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第二王女の裏世界征服  作者: つのつき ぼーし
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一話

 ふっと意識が浮上する。ぎしぎしと悲鳴を上げる体を起こし、大きなあくびを一つ。何度か瞬きをして、半分ほど眠っているらしい頭をゆっくり回転させ始める。


「やけに体が痛い……昨日なにしたんだっけ……?」


昨日。昨日は確か、


「……っ!」


思い出した。喫茶店で別れ話でハンカチで、それから、おそらくトラックにひかれた。ここはあの世か何かか?いやでも確かにここで息をしている。生きている。どうして生きている?とりあえず助かった。助かったのか。

はぁ、とのどから小さく息が漏れる。それが安堵からくるものか、それ以外なのかは自分でも判断がつかなかった。


混乱がすこしおさまって、余裕が出てきた。落とし物を届けようとして自分が命を落としたのかもしれないということに自嘲しながら部屋をゆっくりと見渡した。真っ白で清潔感のある部屋だ。

高級そうなテーブルと椅子、それに自分がいるベッドとベッドわきにあるよく分からないインテリア?以外は特に物がなく、さっぱりしている。


あの独特な消毒液のにおいがしない。ということは病院ではないし、ましてや自室でもない。ならどこなのか。全く見当もつかないし、体が痛くて部屋を見渡すだけでも一苦労だ。


何の気なしに自分の手元を見る。そこには小さくて細くて白い、おそらく女の子の手があった。自分の知っている自分の手とは似ても似つかない。 


理解が追い付かないどころではなく、思考が宇宙にトリップしたような気がした。

 

ようやく思考が宇宙から帰還し、自分の手を食い入るように見つめる。確かに筋骨隆々のマッチョマンのごとくごつい手をしていたわけではないものの、自分が確かに男であったことは覚えている。

幻などではないようで、何度瞬きをしても消えたりはしなかった。


手を凝視したまま、恐る恐る握ったり開いたりする。間違いなく自分の手だ。となると二十後半のおじさん目前の男が四、五歳くらいの幼女になったという、人に話したら頭がおかしくなったとでも思われそうな話が現実に起きたことになる。


目が覚めると体が縮んでしまっていた……なんていうと某名探偵を連想してしまうが、あのケースは体が子供になったとはいえ自分の体である。

それに比べて僕は見知らぬ幼女の体になってしまっているのである。しかも僕には別に天才的な頭脳があるわけでもない。物凄くまずい。


そんなことをぐるぐる考えていると、コンコンと部屋のドアがノックされる。驚く間もなく


「入りますね~」


と間延びした声とともにドアが開かれる。

タオルやら替えのシーツやらがのせられたワゴンをひいているメイドの格好をした女の子とばっちり目が合う。 


たっぷり数秒間見つめあった後、少女は叫びながらはじかれたように部屋を飛び出していった。幽霊でも見たかのような反応に少し傷ついていると、バタバタバタバタとドアの向こうが急に騒がしくなりだした。


まさか自分が本当に幽霊で、ドアの向こうで自分を退治するための騒ぎが起こっているんじゃなかろうか、という想像を笑い飛ばせなくなっていることにかすかな恐怖を感じる。


するとバタンと突然ドアが開いた。豪快に開けられたドアからは人がたくさんなだれ込んできて、わあわあと自分の話したいことを大声で話し始めた。何となく分かっていたものの、その中に見知った顔は一つもない。

やかましすぎてだれが何を話しているかわからない中、ひときわ大きくて威厳のある声が


「静かにしないか! 嬉しいのはわかるがメーラヴィットが怯えておる」


と一言。途端に周りは静かになり、ほとんどがベッドのそばから離れた。残ったのは静かにするよう言ってくれた男の人と二人の女の人。三人ともとてもきれいな顔をしている。


「お前たちにも後で話せる時間を設けよう。だから今は席を外してくれ」


男の人の言葉に、三人以外は部屋からザーッと蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。それを呆然と見ている僕の前で男の人はゆっくりと


「体は大丈夫か、メル。お前は生まれてからずっと眠り続けていたんだ。目は見えているか?音は聞こえているか?……初めまして、か?お前の父だ」


お父さんだったらしい。それに今、生まれてからずっと眠っていたと言っていた。それを聞いて少し安堵した。実はさっきから事故にあって全く別の世界で別の人として生きる、という話の本を思い出していた。異世界転生といったっけ。 


その本は急に別の世界の少年として目覚めるところから始まるのだが、少年は七歳。その少年の体に乗り移ったというのなら、もともとの人格はどこへ行ってしまったのだろう。まさか消えてしまったのか。そこまで考えてぞっとしたのをよく覚えている。 


だからもしかしたら自分も、メーラヴィットというらしい幼女の人格を消してしまった……もしくは上書きしてしまったのではないかとかなり不安になっていたのだ。

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