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クラス転移で神様に?  作者: 空見 大
幼少期編:王国

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29:思い

「……終わったか」


 神の力によって天に昇っていく魂を眺めながら、エルピスは自分で戦いが終わったことを飲み込むために言葉に出す。

 既に神域の範囲内に存在していた敵は全て制圧していることは確認済みで、アウローラの奪還が無事に終わったことを実感できていた。

 一刻も早く彼女の元に向かうべきだとは思うエルピスだったが、激戦の後の妙なけだるさで体をまともに動かせない。

 その場に倒れこみ、体力回復に努めていると見知った気配が近寄ってくる。


「結構苦戦したみたいだな?」


「強かったからね。正直結構危なかったよ」


「……そうか。よく頑張ったな」


 さすがに寝ころんだままなのもどうかと思いエルピスが上体を起こすと、イロアスは近くまでやってきてエルピスの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 現場の状況やいまのエルピスを見ればそれなりに差が開いた戦いであったことは言うまでもない。

 エルピスの口にした危なさは称号を開放していなければどうなっていたか分からなかったというものである。

 逐一エルピスの方を気にする気配を出していた両親に対して事細かに戦いについて説明するのもなんだかなという気分ではあるので、あまり深く追求してもらいたくはない。

 そんなエルピスの感情を読み取ってか、イロアスは特に踏み込んでくるつもりは無いようだった。


「父さん達の方は大丈夫だった?」


「俺らは大丈夫だよ。クリムも張り切ってたしな、超おっかなかったぞ。正直俺殆ど何もしてない」


「怪我がなかったならよかったよ」


 久々に暴れられる場所を見つけ有られて、母も張り切っていたのだろうとエルピスは考える。

 貴族として暴れる事を禁止される生活は龍人である母にとってみれば相当に厳しい生活環境だろうことは察するにあまりある。

 心配するなんて生意気だぞと言いながら髪をくしゃくしゃにされ、そんな父の行動に笑いながらもエルピスは伝えるつもりだった事を意を決して口にした。


「父さん、帰ったら父さん達に話したいことがあるんだ。俺、もう逃げないって決めたから」


「いつになく真面目だな。分かった、クリムには俺から言っておいてやる。とりあえずアウローラちゃんのところに行ってこいエルピス。後の処理はしといてやるから」


 イロアスに背中を押され、エルピスは立ち上がる。

 アウローラがどうなっているかエルピスは未だ知らないが、どうなっていたとしても自分の所為だと受け入れる覚悟はいまできた。


「じゃあ行って来るよ、父さん」


「あぁ。行ってこいエルピス」


 満面の笑みで送り出してくれる父を背にして、エルピスは森に向かって走り出すのだった。

 きっといまだ怯えているだろうお嬢様の心を少しでも楽にしてあげたいと願って。


 /


 ーー島の中を移動して2分ほど。

 戦闘時ではないので全速力で走ったわけではないが、それにしても随分と大きな島だ。

 敵が隠れるために選んだのだから当たり前ではあるのだろうが、ただ移動するだけでも地形が入り組んでいて動きづらい。

 <神域>で時々母の位置を確認しながらエルピスが走っていると、ふと開けた場所に出る。


「あ、いた」


 自分の身長程もある草をなんとか掻き分けて進んだ先に湖が見え、そこに居たのは目印としていた母、クリムである。

 ところどころ体が真っ赤に染まっているが、見て直ぐわかるのはそれが全て返り血であることだ。

 魔法で戦っているイロアスとは違い、クリムは己の拳で戦うので相手の返り血が付いてしまうのは仕方のない事だろう。

 何のために湖に居るのかと思ったが、返り血を流すためだったらしい。


「ーーエルピスッ! 無事だったのね!!」


「か、母さん! ギブギブ! 死ぬ! 死ぬから!」


 目があったかと思うと、反応出来ない速度でエルピスを抱きしめたクリムに必死の抵抗を見せるが、それすら許されずに抱きしめられる。

 ーー不意にエルピスの顔に水滴が落ちた。

 一体なんだと水滴の元に視線を移してみれば、落ちてきていたのは母の涙だ。

 その涙は不安からか、はたまた安堵からか。

 父とは真反対と言っても差し支えのない反応にエルピスは少し戸惑いを覚えるが、されるがままに黙って抱きしめられる。


「あんなに派手に戦って……! 大丈夫なの?」


「俺は大丈夫だよ。母さんも大丈夫だった?」


「……私なら大丈夫よ」


 そうだろうなとは思って居るが、さすがにここで母さんなら無傷だと思ってたよと言えるほどエルピスは空気が読めないわけではない。

 どこかふくみのあるクリムの言葉に対して何とも言えない表情を浮かべつつ、エルピスは気まずい空気を誤魔化すように話をそらす。


「なら良かった。父さんが母さんが張り切ってたから殆ど戦ってないって言ってたからさ」


「もう! イロアスったら、ちょっと暴れただけなのにそんなに誇張しちゃって」


 ぷりぷりという擬音が似合う様な、可愛らしい怒り方をしている母に対してエルピスが少し苦笑いをすると、クリムもつられた様に笑い出す。


「ふふっ。エルピスはお父さんみたいになっちゃダメよ?」


「……頑張ります」


「絶対だからね? 私はちょーっとイロアスと喋ってくるわね。フィトゥスに雑務は任せてあるから、アウローラちゃんはエルピスに任せたわよ?」


「うん。任せておいて」


「頑張るのよ、エルピス」


 クリムは言葉を言い終えるとほぼ同時に、目の前から消える。

 転移系の魔法が使えなかったはずだからおそらく全力で走って行っただけだろう。

 龍神の目にもあっという間に消えたように見えたクリムの背中を見送り、エルピスはアウローラの気配がする方に受かって足を進める。


「……酷い匂いだな。鼻が曲がりそうだ」


 少しして巧妙に隠されていた洞窟の中に入ると、鼻が曲がる程の異臭が辺りに漂っていた。

 思わず顔をしかめるほどの臭いに魔法で空気を製造しなんとか臭いを避けながら進んでいくと、牢の中に横たわる人間が見える。

 手足の欠損や眼球を失っている者も少なくなく、中には他の生物と混ぜられでもしたのか、人間には見えない人物も数名ほど見受けられた。

 どうやらこの島、今回限りの急ごしらえで使われた場所というわけではなく、定期的にそういった事のために用意されていたらしい。

 ただ廊下を歩くだけで吐き気を催すような感覚に襲われ、言いようのないストレスと共にエルピスはただただ歩く。

 そうして洞窟の奥の方にまで行ってみると、フィトゥスが壁際に立っているのを目にする。

 背後にある扉を守るようにして立っているので、その先にアウローラが居るのは間違いない。

 周囲を警戒していたフィトゥスはエルピスの方を見つけると明るい笑顔を見せながら近寄ってくる。


「お疲れ様でしたエルピス様。アウローラ様はこの先に」


「ありがとう、フィトゥスもお疲れ様。敵の捕縛もしてくれたんだって?」


「はい滞りなく。いろいろ今回の戦いについて語りたいですが、今はアウローラ様を優先してあげてください」


「ありがとう、フィトゥス」


 見送ってくれるフィトゥスを背にして洞窟を奥まで進んでいくと、小さな部屋の扉に突き当たる。

 洞窟の中で生活するために無理矢理作られたというのが見て分かる程度には雑な作りになっているその扉を開け中に入ると、奴隷達が寝るような粗雑なベッドに寝かされているアウローラとその横で回復魔法を使っているらしいリリィが居た。

 リリィはエルピスが入出してきたのを見ると無言で頭を下げて部屋の外へと出ていき、エルピスはそんなリリィを見送ってアウローラベッドの横に座る。


「ごめんね、助けるの遅くなって」


「……ええっと、その声はエルピス? ごめんいまちょっと前が見えなくてさ」


 そう言われてアウローラの顔に視線を向けると、痛々しいバツ印の傷が彼女の顔に深く刻まれていた。

 回復魔法のおかげでまだ見れる程度にはなっているが、それでも少しでも触れば傷口が開いたり放っておけば化膿することは十分に考えられる程の傷だ。

 声からは感じられないが、いまだに相当痛むだろう。

 回復魔法をかけて上げるとほんの少しだけ気配が和らいだように感じられたことからも、激痛が走っているのは疑う用地もない。


「……目、敵にやられたんだよね?」


「……そうね。まぁでも目だけで済んでよかったのかも?」


「……すいません、俺があの時助けられていれば」


「ーーいいのよ、別に。直せないわけじゃないし、魔法様様ね」


 傷は治せるだろう。

 怪我をしてから1日以内に回復魔法を当てているので、傷口だってきっと残らないとは思う。

 だが痛いものは痛いし、心に追った傷は回復魔法だってどうにもならないのだ。

 痛いなら痛い、苦しいなら苦しいとそう言ってくれればいいのに、自分に負い目を負わせないためにアウローラが気を使ってくれているという事実が彼にとっては何よりも心苦しかった。


「…………ぁ………っ」


 声を出そうとして、喉の奥に言葉が詰まる。

 ごめんなさい。

 あの時助けられなくて、直ぐにどちらを助けるべきか選べなくて、自分を犠牲にするという選択肢を考えることが出来なくて。

 頭では言葉は出てくるのに、彼女にその言葉を打ち明けることが出来ない。

 一体どうしてなのか。

 あれだけ強い敵と戦っても問題なく勝てたのに、命を賭けた戦いでも普段通りの行動が出来たのに。

 なのにどうして、こんな簡単な言葉も口にできないのか。

 気が付けば涙があふれ出していた。

 自分の不甲斐なさが、アウローラを傷つけられてしまったという悲しみが、でも彼女を助けられたという喜びが。

 複雑に絡み合ったそれはエルピス自身にも一体なんなのか分からないでいた。


「どうしたの? 敵はもう倒してくれたんでしょ? 早く王国に返ってみんなに心配しなくても良いって言いに行かないと」


 アウローラの言葉に、エルピスは顔を上げる。

 そうだ、こんな場所ではなくもっといい場所に連れて行ってリラックスさせてあげなければいけない。

 自分に出来るのはそれくらいだと思いエルピスが転移魔法を起動するためにアウローラにそっと触れ、ふと気が付く。

 彼女の体が震えていることに。

 そして自分がどうして彼女にここまで強い感情を向けているのか、その訳にも。


「ごめんなさい…ごめんなさい。怖くて、痛かったはずなのに……ごめん」


 気が付けばエルピスはアウローラの体を抱きしめていた。

 涙を流しながら、溢れ出る感情を抑えるように。

 神の膂力でアウローラが押しつぶされてしまわないように細心の注意を払いながら、それでも彼女に一人じゃないんだと分かってもらうために強く。


「ど、どうしたのエルピス?」


 急に抱きしめてきたエルピスに対し、アウローラは当然困惑していた。

 エルピスと仲は良い方だと自負していた彼女だが、少なくとも彼女から見たエルピスは肉体的接触に対して酷く怯えている節がある。

 思春期の男子らしいと言えばそれまでだが、そんな彼が恥じらいどころか涙まで流して抱き着いてきたことで何が起きているのか分からなかったのだ。


「……俺は、貴女がどうしてこの世界に来たのか知らない。貴方の前世の事だって何も……何も知らない。でも貴方がこの世界で、どうやって生きてきたのか、どうやって生きていこうとしているのか、それは知ってるつもりです」


 少し前、アウローラが舞踏会で大人たちに紛れていた時にエルピスは心の底から疑問に思って居た。

 どうして彼女はこんなところに居るのだろうかと。

 いま思えばうすうす彼女がどうしてそんな事をしているのか、エルピスは理解していたのだ。

 自分だって同じようなことを思って、同じように動いていたのだから。


「俺相手なら、弱い所を見せたっていいんです。自分の価値を魅せる必要もない、気を遣う必要だってない。だから辛かったら、辛いって言ってください……!」


「どうしたのエルピス、今日はやけに感傷的ね。そんなに気にしなくても私は……あれ? ……ははっ、なんでだろ…涙、とまんないや」


 気付けばアウローラの目からも涙が滲んでいた。

 なぜ自分が泣いているのか、自分自身ですらそれを理解できていなかったアウローラだったが、一度出てしまった涙は堰を切ったように溢れ出す。

 それと同時に見せない様にと隠していた感情が一気に爆発する。

 エルピスを力一杯抱きしめ返し、少しでも感情を抑えようと努力してしまうが、エルピスの言葉はそんなアウローラのことも肯定してくれた。


「……っぐ……ぅ……うわぁぁぁん!!!」


 遂には声を上げて泣き始めてしまうアウローラ。

 確かに精神年齢は同年代に比べれば高いだろう。

 異世界で長年暮らした経験がある分、同年代に比べれば知識があることは間違いない。

 それでも彼女は未だ10歳の子供で、成人を迎える歳だとはいえ守られるべき幼さだ。

 声を上げて泣くことを誰が責められるだろうか。

 感情に身を任せることを誰が否定できるだろうか。


「無事で、本当に良かった」


 そうしてエルピスはアウローラが泣き止むまで、ずっと彼女の事を抱きしめ続けた。

 一人じゃない、自分もいるから大丈夫。

 そう声をかけ続けたのはアウローラに対しての優しさだけではない。

 エルピスもまた今回の一件を深く受け止めていた。

 自分の人生で初めての大きな失態。彼女とは違い親との間で異世界人である事を前提とした話をしたことがないエルピスは、家族に捨てられるという考えるだけで恐ろしい事をこの事件中意識し続けていた。

 だから、もしもを考えると不安で押しつぶされそうなのはエルピスも同じだった。

 彼女に一人じゃないと言い聞かせるのは、エルピスも自分が一人じゃないと思いたかったからだ。

 さすがにずっと抱き合っているのもなんなので離れはしたが、いつもの事を考えれば二人の距離はずっと近い。


「本当はさ、すごく怖かった。フィーユちゃんを庇った時は咄嗟だったけど、助けた後にああ私これで死んじゃうんだって思った。そしたらさ、いままで頑張ったこと全部無駄になっちゃうんだって、そう思ったの」


 アウローラは胸の内を語る。

 いままでずっと隠していた感情を、誰かに聞いて欲しくて。


「捕まえられて、目を切られて、痛くて怖くて。しかも共和国の盟主が私を欲しがってて、だからいまは手を出されていないだけだって聞いて本当に怖かった」


 アウローラの言葉は続く。


「自爆して、周りを巻き込んで死んでやる! ってほんの一瞬思ったけど、まだまだこの世界で生きていたかった。それに私は……人を殺せなかった」


 何にもできない自分がアウローラは許せなかった。

 中途半端で決断を先送りにし、誰かに助けてもらえることを期待してしまう自分を。

 だがエルピスそんなアウローラの姿を見て、少し羨ましかった。

 決断を強いることは簡単だが、それを受け入れられるかどうかはまた別の話だ。

 決断を渋ってしまうその考え方はとても人間らしい感覚なと思う。


「良いと思うよ、それで。やりたくてやるわけじゃないんだから」


「ごめんね、エルピス。貴方に辛い思いをさせて」


「いいよ俺は。この世界じゃ、大切な人を守るためにはいつかこういう日が来るって思ってたから」


 いまごろ、彼らもこちらにきているはずだ。

 異世界人達がどういう扱いを受けているのか、なんとなく聞いたエルピスら同級生の所在を割り出すため私財をはたいている。

 ひどい環境に彼らがいれば奪還するために手をかけることも必要だろうし、母を守るために緑鬼種を殺したあの日からエルピスは覚悟を決めていた。

 だから気にしないでと伝えたエルピスは、言い切った後から徐々にアウローラの顔が赤くなっていくのを見た。

 一体何が原因で彼女はあんなに顔を赤くして──


「──あ、ちょ! いや、あの! 大切な人って言うのはね? お友達とかも含めてのアレだから! 決してそう言うアレじゃないから!」


「わ、分かってるわよ。分かってる」


「そ、そろそろ行きましょうか。あんまり待たせておいてもあれだし」


「そうね。そうしましょう。できるだけはやく」


 2人の間に微妙な空気が流れる。

 命を張ってまでこの場所に来たのだ、そういった勘違いをするのも仕方のないものだろう。

 少なくともアウローラの中でエルピスの認識がチート能力を持った子供から、頼りになる男性まで昇格したことは疑う余地もない。

 さっさと他の人を間に入れて、空気を元に戻そうという判断は両者の間で暗黙ながら合致した。


「歩けないだろうし、おんぶしていくよ?」


「何から何まで、悪いわね」


「良いよ。全然。もしまたこんなことが有っても、次は絶対攫われる前に助けるし、もし捕まってもまた絶対に助けに行くよ。だから、自棄にはならないで」


「うん。任せたわよエルピス」


 短い会話を最後にして、二人はみんなのいる所まで歩いていく。

 道中に会話はなかったが、不思議と気まずさはなかった。

 次は絶対に守り切る。

 そんな決意を胸に秘めつつ、エルピスは明日からの王国祭をどう乗り越えようかふと思い出すのだった。

一章これにて終了です。二章以降はカクヨム・アルファポリスで公開中

読んでくださってありがとうございます

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