勝利なのじゃ! 「わらわは帰る、帰るのじゃ。かような冷たき水ごときには負けぬ! もがき、手を伸ばし続けてみせようぞ……って何じゃこの感触は……??」
「おっいよいよ再開ですか」
「【別作】が進まねばこちらも書けぬという圧はあるゆえ依然不定期ではあろう。されど“御感想”という何物にも代えがたき栄誉を賜った。それに応えるためにも停滞などしておれぬ」
「しかしまさか、戦シーンをここまでバッサリ端折るとは思いませんでしたよ」
「会心の出来と思うても読まれねば意味はなし。せめて字数は少なくせねばな」
「――見事。本当に王子を逃がした上、我が部隊まで殲滅してしまうとは」
「これぞ一騎当千。否、一騎当万の力よ。そして目指すは一騎当億じゃな」
「フフ、相変わらず馬鹿げた理屈を捏ねますな」
「ふふ、わらわのその馬鹿力を見誤ったな。これが代償ぞ。裏切りの将よ」
「そしてまさか――ガフッ!! 食毒に見せかけあなた様を亡き者にせんと用いた薬を再びその御身によもや――自ら仕込もうとは」
「そなたの悪癖を利用させて頂いたまでよ。返り血を舐め取る行為をのう」
「なんと抜け目のない。成長されましたな――」
「備えあらば憂いなし。いくらわらわとは言え、病み上がりの身ではそなたに勝てるとは思わなんだからな。――我がかつての師よ」
「今にあの世で再戦を。待っておりますぞ――」
「達者での。その時は我が国の勝利、そしてさらなる繁栄を綴りし史書を手土産としよう。それはそれは、己が選択を悔やむほどに」
服した毒消しの瓶の残りを敵将の死水に添え、弔辞を送る。そうしてわらわはその場を、幾人もの骸の山浮かぶ戦場をあとにした。
「さて、あとはせめて帰郷までは在ってたもれ。消えゆく我が命よ――っ」
鞘を杖代わりに一歩、また一歩と足を運ぶ度、生気が流れ出で地に死色の軌跡を創る。肌も蒼白くなり始め着実に刻が喪われゆく。
されど全身全霊なりふり構わず唯々ひたすら真っ直ぐに、力の限り突き進む。そう、帰りを待つ我が国我が民、我が弟のもとへと。
「行かねば、帰らねば。散って逝った者たちのため、国の勝利のためにも」
そしてこの2本の棒切れにどれだけ鞭打ったか。やがて覚えのある場所までたどり着いた。ようし、この河じゃ。ここを征かば――
「メルクリスティアがいたぞ! 絶対に橋を越えさせるな!! 殺せ!!」
むうっ、新手か。まずい何としたものか。眼は霞み神速なる刃も抜けずに、放たれし矢を叩き落とすことも叶わぬ今のこの身では。
「うぐあっ、っ!!」
案の定、肩や脇腹に脚、全身を刺され抉られ貫かれる。そうしてわらわは橋から眼下の水面へと没し、流れに呑み込まれていった。
「ぐうっっ、っ――」
――寒い。凍える。何という冷たさか。わらわももう終わりか。本陣での湯浴み、もう少し愉しんでおくんじゃったのう。ふふふ。
――否ッ。ええい、かような水ごとき何だと言うか。先刻の誓いを自ら破るかわらわは。いやはや決して否、断じて否よ。ふはは。
わらわはヒトじゃ、熱き心と滾りし魂を持つ者じゃ。冷血なるヘビの類ではない。この命は徹頭徹尾、燃やし続けてみせようぞ!!
「うおおおっっ!!」
激流の中ふと露出した木の根が目に入る。よし、あれじゃ。あれを、あれをつかまば――!!
「取ったッ!! いざやこの我が手にッッ!!」
「……」
「かように粗末なモノが命綱となるとはのう! やはり天はわらわを見放しておらなんだ!!」
「……粗末でそれはどうも……悪かったですね」
「む?」
「とりあえずそろそろ……離してくれませんか」
ん?
あれっ、何じゃこれ? 木にしてはこの妙に、何というかフニフニ柔らかな感触は、一体??
そして、この頭上に降り注ぎし雨の激しさに不相応なる、むしろ心地よきほどの温かさは??
むむっ、どうしたことじゃ? 先刻までまさに、この身はあの極寒の中に居たのでないか??
「アナタ、何ですか。一体どこからどうやって」
奪われし体温の回復とともに視界が鮮明となってゆく。そんなわらわの前に立っていたのは、
「なっ!? ぜっ、全裸の男ォォォォッッ!?」
「わらわの手にした粗末な命綱ならぬ、伝説の聖剣の柄にも等しき救いの光。まさかそれを再び握る日が来ようとはこの時のわらわは夢にも」
「当て身」
「ぎゃぼっ!?」
「この酔っぱらいめ、いい加減に僕も怒りますよ。筋トレの大敵だから駄目だと言ってるのに、こんなに飲みながら書いて。油断も隙もない」
「痛つつッ。ふふっ、カゲン殿だけにいい加減か」
「……ギロリッ」
「うううっ。軽いじょーくのつもりじゃったのに」
「いいですか。絶対にR-18展開にはさせませんしなりませんからね。よく覚えておきなさい」