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 アルドリックはみどりの瞳を細めて、問う。



「では率直に聞こう。きみは誰だ」



 いきなり切り込むなあ、と現実逃避できるものならしたい。でも、この男の前で逃避しようものならきっと弱点を晒す事になるだろう。油断ならない奴だ。

 不安そうな表情を貼り付けて、出来るだけ普通の女学生の態度で、私は答える。

 ポーカーフェイスは苦手だけど、さすがにすぐに打ち明けるわけには行かないよね。バレませんように、頼みますよ女神様。聞くかどうか知らないけど。


「わたくしは……トーン男爵が長女、ミーナ・ルチナですが……?」


 言っている意味がよく分からない、という風に首を軽くかしげる。残念だけど、あんたの方から何かを晒さない限り、私も晒す気はないよ、という意味も込めて。

 本当にアルドリックがこっち側の人間だったとしても、こちらの味方であるとは限らないし。そもそもこんなに喧嘩腰でふっかけられて、たやすく正体晒そうなんて思えないよね。



「ただの男爵令嬢だと?」

「申し訳ありません。わたくし、浅学なもので……分かりかねます」



 にっこり。脳内でコングが鳴った気がする。ついでに空気は冷え込んだ。心なしか護衛の顔が引きつった気はするけれど気にしない。それが嫌ならお前らの主を止めろって話だよ。



「ミーナ・ルチナ嬢の話は聞いていたよ。何せ稀代の聖女だと呼ばれているからね」

「ええ、はい、恐れ多いことでございます。わたくしのような者には、勿体ない称号ですわ」

「そんなことはない。君の祈りには特別だ。私も一度拝見したことがある」



 いや見たことあるんかい。確かに高位貴族が見学やらなんやらに来ることは何回かあったが、王族まで来ていたとは。流石に知らなかった。

 思わず眉を動かしてしまった私を見て、アルドリックは続ける。



「祈るきみの周りを舞う妖精たちの姿はとても神秘的だったよ」

「……ありがとうございます」

「ああ、童話の世界にでも迷い込んだようだった。そう思わない?」



 にこり、油断出来ない顔で笑う王子に、私もにこり、と笑顔を返す。ぼろをださないように気をつけながら。



「自分では、よくわかりませんが……殿下がそう仰るのでしたらそうなのでしょうね」

「そうとも、自分の評価は自分では分からないものだ」



 にこり、と笑ったあと、ところで、と王子は続ける。



「君は、精霊が好む人間の特徴を知っているかい?」



 突然の話の方向転換に、つかの間思考が止まる。

 精霊が好む人間の特徴は、一応教会で習った。しかしそれも、「知恵深いもの」とかいうざっくりしたものだけだ。該当者多過ぎだろと呆れた記憶しか無い。



「それは、『知恵深いもの』……という教えですか?」

「そうだ」



 頷くと、アルドリックは後ろに立っていたルキから紙とペンを受け取った。いつの間に、と驚く暇も無く、彼はさらさらと慣れた手つきで何かを書き記していく。

 書かれているのは、偉人の名前だ。しかしその分野はばらばらで、多彩な魔法で数々の名声を集めた英雄も居れば、料理界に革命を起こした__しかし言ってしまえば成果はその程度しかない__者も居る。いずれもこの世界に影響を及ぼした人物であることは変わりないが、それにしては統一性が無い。

 唯一の共通点と言えば、そう、どの人も「精霊に愛された者」と呼ばれていたことくらいだろうか。



「彼らを知っているか?」



 アルドリックが問う。この世界に生き、ある程度を学んできたならば知っている名前ばかりだから、当然知っている。そう答えれば、アルドリックはおもむろにそれらの名前を指でなぞった。



「まずこの方だが、料理人だ。数々の料理を生み出したのは知っているね?」

「ええ、存じ上げております」

「やきそばパンや、万能調味料マヨネーズなるものを生み出したりしている」



 は?

 ……と、口にしなかった私を褒めて欲しい。唐突の日本要素に唖然とする私をよそに、王子は続ける。



「こちらも有名な作家だ。分かるよね?」

「……ええ」

「代表作として、『シンデレラ』や『白雪姫』などがある」



 聞き覚えがありすぎる名前に頬が引きつる。それでも、王子はつづける。



「こちらは音楽家だ」

「……そう、ですね」

「代表作は『きらきら星』。他にも様々な音楽を作っているね、学園でもよく聞くだろう?」



 聞いたことがある曲だと思っていたがまさか本当に聞いたことがあるとは。というか著作権とかいいのか!?いや、異世界だからいいのか?……いやいや、今はそういう話じゃなくて!


 思わず冷や汗が湧き出た。ここまでヒントを出されれば、流石の私でも察することができる。

 __これらの人々は、妖精に好かれていたと言う。「知恵深きもの」と呼ばれるかれらが好かれた「知恵」とは、つまり……前世の記憶、なのではないかということに。


 顔の色をなくした私に、王子は、綺麗に笑って、言う。




「ミーナ・ルチナ嬢。

 きみも精霊に好かれるものだったね?」





 ぼろを出さないように決めた矢先に、四面楚歌すぎませんか。女神様!!

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