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Soul The Beat  作者: hygirl
魂光始動
2/36

2話 純粋な心


 気を失い倒れた久遠響希は老人の家の一室にある布団の上で寝かされていた。

 

 その傍らには怪我をしていた老人が手当てされた姿で座っており、久遠響希に何か意味深なことを告げた青年は部屋の壁にもたれ掛かるようにして立っていた。

 

「響希……」

 

「ガキは問題ない。

目立った外傷もないし、狂魔を倒した反動で寝込んでるだけだ」

 

「……この子には狂魔を倒せるだけの力があるのか?」

 

 白髪の老人は青年に問い、問われた青年は首を鳴らすと老人を冷たい眼差しで見ながら教えた。

 

「それだけの素質はある。

運のいいことにアンタのガキはこの島で生まれ育ったせいか純粋な心を持ってるらしいからそこら辺のヤツらとは比べもんにならねぇくらいの力を秘めている。

オレとしては連れ帰って狂魔討伐に参加させたいくらいだ」

 

「この子はアンタの子じゃない。

響希は……」

 

「アンタの子でもないけどな、じぃさん。

いや……久遠弦一郎」

 

 青年の言葉に対して言い返そうとする老人の言葉よりも先に青年はハッキリと告げ、そして老人の名を口にした青年は続けて『久遠弦一郎』と呼んだこの老人に話していく。

 

「このガキはアンタの息子の子どもだ。

血筋上はアンタの孫であることは確かだが、そうだとしてもアンタが自分の子のようにとやかく言う資格はない。

アンタはここに孫を連れて逃げてきただけ、アンタは自分の息子が命を賭して成し遂げようとする一方で恐れを抱いて逃げただけだ」

 

「ワシはただ……」

 

「ただ何だ?

仕方なかったから逃げたってか?

アンタの息子は孫や他の子どもの未来のために命懸けで戦っていたのにアンタは自分の不甲斐なさから目を逸らして本土から逃げた。

その事実は変わらねぇんだよ」

 

「キミには分からないだろうが、キミが属する組織には闇がある。

その闇があるかぎり世界は……」

 

「その闇の一端を生む手助けをしたのはアンタだ。

アンタの行いのせいでオレたちは余計な仕事を増やされ、挙句無駄に増えた狂魔を討ち滅ぼさなきゃならなくなってんだぞ。

アンタが責任を逃れるがために取った行動は多くの人間の犠牲を生む結果になった、逃げたアンタでもそれだけは責任を感じとけ」

 

「……ワシの孫にその話をしたのか?」

 

「まだしてねぇ。

けど、オレとしては不要だからするつもりは無い。

むしろアンタの話をして心に闇が生まれでもしたらここに来た意味が無くなるからな」

 

「ここに来た意味……?

ワシではないのか?」

 

 青年の言葉の意味が分からない老人・久遠弦一郎は青年がここに来たのは自分が目的では無いのかと問い、問われた青年は今も眠る響希を見ながら弦一郎に告げた。

 

「アンタに関する真実は黙っておいてやる。

ここに逃げてきたことも、昔の名を捨てて『久遠』と新しく名乗っていることも伏せておいてやる。

その代わり……このガキはこの島から連れ出す」

 

「なっ……正気か!?

この子は……」

 

「島の外を知らないって?

アンタがわざわざ本土から離れたこの島に隔離するように育ててたならそうだろうな。

けど、それ故にこのガキは疑うことを知らずに純粋な心のままで成長している。

その表れとして、このガキはオレの予測を超えるほどの力を発揮して狂魔を倒した。

育て方一つでコイツはこれからもっと強くなる、だから連れていく」

 

「ダメだ!!

この子にはまだ本土は早すぎる!!

この子が必要ならせめて大人になってから……」

 

 ふざけんな、と青年は弦一郎に歩み寄ると彼の胸ぐらを掴み、胸ぐらを掴んだまま彼を睨む青年は怒りが感じられるような表情で睨みながら弦一郎に対して告げる。

 

「オマエが逃げたことで無実の人間が汚名を着せられて人生を奪われてんだぞ!!

そのオマエが自分の身の安全のためだけにワガママ言って止められない現実から目を背けろってのか!!」

 

「ワシはただ……」

 

「オマエがそんなふざけたことを考えている今もどこかで狂魔が生まれて人を食い殺している!!

オマエが逃げたことで被害はさらに大きくなってるんだぞ!!」

 

「そ、それは……」

 

「何もしないならいっその事何も言うな。

オマエが何もしないから孫のこのガキを頼るって話だからな」

 

 青年は弦一郎を睨むような眼差しで見ながら告げると胸ぐらを掴む手を離し、青年が手を離すと眠りについていた響希が目を覚ます。

 

「ん……ここは……」

 

「気がついたか、久遠響希」

 

 目を覚ました響希はゆっくりと体を起こし、起き上がったばかりの響希に対して青年は早速話を進めようとする。

 

「久遠響希、詳しい話は後でしてやるから答えを聞かせろ。

今のオマエに島を出る気はあるか?」

 

「……さっきの続きですか?」

 

 島を出る気はあるか、その問いを受けた響希は目覚めたばかりだというのに話の流れを瞬時に理解し、理解の早い響希に対して青年は話していく。

 

「さっきは話しそびれたが、オマエにその質問をした理由はさっき目撃した狂魔のおかげで省けそうだ。

オマエの祖父を襲おうとしたあの化け物は狂魔と呼ばれる人の心の負の感情から生まれた存在だ」

 

「狂魔……。

またここに現れるんですか?」

 

「オマエが倒したからここはもう大丈夫だろう。

けど、本土にはまだ多くの狂魔が存在している。

あの化け物はこうしてる今もどこかで誰かを襲ってるかもしれない。

オレがオマエに島を出るかどうかを聞いたのはオマエに狂魔を倒して人を救う力があるからだ」

 

「オレにそんな力が……」

 

「オマエにはその力がある。

そして本土にはオマエと同じ力を持った人間が他にもいる。

オマエがそいつらと力を合わせれば、たとえこの島を離れたとしても狂魔がここに迫る前に食い止めることが出来る。

だからオレはオマエに質問した、この島を出る気はあるかをな」

 

 青年の言葉を聞いた響希は理解が追いつかないのか彼の言葉に頭を悩ませているのかとりあえず黙ってしまい、黙ってしまった様子を見兼ねた青年はため息をつくと立ち上がって今いるこの部屋から去ろうとする。

 

「……強制はしない。

本土に行きたいと言うなら三十分後に表に出てこい」

 

「あ、あの……!!」


 部屋から去ろうとする青年を引き止めようと響希は声を出し、響希の声に青年が足を止めると響希は立ち上がるなり深々と頭を下げて青年に懇願するように言った。

 

「オレを連れていってください!!

オレの力であの化け物が倒せるのなら、オレにも力にならせてください!!」

 

「いいのか?

本土に行けばここに戻れなくなるかもしれないぞ。

本土に行けば今の生活はなくなり、死ぬか生きるかの狭間で戦い続けることになる。

それでもオマエは来るのか?」

 

 生半可な覚悟では意味が無い、それ故に青年は真に覚悟があるのかを確かめるべく響希に問う。

だが覚悟を決めている響希の答えは変わらない。

 

「行きます!!

島の外のことはあんま分かんないけど、そんなオレでも力になれるのならこの島でじっとしてられない!!

外に出て誰かのために戦いたい、そのためなら何でもやります!!」

 

「……そうか。

なら、顔を上げろ」

 

 純粋な心を持つが故の言葉なのだろうか、響希の言葉からは一切の迷いもなく、そして彼自身からも揺るがぬ意志のようなものが感じ取れた。

そして言葉と彼自身から感じ取れる意志を受けた青年は響希の方を見ると顔を上げるように言い、響希が顔を上げると青年は響希に伝えた。

 

「本土には三十分後に船で向かう。

それまでに身支度をして船着き場に来い。

オレが責任をもって連れていく」

 

「はい!!」

 

 

 ******

 

 ……二十分後

 

 青年が響希に伝えた約束の時間まではあと十分ある。

青年はいつ響希が来てもいいようにもう船着き場にて待っていた。

 これから響希とこの青年が乗るであろう船も停泊しており、その船には青年の着る青いコートにも似た青い軍服を着用した男が数人乗船していた。

 

 青年は船に乗ることなく船着き場に設けられたベンチに座っており、その隣には久遠弦一郎も座っていた。

孫の響希がまだ来ぬ中、何故か弦一郎はいたのだ。

 

「一つ約束してくれぬか?」

 

「約束?」

 

 ベンチに座る二人、弦一郎が口を開いて言葉を発すると青年にある事を約束してほしいと申し出た。

 

「何があっても響希に怪我をさせないと約束してしてくれぬか。

あの子には何があっても傷を負わせないと約束してはしいんだ」

 

「あぁ?

狂魔との戦いをナメてやがんのか?

狂魔と戦えば……」

 

「狂魔との戦いがどれほど過酷かは理解している。

だからこそワシの頼みを聞きいれて欲しい。

何があっても……響希を守ってほしい」

 

 頑なに響希を守ることを約束しろと言う弦一郎。

弦一郎のそのしつこさに青年に呆れてため息をつき、ため息をついた青年は渋々弦一郎の頼みを聞き受けることにした。

 

「分かった。

そこまで言うならアイツのことは何とか面倒を見てやる」

 

「いいか、必ず守っ……」

 

「すいません、遅くなりました!!」

 

 青年に念押しするように弦一郎が言おうとするとタイミングよく響希が走ってやってきてそれを邪魔する。

最低限に荷物をまとめたのかカバンを一つ持っており、青年はベンチから立ち上がると荷物をまとめてきた響希を船に案内するように歩き始めた。

 

「待ち合わせ時間に送れていないから問題ない。

とりあえずあの船に乗れ」

 

「はい!!」

 

 先に船に乗ろうと青年が歩いていく中、響希は元気よく返事して彼のあとをついていこうとするが、それよ。もまず弦一郎の方を見ると元気よく伝えた。

 

「じぃちゃん!!

オレ、絶対帰ってくるから!!」

 

 響希の言葉に弦一郎は涙をうかべ、響希は手を振ると青年のあとに続くように船に乗っていく。

 

船に乗ると響希は素朴な疑問を青年に問う。

 

「そういえば、オレはアナタをなんて呼べばいいんですか?」

 

「……狂月飛色(きょうげつひいろ)、狂魔を討ち滅ぼす者が集う『天護星団』の部隊『乙女座』の隊長を務める男だ」

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