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余暇なのじゃ! 「愛しさと切なさと宇宙の心と……。えっ目的を忘れておらぬかじゃと? 当然じゃろう! とりあえずこの胸当ての着け方がわからぬゆえ教授願う!」

 クチュ、クチュッ――。


「んふっ、ふああっ――」


 クチュ、トロォッ――。


「んふむ、ああ――っ!」

「……行儀が悪いです。普通に食べて下さい」

「肉に、ちいずと白き米。ああ何故茶色と白いモノは、かように美味いモノぞろいなのじゃろうか――」

(白はともかく茶色って。クッ、おかげで肉がス〇トロみたいに見えてきちゃったじゃないですか――)

「ほ


 ん


 ぎ


 ゃ


 あ


 あ


 あ


 あ


 あ


 あ!!!!!!!!!!!!!!」



 師匠お手製の“ちいずかるび丼”なる魔性の料理。口にした途端それはもうあふれんばかりの活力の、すさまじき胎動が湧き起こる!

 その咆哮が体内の隅々そして、神経の末端までくまなく響く! 即座に椅子ごと壁をぶち破り月まで吹き飛ばんほどの衝撃じゃ!!

 まろやかかつ濃厚なうまみが喉を激流轟くかのごとく下り征き、その刹那我が脳に電撃がほとばしる。美味いッ美味すぎる、と!!

 胃の中はまるで聖火が灯り厳粛なる儀礼を執り行うような神聖さに包まれ、具材がそこに到達する度充足感が何層にも積み重なる。

 そうして栄光ある豊穣の大地が形成されてゆき嗚呼ッ、さらには荒れ悶えたけび狂う嵐のようにこの匙を口に運ぶ手が止まらぬ!!


「――」


 ひとしきり喫したのち天井の“蛍光灯”なる明かりに視線をやる。わらわの世界の松明や燭台とは比較にならぬ輝きに目を奪われる。

 目の前が暗くなる、されども光は確かに見える。夜空に漂う星々が儚くもきらきら瞬くように。そう、わらわには心が見える――。


「今わかったぞ――。宇宙の心は“ちいずかるび丼”であったのじゃな――」


 何故だか無性に愛おしい、切なさにも似た感情。だのにどこか心強い。わらわはついに理解した――。


「泣くほど美味しいんですか。いや、頭のネジが弾け飛んでしまうほどに」

「わずか23年の生で真理に達するとはの――。師匠には感謝に絶えませぬ」

「げっ。ぼ、僕より年上――。うっ」

「げっ、とは何じゃ。うっ、とは!」


 ふう、兎にも角にも感慨無量感謝感激恐悦至極。美味い美味すぎた、とくと堪能させて頂いたぞ――。

 もはや充分満ち足りたと言えるが師匠がお次はこれを、と言って今度は何か飲み物を差し出してくる。

 むむ、まさかこれまたかの希少な逸品“牛の乳”かの? それにしては少し泡立っておるようであるが。


「プロテインが入っていますからね」

「ふうむ、ネバネバした“ちいず”と違いトロッとしておるの。師匠は白いモノを出すのがお好きじゃな」

「誤解を招く言い方はやめて下さい。タンパク質を濃縮させたもので、これだけで大体30gは摂れます」

「むむう。“30ぐらむ”――とな??」

「筋肉のより効果的な成長には毎日体重×2g必要。僕だと150ですが、そのカルビ丼で1日3食換算です」

「おっ成程、流石にこの料理を毎食では熱量過多。そこでその補助として用いる、というわけかの!?」

「その通り。一回で30gは楽です、本当に楽です。プロテインも種類は数多くあれ特にこの【be LEGEND】がイイですね。美味い上に安いから学生の財布にも優しいし特にパッケージの写真がカッコイイです。漫画なんかとのコラボも行っていて――」


 熱弁を拝聴しながら穏やかな時を過ごす。プロテイン牛乳なるものもこれまた果てしなく美味かった。

 その後は“てれび”とか呼ぶ、如何な仕組みかわからぬ極めて面妖な箱だがそれに映る“ばらえてぃ番組”なる愉快な見世物を愉しみ、


「はわあああ……気持ちいいのう!」


 そして浴室にて“しゃわー”なる道具を借り一日の汗と汚れをさっぱり洗い流す。ほど良い湯が文字通りに湯水のごとく湧き続ける。

 まったくここは舌を巻くほど便利なモノばかりよの。長い髪も指通り滑らかにできるこの“しゃんぷー”なる薬液にしてもそうじゃ。

 さらにこの泡立ち豊かな“せっけん”で全身も隅々まで清められる。やはり師匠は白くトロトロとしたモノに縁があるようじゃのう。


「ともあれ鍛錬に食事、余暇に入浴すべてが偉大なる文明の利器に恵まれておるとは天晴の一言よな。はあ、何ならばずっとここに」


 ……。


「おっと。――そうもゆくまいかの」


 この身を映す鏡に手をやる。水の中へ吸い込まれるように手首が消え、引っ込めるとこちらへ戻る。うむ。“まだ中へは入れるか”。

 期限はおよそ1年間、なおかつこの路が消えてしまうまで。それをゆめゆめ忘れてはならぬな。そう、我が国と民たちのためにも。


「それはさておき、これは胸当てかの。長さを整える穴が空いておらぬが」


 ひとまず風呂から上がる。汚れた鎧のままではと用意して頂いたはよいものの、その肌着らしきモノの着方がどうにもわからぬな。

 ふたつとも同じ色と意匠、片方はおそらく下履きだとはわかるが、まあよいわ。この世界でわからぬことは師匠に尋ねるとしよう。


「師匠、ちょっとご足労下され~〜! これはどう着けるのじゃ~~!?」

「なんとまあ中身のない」

「言っておくがこれはまだ“ぷろろーぐ”じゃ! 最初に師匠との仲睦まじき様子を見せておいた方がいろいろと安心じゃろう」

「僕はいろいろと不安なんですがね。自分で着けて下さいよ下着くらい」

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