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 まあしれっと、ゲームヒロインやらクソビッチやら言っているところで御察しなので今更だが。



 王子、もといアルドリック・アン・アクセルは、日本の大学生だったらしい。出身は東京で、趣味はオンラインゲームとサイクリング。週末はゲームをするか自転車で遠乗りをするかのどちらかだと言っていた。

 そして彼も、『ぴゅあらぶすと〜り〜』をプレイしたことがあるらしい。友人から押し付けられるようにもらったのだとか。それでもきちんとクリアするところ、王子はなかなか真面目な性格らしい。


 記憶を思い出したのは三歳ごろ。ちょうど初めての魔法を使った時から思い出し始めたのだと言っていた。そこは私と似ているらしい。小さい頃からじわじわと思い出した、というところは共通している。


 なるほど前世の記憶があるのなら、バカ王子にならないことも納得だ。性格が違う疑問が解決された。この国も安泰である。私が運命の相手とやらを間違えなければ。

 ……いや、待てよ。性格が違うというのなら、忘れてはいけないのがもう一人いるじゃん。



「待って頂戴、あなたに前世の記憶があるというのは分かったわ……あー、えっと、分かりました。ですが、では、クラウディア・クレイ・カーラ様はどうなのですか?」

「ここでは敬称も敬語も要らないよ。というかやめてくれ気味が悪い。……そうだね、クラウディアの説明をしていなかったか」



 ようやく思考の海から帰還した王子は、少し考えるように顎に手を当てた。

 ついでに敬語を外す許可をもらったので容赦なく乗っからせてもらおう。敬語って疲れるのよ。柄じゃないし。気味が悪いとは聞き流しておく。私は寛容なのだ。



「クラウディアは、きみの想像するようにゲームのクラウディアじゃない。

 しかし日本人でもないんだ」



 王子曰く、クラウディアも前世の記憶持ちだが、その前世というものは日本での人間のものではなく、この世界に生きた人間のものらしい。

 実際に確認を取ったことはないが、クラウディアの天真爛漫な振る舞い、また現代魔法具を見たときの反応などから考慮して、数百年前の平民の王国人だったのではないか、と考察しているとアルドリックは語った。

 ちゃんと確定した情報持ってこいと思わないことはないが、まあ、突然前世は異世界で生きた人間でこの世界はゲームでーなんて普通の人に言い出したら、完全に狂人だし、前世の記憶持ちだという確信があれど、確認を取らないのは当たり前だろう。明らかに怪しい私ならともかく。



「しかし、まいったなぁ……」



 アルドリックが、心底困ったというふうにため息をついた。なんだ急に、と半眼になると、「きみの運命とやらの話だよ」と逆に呆れられる。

 失礼な。忘れてなんかいない。他に気を取られていて咄嗟に思い出せなくなっただけだ。断じて忘れてない。ないったらない!



「ああ…それね」

「忘れていただろう。……はあ、当事者がこれじゃ気も抜ける」



 仕方ないだろう、こっちだって実感がないんだから。

 私の顔を見て、情報は何もないだろうと悟ったが一応聞いておいてやる、と言った表情を隠さずに、アルドリックは指先で机をトントン叩いた。



「運命とやら、きみに心当たりは?」

「無い。攻略対象かなとは思ってるけど、あなたも分かってる通り、このゲームにメインヒーローも居ないし」



 身分が一番高いというならあんただけど、という目線を向けると、アルドリックは勘弁しろとばかりに首を振った。

 全く失礼な男だ。



「運命と言うからには、きっと出会いはするのだろうが……しかしヒントも何もないと探しようがないな」

「そうね……。あ、でも一つだけ」



 なんだ、と目を向ける王子。




「運命の相手、処女厨だってよ」




 ……非常に微妙な顔をした王子による「詳細はまた別の機会にしよう」という言葉で、この場はお開きになった。


 そしてこの言葉の通り、王子と私は秘密裏に運命の相手の考察をするようになる。しかし万が一文通が周囲にバレてしまったら双方まずいことになるので、王子からの文通の名義は例の侍従、ルキ・レオナードからということになっていた。

 ルキの父が国王によく仕えた忠臣であるということで、ルキは幼い頃からアルドリックの遊び相手として育ってきたらしい。ゆくゆくは王子のもとで秘書として取り立てられることだろう。その育ちもあり、アルドリックはどの家臣よりルキを徴用している。だからこそルキは王子に降りかかる面倒ごとを毎回一緒に被っているのだが。



「毎回申し訳ありませんわ、ルキ・レオナード様」

「貴女が気にすることは何もありません、ミーナ・ルチナ嬢。我が主人の名に従うのみですから」



 ミーナの事情(このこと)も、降りかかる面倒ごとのうちの一つだろう。

 万一でも私との関係を悟られたくないとみえる王子は、情報を撹乱するためか、私を監視するためかは不明だが、ルキ・レオナードに私に目をかけるよう命令している。廊下などですれ違った時など、よく話しかけてくるルキを見ていれば流石に察した。

 お陰で、周りにはちょっとした噂として私とルキが惹かれあっているだとかあり得ないものが流れている。冗談じゃない。私としても運命の相手とやらに知られたら厄介だし、ルキだって好きな相手がいるのだ。ルキの好きな相手とは……まあ、この話はまたあとでしよう。

 それよりも大事な問題が発生してしまったから。



 それは目の前に迫る少女……アッシュブラウンの髪を揺らして、切羽詰まった表情で駆け寄ってきた、彼女に由来する。




「お願いっ、ねえ、今代の聖女の、あなた!

 どうか、ガリオンさまを……っ!」




 彼女の名前は、ハリエット・ハイダ・ハンナ。宰相の息子、ガリオン・グス・ガーランの婚約者のメンヘラ伯爵令嬢その人だった。



気付いたら評価をされていただいていたようで…!恐縮です。これからも精進します。

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