6話 ランブルヒーロー
狂魔が次から次に現れては街を襲い、そして民間人が悲鳴をあげながら逃げ回る。
被害を受けた街は辺り一帯が見るも無惨なまでに姿を変え、黒煙があがるその景色は見るに堪えないものだった。
そんな中を響希は飛色の後に続く形で走っていた。
周囲で『天護星団』に属する他の人間が救助活動や討滅を行う中、響希は飛色が走る後をただ同じように走っていたのだ。
「隊長、このままじゃほかの人たちが……」
「無駄な考えは捨てろ。
ここに来てるヤツらはこうなることを覚悟した上で来てるんだ。
まだ素人のオマエが変に気を遣う必要はない」
「でも……」
「仮に今ヤツらを助けるようなことをしてもこの惨状の原因がハッキリしない限りは問題は解決しない。
どうにかして大本を……」
「隊長!!」
周りで討滅を続ける『天護星団』の人間を助けないのかと問う響希に対して現状の問題とそれを解決するためにどうすべきかを飛色は詳しく話そうとしたが、そんな彼のもとへと誰かやってくる。
三人の人物、雛川莉那と星宮ステラ、荒川勇希の三人が響希と飛色のもとへと走ってくる。
走ってくるなり三人は飛色の前に並び、横一列に並ぶとステラは飛色に状況を話した。
「隊長、報告します。
地上の獣種の繁殖が止まりません。このままではこちらが消耗するばかりで不利になる一方です」
「原因は何だ?
こんだけの大規模な被害になるには何らかの理由があるはずだ」
「狂魔がここに現れた原因はまだ分かっていませんが、獣種が出現し続ける理由は上空にいる飛行種の存在が大きいかもしれません。
あの飛行種が雄叫びをあげる度に獣種が地上に現れては暴れているのであれを仕留めればこの混乱は多少鎮圧されるかもしれません」
「なるほど……視界に入るところにあの飛行種がいるせいで避難の遅れてる民間人が恐怖してるってわけか。
避難誘導は?」
「交通網にも影響が出ています。
民間人を避難させる車両も間に合っていない状態で今の段階では他の部隊が防衛している状況です。
このままでは……」
「状況はよく分かった。
ひとまずはあの飛行種を潰せば何とかなるならすぐにやるぞ」
ステラの報告を受けた飛色はどうにかするべくまずは上空の飛行種を対処すべきだと判断してステラたちに指示を出そうとするが、莉那は響希の顔を見ながら飛色に問う。
「隊長、この妙に頭の悪そうな民間人は誰なんですか?」
「え、オレ頭悪そうに見えるんですか!?」
「どっからどう見ても頭悪そうに見えるわ。
ていうか誰なの?」
「えっと、オレは久遠響希。
隊長にスカウト(?)されて島からここに来ました」
「久遠……?
アナタが?」
響希の名前を聞いた莉那は彼の苗字である久遠のその名を聞くと何故か疑うような眼差しで彼を見つめる。
莉那に見つめられた響希は少し頬を赤くしながら顔を逸らしてしまい、響希が顔を逸らすと莉那はさらに怪しむように彼のことを見つめる。
莉那に見つめられて困る響希は飛色に助けを求めるように目で訴えるが、飛色はそれに気づいていないのか上空の飛行種の狂魔をどうするか頭を働かせていた。
助けを求めたい響希、そんな響希が困っているとステラが莉那に声をかけた。
「あまり見つめるとこの子も困るからやめてあげましょ。
隊長と一緒に来たってことは昨日話していた子かもしれないわ」
「昨日……。
たしか『乙女座』の部隊に入れたい人材がいるとか言ってましたけど、それがこの頭の悪そうな子どもなの?」
「何でオレ悪口言われてるんですか?」
「……隊長、この子どもを本気で部隊に入れるんですか?」
「ああ、そのつもりだ。
素質だけならオマエに負けないからな。
それよりも今は飛行種の討滅だ。莉那、オマエの魂器で倒せ」
嫌です、と莉那は飛色の指示に従うことを拒否すると飛色の指示を拒んだ理由を話していく。
「隊長は私の魂器なら飛行種を何とか出来るとお考えかもしれませんが、私は魂器を使用したくないんです。
わざわざ技術開発部に頼んで特注の対狂魔用の弾丸を装填した拳銃使ってるんです。
今の状況を打破したいなら隊長の魂器で何とかしてください」
「チッ……無駄なプライド持ち合わせやがって。
ステラの魂器と勇希の魂器は飛行種相手じゃ不利だから頼むにも頼めねぇな」
「すいません隊長。
私のこのグローブの魂器は格闘向きですし、勇希の魂器も近接武器ですからご期待に添えません」
「魂器にも適正があるからな。
そこは仕方ねぇ話だし……そうだな、オレがわざわざ魂器使う必要もねぇけど、遅れた分どうにか挽回するか」
考えをまとめる中で飛色は首を鳴らすと上空にいる飛行種の狂魔を視界に捉え、狂魔を視界に捉えると飛色は全員に指示した。
「飛行種の数は二体、仕方ねぇからオレがどうにかする。
オマエらはここで待機しつつ……どうにかして倒せ」
「了解です」
「了解しました」
「わかりました」
「響希、オマエはそいつらのそばから離れるな。
何があっても出しゃばるな」
「はい!!」
「いい返事だ」
響希の返事の良さに感心すると飛色は地面を強く蹴って高く飛び上がり、高く飛び上がった飛色は高く高く飛ぶと滞空している飛行種の狂魔へと迫っていく。
地面を強く蹴って飛んだ、ただそれしかしていない飛色の跳躍力に響希は驚いて口が開いてしまい、響希が驚く中で飛色は二体いる飛行種のうちの一体へと接近すると難なく飛び越え、滞空している飛行種より高い位置へと達するとそこから降下して飛行種の体の上に乗って手刀の一撃を放つ。
放たれた手刀が飛行種の狂魔の翼を貫き、翼を手刀で
貫かれた飛行種の狂魔は叫び声を上げながら落下していく。
翼を負傷して落下していく狂魔の体を強く蹴って飛色はまた飛び上がるともう一体の飛行種の狂魔に接近し、残る飛行種の狂魔に迫ると右手で頭を掴むと左手で手刀の一撃を放つとともに狂魔の首を貫き、右手に力を入れると飛行種の頭をを胴体から引きちぎってしまう。
「ええぇぇ!?」
人間離れの跳躍力、あっという間に飛行種の狂魔を二体倒してしまう飛色の活躍に響希は驚きの声を上げ、響希の驚く声をどこかうるさそうな顔をしながら莉那は拳銃を空に向けて構えると翼を負傷して落下してくる狂魔の一体に数発弾丸を放ってトドメをさす。
弾丸を受けた狂魔はそのまま地面に強く叩きつけられて倒れ、そして頭を引きちぎられた狂魔も同じように地面に叩きつけられると降下してくる飛色の着地の際のクッションの代わりにされてしまう。
「……こんなもんだな。
空に飛ぶだけで対して強くねぇな」
「た、隊長?
狂魔は魂器じゃないと倒せないんですよね?」
素手で狂魔を倒した飛色に戸惑う響希。
響希の反応に飛色は何言ってんだよと言わんばかりの顔をし、飛色の顔に響希がさらに困惑していると勇希が説明した。
「隊長は特別だから仕方ないんだ。
むしろ普通ならあんなことは出来ないから気にしない方がいいよ」
「は、はぁ……」
「あっ、オレは荒川勇希。
勇希でいいよ」
「オレは久遠響希、響希でいいよ。
よろしく、勇希」
「……何挨拶してるのよ。
隊長、次はどうし……」
気づけば自己紹介の流れになって響希と勇希は互いに挨拶をするが、その流れを断ち切るように莉那はため息をつくと飛色に次にどうするか質問しようとした……その時、地面から勢いよく獣種の狂魔が現れ、現れた狂魔は莉那を殺そうと噛みつこうとする。
「!!」
「危ない!!」
突然の出現に莉那は驚きつつも即座に構え、迎え撃とうとした。
すると狂魔の出現に危機感を感じた響希は叫ぶととまに彼女を助けようと動き出すと彼の胸から光が発せられ、発せられた光が彼の胸から離れて右手に宿ると刃のついた円状の武器のような形、チャクラムに似た形状となる。
「うぉぉぉぉ!!」
響希はチャクラムに似た形状の武器を勢いよく振ると光の刃を放って現れた狂魔を斬り倒し、斬られた狂魔は両断されるようにして消えてしまう。
狂魔が消えると響希の手から武器も光となって消え、武器が消えると響希は気を失って倒れてしまう。
響希が倒れると勇希とステラは彼を心配して駆け寄るが、響希に救われた莉那は目の前で起きたことを信じられなかった。
「何でなの……!?
こんな頭の悪そうな子どもが魂器を使えるのよ……!?」
事実を信じられない莉那、その莉那の戸惑う様子を見る飛色は……