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「はあ!?世界滅亡だって!?」
「だからそうだって言ってるじゃない」
追い詰められた私は、あっさりさっくり前世についてをゲロったのでした。めでたしめでた……いえ、ちっともめでたくないね。
一度は、周りに聞かれたくないからちょっと、と断ろうとしたけれど、妖精石を用いた魔法道具でばっちりの防音対策を取られてしまったため、断念。用意周到か。
まあそういうわけで。
私は王子に、私が日本からの転生者であること、この世界が乙女ゲームの世界であること、そして、私が正しい相手とくっつかないと世界が滅亡することを白状した。
王子はどうやら、世界滅亡のことは一切知らなかったらしい。それどころか女神の干渉は一切なし。女神は転生者にお告げしに来ることはなく、むしろ私がレアケースだとか。
そのせいで少し混乱しているらしい。あ、大きくため息ついた。そりゃそうよね、次期国王としても、この世界の住人としても、小娘の恋愛に世界の生存が掛かっているなんて、認めたくない話だろう。
__アルドリック曰く、私が転生者であることは、早々に分かっていたらしい。
最初の疑惑は私を神殿で見たときのこと。
なんだってそんなことで、と思ったら、なんでも王子、私が見習い修道士を小突いているところを覗き見していたらしい。
確かにゲーム通りのヒロインであればそんな行動しないが……。
小突いてきた見習い修道士は、それはそれは生意気なのだ。聖女の私にも突進してくるわ水こぼしてくるわ、私が注意しても周りが注意しても全く効かない。そんな訳で、不本意ながら鉄拳制裁をしていた訳だ。
本来の『ミーナ・ルチナ』、つまりは原作のミーナであれば、ふえぇと泣き「ひどいっ」とか「やめてよぉ……」と震えて見せるのだろうが、生憎と現在の『ミーナ・ルチナ』であるのは私なのだ。
クソガキにはそれ相応の鉄拳を。相手が子供といえども容赦はしない。というかそのままでいて将来女に逃げられ泣く羽目になるのは少年の方だ。むしろ感謝して欲しいくらいである。
話が逸れた。
まあそういう訳で、私がおそらくゲームヒロインのような性格をしていないと疑った王子は、入学式の時に注意深く見ていたそうだ。なにそれ初耳。
入学式なんて、私にはあまりにも興味がなさすぎてビュンビュン飛び回る妖精を眺めていた記憶しかないのだが。
王子はこの時まで、私の性格をさぞ悪いものだと疑っていたようだ。誠に遺憾である。
彼から言わせると、不可抗力らしい。この手の創作物で、アホ王子が現代人の精神と混ざってまともになり、悪役令嬢が可愛らしく謙虚な性格になったときたら、残るヒロインは転生者かつ逆ハー思考のクソビッチと相場がきまっている、とかなんとかいっていた。というかこのゲームに限っては、元のヒロインの性格がまさしく逆ハー思考のクソビッチだろうに。
しかしそれもすぐにおかしいと気付いたらしい。私が尽く出会いイベントを流しているからだ。
例えば騎士団長の息子のと廊下を歩いていると、主人公を妬む令嬢令息達に、後ろ指を刺されながら悪口を言われるイベントがある。
ゲームで主人公は、あまりのショックで泣き出してしまう。それを見た騎士団長の息子が、「可憐な令嬢を寄ってたかって虐めるなどと、騎士として見過ごせない!」と周囲に叱責するのだ。
しかし現実では違う。周囲から陰口を叩かれたミーナは、「あらあらこの国の貴族の方は妖精に嫌われても構わないようですのね、凄いわ!」と自分で撃退してしまった。聖女の未知数な力を恐れた貴族は散るようにして逃げた。そのお陰でミーナと騎士団長の息子は顔も合わせずに終わった。
それに魔術師団長の息子とのイベントもそうだ。彼のイベントは、魔術の授業で彼と主人公がペアを組んで行うというものだった。
ゲームで主人公は、女子の中一人取り残されてペアを組めず、そこで魔術師団長の息子に声を掛けられてペアを組むことになるのだ。
しかし現実では、既に話し相手を作っていたミーナがさっさとペアを作ってしまったことで、魔術師団長の息子とも顔を合わせずに終わってしまった。
因みに、ミーナは自分の代わりに余ってしまった少女も引き込んで三人組を組んだ。教師も、思春期の貴族令嬢に男女混合ペアを強いることはせず、至って穏やかな授業が行われたという。
流石の王子もおかしいと思ったらしい。しかし、理由もなくいきなり王子が話しかけてしまったら、それこそ学園がひっくり返るような大騒ぎになってしまうだろう。婚約者のクラウディアにも悪いと思い、静観すること一週間。
ついにやってきた機会が、先程の騒動だ。
本当はもう少し冷静に話しかける予定だったらしいが、泣いているクラウディアを見て頭に血が上ってしまい、ああも攻撃的になっていたらしい。迷惑極まりない。しっかり原因である悪役令嬢たちの方に罰を与えて欲しいところである。勿論ちくった。
先程の受け答えで、ゲームヒロインそのものでも、クソビッチでもないと確信した王子は、「ハンカチのことで謝罪したい」と訴えた婚約者を、言い方は悪いが口実にして、私を呼びつけ素性を吐かせた、というのが今の現状。
ま、私としても敵を増やす展開にならなくて結果オーライだ。むしろ心強い味方ができたと言っても過言ではない。
何せ、アルドリックは私と同じ日本からの転生者だったから。
地味に難産でした。
一日一話を目指して頑張ります。