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序章も終わりです。「今回は僕視点。静かに暮らしたいのに……やれやれ変な子を囲うことになってしまいました」

「あっこれは、僕の日記か。そういえば姫が来たばかりの頃、ちょこちょこつけてましたっけ」

「オッ師匠も日々の記録をしたためておったのか!? 見せてみよ、是非とも見せてみよ!?」

「駄目です」

 将来就く仕事では、とある行事の際大勢に裸一貫を晒すのも珍しくない。ならば恥ずかしくないようにと、趣味の筋トレを始めた動機のひとつはそれでした。

 僕の名前は加減(かげん)召馬(しょうま)。東京の“大日本帝国学院大學”の2年生で“静かに分相応に”が人生のモットーです。


「ふう。ひさしぶりにひとりだけの時間を過ごせるな」


 だからジム通いなどもせず自室に器具をそろえ日々マイペースに取り組み、好きなものを食べて人並みに配信動画などを観たりして夜は8時間健康的に眠る。

 そう、そんな生活ができれば充分なのです。卒業後だって家業を受け継ぐわけですし本当に気楽です。


「師匠~! ちょっとご足労下さりませぬか~~!!」


 卒業してからもそんな毎日がずっと続けばいいと、そう思っていたのですが――慎ましくも平穏な日常、という理想郷の崩れ去ったのはあまりに突然でした。

 浴室のドアの奥から響く、声だけは楠木と〇りばりのカワボのもとへ仕方なく足を運んだ先。そこは、


「師匠、これは何なのじゃ。胸当て、か何かかの??」


 その、ブラジャー片手に尋ねてくる金髪碧眼の少女のいる異常な光景でした。いや、23歳じゃ無理がありますかね。まあそんなことはどうでもいいですけど。


「付け方がわからぬのでな。やって下さりませぬかの」

「えっい、いやっ、そんな。どっど、どうして僕がっ」

「最初は手本を見せて頂いた方が早かろう」

「ちょっ、あっあ、あのね。恥ずかしくないんですか」

「無論よ、戦場では他者より手当を受けることも多い」

「しっし、しかし」

「ホラッ、こうして後ろを向いておればよろしかろう」

「クッ……」


 白く小さく曲線しなやか、水滴を弾くきめの細かい柔肌。でも別段性的感情など覚えるはずもなし、さなざらメスのペットの世話をしている気分でしょうか。

 彼女は“異世界”から我が家にやって来た、メルなんとか姫様。何を言っているかわからないでしょうが僕が一番わかりません。

 さらには話すと長くなりますが、ある理由のためにここに実に1年間も居候させることになったのです。


「早に頼めませぬか。身体が冷えてしまう。ひきし!」

「わっ、わかりましたよ。ちょっと待って下さい――」


 付けろと言われても構造上どうしても“揉んで”しまう。何かいい方法はないか。ハッとした僕はある人に聞くことにしました。


『何だよカゲン、隣同士なのにわざわざ電話なンてさ』

「先輩ちょっと相談が――。ブラってどう着るんです」

『は!? 何オマエ、そういう趣味でも始めたの!?』

「違います断じて違います。その、今ウチに女の子が泊ってるんですが付け方がわからないと言うので」

『おっ、何だよついにお前にも春が来たのか? やるじゃん! 道理でさっきから騒がしかったンだな』

「違います絶対に違います。ただのホームステイです」

『でも、ブラの付け方も知らないたぁどこの途上国から来たンだ? まあとにかくあとで紹介しろよな。朴念仁のお前の選んだ人がどンなんか見てみたいから』

「お断りします。いいから簡潔に手早くお願いします」


 とりあえずいい方法を教えてもらいました。そもそも異世界人なんてどんなウイルスを持ってるかわかったものじゃない。極力濃厚接触もしたくないですし。


「ホックを前方向、胸の下で留めてくるり一回転。ほら、あとは自分でして下さい」

「ほう。この中に乳を納め肩に紐を掛ける、とな。ところでその道具すごいのう! 戦で伝令もいらぬ。会話の相手は誰じゃ?」

「別に……ただの隣人で、大した間柄じゃないですよ」

「むっ。折角であるがこれ、わらわの寸法に合わぬな」


 エッ、そんなはずは――。再び先輩に電話をします。


『ンなの、ただ単にサイズ選び間違えて買ったンだろ』

「しかし見た感じCカップ、ぐらいですが。Cって80cmぐらいですよね。だからC80っていうのにしたんですけど。楽天市場で」

『そりゃアンダーの数だよ! これだから童貞は――』


 なんだって。ならこれではただの銭失いか。くっ僕の2,300円が。学生の身でこの出費は非常に、ディ・モールトきついです。


『今からそっち行く? 真面目な話、同棲するにはいろいろと知らないと大変だろ』

「結構。これ以上うるさくなるととても困りますので」

『そうは言ってもあさってまたお邪魔すンだぞ。“超回復”終わる日だからな。ベンチプレス貸してくれるって言ったのお前だろ』


 そうでした、近所付き合いのことをすっかり忘れてました。かと言って姫を外に放り出すわけにもいかないし、異世界云々のことは上手く誤魔化さなくては。


「そうじゃ師匠よ、布か何かも頂けませぬかの。そろそろ“月のもの”が来る頃ゆえ」


 ハァ。どこの誰とも知らない他人との望まぬ共同生活、本来不要な気配りと余計にかさんでゆく出費。

 まったくなぜこうなったんでしょうか。本当、早く元の暮らしに戻りたいです――


「心配召されるな、力がつき次第帰りますゆえ。目的を忘れてはおりませぬのでな。そう、国を救うため強くなると心に誓ったあの日、あの時からしかと――」

「えっ、ここで回想入るんですか。少し唐突過ぎでは」

「あまり間延びしてもよろしくなかろう。次回より“しりあす”展開であるが、是非ともここに至るまでの経緯を見届け願おう!」

(フフ、まあとりあえず、この頃の僕とはずいぶん変わった気がするな)

「むう、だから何と書いてあるのじゃ!? 見せよと言っておろう!!」

「だめです」

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