですね。おはよう御座います。」

「おはようリズ。・・・でも、なんで小声なの?」


 先に起きていたらしいリズが、僕も目を覚ました事に気付いて小声で話しかけてくると、僕も思わず小声で挨拶を返す。

 しかし、僕の質問に彼女は困った表情で首を僅かに横に振り、口元に人差し指をあて、僕も静かにするようにと伝えてきた。


 なるほど、僕と同様に二人が話しているために起きるに起きれなくて、内容も内容だから仕方なく話し終えるのを待っているのだろう。


「サリーナ、貴方は昨夜イーオ様の手を握りながら起きるまで側に居ると言っていましたよね?先程から聞いているように、何故お嬢様と共に貴方までイーオ様と寝所を共にしていたのですか?私には貴方が夜這いをかけたとしか思えませんよ?サリーナは一度眠ると中々起きませんので、自ら抱きつかないとあの様な状況にはなりませんよね?」


「あー!もうっ、さっきから似たような質問ばかりでしつこいよ!なんであたしまでベッドで寝ていたかなんて、どうでもいいじゃない!それに、あたしは夜這いなんてしてないわよ!」


 余りにしつこく聞かれたからか、サリーナさんは更に大きな声で抗議をするが、一緒のベッドで眠るのはどうでもいい事ではないと思う。

 僕は、二人の寝息に凄くドキドキしてしまって、中々寝付けなかったのに。


「騒がしいですよ二人共、大声を出さないで頂けませんか?お兄様が起きてしまわれますわ。」


 リズはこの会話の流れを余り良くないと考えたらしく、二人の大声で目が覚めたかのように煩わしそうな声を上げながら上半身を起こし、二人に注意をする。


「マイ、サリーナがベッドに居たのは、お兄様が夜中に一度目を覚まされた時に、サリーナをベッドに寝かせたからですわ。私が見ておりましたので、間違いありませんよ。」


 リズの従者はマイさんと言うのか。


「おはよう御座いますお嬢様、騒ぎ立ててしまい大変申し訳ございません。」


「全くです。マイらしくもない。サリーナも恥ずかしいのは判りますが、少し考えてから発言なさい。お兄様は昨日体調を崩されたばかりなのに目の前で騒ぐのはもっての外ですし、貴方はお兄様の従者なのですから、そのような言葉遣いは改めなければ、お兄様にご迷惑がかかるのですよ?」


「リゼット様、大変申し訳ございませんでした。」


 リズに言葉遣いを注意されたサリーナさんも、マイさんに倣って謝罪をした後、頭を下げる。確か、アーネストさん曰く、従者の失態は仕えている主人の失態でもあるのだから、その事を忘れてはならないと、昨日街に出る際の会話で言っていた。


「今回の事は大目に見ますので、マイもサリーナがベッドに居た事は他言無用ですよ。彼女がふしだらな従者だと思われでもしたら、彼女だけでなく彼女の身元を引き受けているアーネストにまで類が及びますわ。」


「かしこまりましたお嬢様。」

「では、この場はサリーナに任せるとして、マイは先生へ本日の授業をお休みさせて頂く旨を伝えてきて頂けますか?もう間も無く、お見えになられる筈ですから。」


 リズに言伝を頼まれたマイさんは、返事の後に一礼をしてから退出した。


「・・・なんとかなりましたね。しかし、余りこのような物言いは好みではないのですが・・・。サリーナ、貴方はもう少し思慮深くならなければなりませんよ?お兄様の側に居たいのであれば、恥をかかせるような真似は慎みませんと。」


「はい・・・。誠に申し訳ありません。」

「分を弁えろなどと言う気は毛頭ありませんわ。人の恋路はなんとやらと申しますし。・・・でも、食事を運んできたのが、私の従者で助かりました。他の者ではこうは参りませんでしょう。貴方の気持ちを知っていたのに、私が今回のような手段を取ったのが原因ですから、私も少し自重しなければなりませんね。」


 今更自重したとして既に手遅れな気がするのは、気のせいだろうか?

 それから、僕も起きていた事を知らされたサリーナさんが青い顔で僕に謝罪をしてきたけれど、僕は責めるつもりはなかった。リズも怒っていたと言うより、従者を持つものの義務で仕方なく叱ったようだったので、それ以上その場で何かを言う事もなかった。





 あれから二週間が経過したのだが、サリーナさんの悪い噂がたつ事はなく、代わりにリズが婚約したと言う話題が、街中に広まっており、相手が誰かの発表は伯爵からされてはいない為、街中その噂で持ちきりなのだそうだ。


 何故その事を僕が知っているのかと言うと、現在進行形で聞かれているからである。


「ねぇ、イーオさんはリゼット様の婚約者を本当に知らないの?」

「う、うん。ニーナさん、そんなに気になるの?」


「当たり前だよー。このクラマールの街だけじゃなくて、伯爵領全体がその話題で持ちきりなんだから。うちにくる行商人も私やお母さんに聞いてくるぐらいよ?」


 やはり、手遅れだったらしい。だが、相手は秘密になっていて誰もその正体を知らないので、ニーナさんもあまりにお客さんが頻繁に聞いてくるので気になっていた所に、僕がアルとサリーナさんを連れて来店したため、確認しているようだ。


「サリーナちゃんも、こんな綺麗な恋人が出来たし、リゼット様も婚約者が出来たらしいし・・・。羨ましいなぁ・・・。」


 綺麗・・・?それは、男性に使う言葉ではないような?


「恋人って・・・。私じゃ不釣り合いだって言ってるじゃない。ほら、ニーナちゃんは仕事に戻りなさいよ。」


「そうか?俺は、サリーナさんとイーオはお似合いだと思うぞ。」

「アルさんまで!やめてよ!」


 少し嬉しそうに見えるのだが、僕も悪い気はしないため、敢えては訂正しない事にした。


「アルドさん、だっけ?やっぱりそう思うよねー!美女と美少年って感じで!イーオさんって、背はかなり高いのに顔が可愛くて、なんかこう、その落差がたまらないとのよね。だから、サリーナちゃんも守ってあげたくなっちゃったんじゃないの?イーオさんが女の子の格好したら、凄く似合いそう。」


 成人した男に向かって可愛いはやめて頂きたい。後、最後の一言は本当にやめてほしい。


「俺はアルでいいよ。守ってあげたく・・・ね。顔は女っぽいが、こいつとんでもなく強いから、いざとなると守られるのは俺たちだな。」

「そうですね・・・。未だに手合わせをしても、少しでも本気を出されると、一瞬で負けますし。人の動く速度じゃなくて、ねこさんとかの動きに似てる気がします。・・・実は一度、イーオさんに私の制服を着せてみたいと思ってるんですよね。」


「傍目から見ても、何してるのかわからない時があるしな・・・。昔から思ってたが、どうなってるんだ?お前の身体。・・・こいつなら、女中服は似合い兼ねないけど、流石にそれはやめてやれ・・・。」


 それは僕が知りたい事だ。とは言えなかったが、そんなに早く動いてるのだろうか?後先考えなければ、まだ速度はあげられるけれど、それはそのまま隙に繋がるから、父の教えを守る僕は普段は絶対にやらない。


 アルはともかく、サリーナさんの言い方は冗談に聞こえないよ。


「やっぱり伯爵様が公表するのを待つしかないのかぁ。・・・もしかしてイーオさん、だったりして。兄妹同士の許されざる関係!そして、サリーナちゃんの恋の行方は!?・・・とか、どう?」


 ニーナさんの発言に、思わず僕とサリーナさんはびくっとしたが、彼女は目を閉じて両手でお祈りをするような格好だったために、気付かれてはいないようだ。危なかった。


「・・・伯爵様は婚約の事すら言ってないから、本当に婚約したかどうかも怪しいがな。」

「下手な三文小説みたいな事言ってないで、さっさと仕事に戻りなさいよね。」


「はーい。じゃあごゆっくり〜!」



「・・・お前ら、思いっきり表情に出てたぞ。気を付けろ。」


 ニーナさんの言う通り、実際にはリズと婚約をしている。と言うより、半ば脅迫に近い形で婚約をせざるを得なくなっていた。


 あの後、マイさんが立ち去ってから部屋で三人で朝食を摂っていた際、部屋の扉が勢いよく開かれ、何故かアルを連れて伯爵が入ってきたのだった。


 なんでも、このままではリズが純潔ではないとの噂が流れてしまい、本当に嫁ぐ事が出来なくなるらしい。

 僕が寝ていようが何もしていなかろうが、女中がリズと僕が寝ている姿を見たと言う状況証拠のみで充分なのだそうだ。


 その時は焦ってしまい素直に受け入れたのだが、よくよく考えれば仕組まれたのだと気付く。だが、もう全てが手遅れだった。

 婚約者の噂は、外堀を埋める為なのだろうが、公表していない理由は父との事があるからだ。


 伯爵は僕が誰の子供なのかは知っているらしいから、僕の素性には問題はないようだが、父の元で育てられたため、その父に配慮して話が付くまでは公表はせず、館の人間以外に婚約者が誰なのかを話す事も禁じられた。


 そして既に、館の人間には口止めは済ませてあると言われ時、僕はこの人が黒幕なのだと悟ったと言う訳だ。

 恐らく、受け入れなかった場合、公表をして僕が逃げられないようにするつもりだろう。そうなれば、父も強制的に連れて来られただろうし、こうなった時点で詰みだった。


 この話の前夜に仕方なく許可したと言っていたのは、やはり演技だったらしい。


 もしかしたらなのだが、伯爵は僕を利用して父をこの家に呼び戻したいのではないだろうか?一度確かめてみるべきなのかもしれない。

 純粋に僕やリズの事を思ってでもあるのかもしれないが、伯爵の心の内は、幾ら考えてもわからなかった。


「如何されました?」

「ううん、何でもない。叔父上と話をしないといけないと思ったんだよ。」


「まぁ、こんな噂を流されてたら、そうも考えるだろう。伯爵様は見かけ通りの人ではないようだしな。」


 温和な雰囲気で、お茶目な部分もあるけれど、領地運営の手腕はこの街が賑わっているのを見ればわかるし、そう言う意味でも人心の掌握に長けているのだと思う。


 元々、今夜伯爵の執務室に来るようにと言われていたから、その時に確認してみよう。

 そう考えて、今はアルやサリーナさんと食事を楽しむ事にした。

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