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Soul The Beat  作者: hygirl
魂光始動
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8話 奇跡の無い世界


 響希とスーツの男、そして『天護星団』の制服を着用した十一人が円卓のテーブルを囲むように配置された椅子に座り、響希の座る椅子の後ろに立つ飛色は嵐月蘭丸に催促される形で響希をここに連れてきたことについて話していく。

 

「コイツをここに連れてきた理由、それをまず話すか。

このガキ……久遠響希をここに連れてきたのは他でもない、コイツこそがオレたち『天護星団』にとって大きな力となると判断したからだ」

 

「何故だ?

そのような田舎くさい小僧などその辺を探せばいるのに何故そのガキなんだ?」

 

「え?何で今オレのことバカにされ……」

「オマエは黙ってろ響希。

コイツはそこらにいる訓練生よりも高い素質とこの汚れきった本土から隔離された島で育てられたことによる純粋そのものである心を宿しているからだ」

 

「……なるほど。

オマエの報告を読んだが、その島とやらで初めて魂器を現界させて狂魔を倒し、さらには二日前の戦闘で再び魂器を現界させたのはその純粋な心とやらのおかげか?」

 

「まぁ、そんなところだ蘭丸。

オマエが聞きたいことはそれだけか?」

 

 ああ、と蘭丸は軽い返事で飛色に返すと話を終わらせようとするが、鉄仮面の男はそれを許さなかった。

 

「待たれよ、嵐月隊長。

この話はそう簡単に終わらせていいものでは無い。

狂月隊長の独断により連れてこられたその少年の処遇を決めねば解決はしない」

 

「必要ない。

飛色が責任を持つなら他に何が必要だと?」

 

「彼は不安要素しかない。

定められた規則の上で設けられた訓練項目を踏破していないとなれば自己を守る力も無いに等しい。

そのような少年を……」

 

「うるせぇぞ、鉄郷。

長々と無駄な話しやがって……言いたいことあんならハッキリ言いやがれ」

 

「貴公が私の名を呼ばぬからそうしていただけ。

名を呼ぶなら単刀直入に言おう。狂月隊長、貴公は同じ過ちを繰り返すつもりか?

力を求めた挙げ句その力に取り入られて道を踏み外す真似をするのか?

貴公のそれは大罪を重ねたあの男と……」

 

 鉄仮面の男・鉄郷が飛色に対して何かを告げようとした言葉の途中、飛色の表情は強ばっていくとともに彼は円卓のテーブルの上に勢いよく飛び乗ると鉄郷に向けて走り出し、手刀で襲いかかろうとする。

 

 突然の事に驚いてしまう響希の事など構うことなく鉄郷の方に向かって走っていく飛色の手刀が迫っていく中、それが近づいてくる鉄郷は立ち上がるなり迎え撃とうとする……が、鉄郷が立ち上がるとともに彼の前にマフラーを首に巻いた青年が音も立てずに現れ、現れた水色の髪の青年はどこからか出された切っ先から柄の全てが真っ白な刀を構えて飛色の手刀を止める。

 

 刀が出てきたことにも驚きだが、響希は飛色の手刀が刀に止められていたことが何よりも驚きを隠せなかった。

人を斬り殺せるであろう刀、その刀と一人間である飛色の素手がぶつかり、刀に止められた飛色の手は指などが切れることもなかった。

 

「隊長!?」

 

「……何のつもりだ、斗真?」

 

「場を弁えろよ飛色。

今はそこの新入りの処遇を決めれば終わる、私怨で鉄郷を倒したいなら後にしろ」

 

「邪魔すんのか?

オマエがオレの?」


「あまり本気を出させるな。

オマエの相手は骨が折れるから嫌なんだ。

頼むから大人しくしてくれ」

 

 マフラーを首に巻いた青年・白神斗真は飛色に対して落ち着くように伝えると同時にここで自らが邪魔をして争う意思は無いことを伝える。

その意思が伝えられると飛色は舌打ちをして手刀を引き、斗真の後ろで構えようとしていた鉄郷のことを睨むと彼はそこから響希の後ろへと何の音も立てず動きも見せずに移動し、機嫌を損ねたのか飛色は壁にもたれ掛かる。

 

 飛色が退くと斗真は刀をどこかに消し、刀を消すと鉄郷に忠告した。

 

「鉄郷、オマエの言い分は正しいがあの新入りの処遇について指示するのはオマエではない。

飛色の報告を受けた上で司令が判断する、その事を忘れるな」

 

「……理解している」

 

「なら二度と飛色を刺激するな。

いつもオレが止めると思うな、次は……オマエ自らが何とかしろ」

 

鉄郷に忠告した斗真は飛色と同じように音も立てずに元いた席に移動すると着席し、忠告を受けた鉄郷も静かに座る。

 

 飛色と鉄郷、そして斗真により繰り広げられた一幕によってこの会議室場内は沈黙に包まれ、沈黙が続く中でスーツの男はそれを破るように立ち上がると響希に自己紹介をした。

 

「初めまして、久遠響希くん。

席は立たなくていい、そのまま楽にしててくれ。

オレは『天護星団』の部隊を指揮する司令で東京を本部として置く基地の責任者を務める神宮寺神楽だ」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

「緊張しなくていいよ。

オレはここにいる隊長たちの会議のまとめ役と緊急時の判断と指揮を任されている身分だし、オレの上にはまだ総司令と呼ばれる方もいるからね。

さて、キミについては昨日飛色が提出した報告書を拝見して少しだけ知っているつもりでキミに接していくわけだが……オレはキミに質問がある」

 

「質問ですか?」

 

 黒い髪、整った容姿、スーツをしっかりと着こなしたその男・神宮寺神楽が質問したいと言うと響希は身構えてしまうが、神楽はそんな彼に優しく微笑むとリラックスさせるべく質問の前にある話をしていく。

 

「ここにいる彼らもオレも最初はキミと同じで右も左も分からないただの人間だった。

だからキミが不安に抱くことは当然のことだし、そんな不安の中にあるキミを助けるのが先人であるオレたちだ。

何も分からなくていい、だからキミは落ち着いて今いる場所にいてくれればいい」

 

「は、はい!!」

 

「さて、話を戻そうかな。

キミに質問したいのは他でもない、これからの人生についてだ。

キミは今から『天護星団』の一員として過酷な日々と戦場での戦いを強いられる生活の中に身を置くことになるが、『天護星団』の団員は訓練生の過程を経て正式入隊しても狂魔との戦いで容易く命を奪われる。

残酷な話を分かりやすく言うなら……今年の正式入隊者は今ではほとんどが命を落とすか過酷な現実を目の当たりにして二度と戻らなくなっている。

正直に言うとキミは狂月隊長が連れてきた民間人、今ここで引き返す道を選んでも誰も責めないわけだが……」

 

「オレは『天護星団』の一員として戦います」

 

 厳しい現実を突きつけられると共にこの先生きることがどれだけ険しいことかを語った上で神楽は響希に問おうとしたが、響希は神楽が何を言うのか理解していたのか彼が聞くよりも先に答え、答えた上で自分の意思を伝えた。

 

「オレは今まで何も知らずに生きてきて、それが当たり前だと思ってました。

そんなオレにも誰かを助けるために戦えるのなら、オレは迷いません。

隊長に声をかけられた時からこれは決めていたし、何を言われてもオレはこの気持ちを変えません」

 

「……後悔は無いんだね?」


「ありません!!」

 

 神楽の問い、それは後戻りは出来ないという確認の意味があるもの。

その質問の中にあるものは決して軽いものではなく、飛色たちもその問いを聞く中で響希がどう答えるかを注目していた。

注目が集まる中、響希は迷うことなく答え、響希の迷いのない答えを聞いた神楽は彼の意志を理解すると不機嫌そうに壁にもたれ掛かる飛色に向けて尋ねた。

 

「狂月隊長、久遠響希くんの指導はどうするんだい?

彼は偶然で狂魔を二度倒しただけで実際はまだ経験のない少年だ。

そんな彼に今から従来通りの訓練生のカリキュラムを受けさせるつもりかい?」

 

「……そいつの教育はウチの部隊で責任を持つ。

オレが連れてきて我儘言うからにはそこはしっかり面倒は見る」

 

「よろしい、ではその子のことは今後キミに一任することにしよう。

他の皆も異論はないね? 」

 

 飛色の意見を受けて神楽は響希のこれからの動向を確定させ、確定されたそれについて異論がないかをこの場にいる全員に尋ねる。

尋ねられても異論は無いのか誰も何も言わず、飛色と一触即発していた鉄郷すらも何も言わなかった。

 

 意見はない、それを確認した神楽は手を鳴らすとこの会議を締めようとする。

 

「では久遠響希の処遇の全ては『乙女座』の狂月隊長に一任することに決定してこの会議は終わらせていただく!!

これからも世が光ある未来に進めるように皆の力を貸してほしい、解散だ!!」


 神楽の言葉で会議は閉幕を告げられる。

この会議によって響希のこれからは戦いの道に指針が向けられ、その果てにある未来はまだ誰も知らない。

そう、それは響希すらも…

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