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 たいへん不名誉なことに乙女ゲームの主人公に大抜擢されてしまった私がまずした事と言えば、攻略対象者の洗い出しである。

 何せこのゲームをしたのはたった一回だけ、内容はほとんど流し見だった。クソゲーを真面目にプレイする方が馬鹿なのだ。まあそれはそれとして、私は一応人類の危機を身に背負っているのだし、やれることはやらないと女神にどつかれそうだな、と思ったため、攻略対象者を書き綴ってみることにした。


 攻略対象者は、表向きには四人。隠しキャラを入れると、五人になる。乙女ゲームとしては、格段攻略者が多いわけでは無い。が、それぞれに一応取り合いエンド(有り体に言うと3Pやら2Pやら)が存在したり、ハーレムエンドが存在したりと、色々ひっくるめると結構な重量になる。中身のぶっ飛び具合からは想像できないほど、無駄に凝った分岐だ。



 攻略者の、まず一人目は、王太子。

 名前はアルドリック・アン・アクセル。

 金髪に緑目、性格は俺様系。決め台詞は「フッ……面白い子猫ちゃんだゼ」。やたらと顎クイ壁ドンが好きで、ユーザーに「そろそろ主人公の首ガクガクになりそう」と言わしめた人物。語尾はなにかとつけて片仮名になりがち。俺様というかナルシストというか、一昔前のギャグ漫画で出てくる典型的な高飛車お坊ちゃまを体現したような性格で、こいつに国を任せたら国は一瞬で滅びるだろうとプレイヤーたちのあいだでもっぱらの噂だった。まあ、それを言うと、色香に迷って低い身分の女に入れ込む将来の王の側近で現高位貴族の攻略対象者は皆ぼんくらということになるし、王太子が真面目だろうが無かろうがお国滅亡待ったなしだろう。

 婚約者に癇癪持ちの公爵令嬢がいる。アルドリックルートに行くと、彼女に虐め倒されることになる。


 二人目は、騎士団長の息子。

 名前はバルドヴィーノ・バナン・バルドメロ。

 茶髪に黄色の目、性格は体育会系。決め台詞は「元気ですかーーーーーッ!!!」。すぐ大声を出す事に定評があり、終盤には彼のグラフィックが出るだけでユーザーから「既にうるさい」と苦情をなげつけられる人物。グラフィックは大体歯を見せた笑顔である。筋肉ネタも大好きなため、もう全体的に暑苦しくてうるさい。

 婚約者に隣国の王女がいる。バルドヴィーノルートに入ると、彼女は友人である公爵令嬢や自分の取り巻きなどを連れて徹底的に主人公を虐めてくる。


 三人目は、宰相の息子。

 名前はガリオン・グス・ガーラン。

 緑色の髪に群青色の目、性格は秀才系。決め台詞は「ほう……○○ですか……」。他人と話しているとヌッと出てきて会話に加わってくるため、ついたあだ名は座敷童。あまりに自然に溶け込み存在感がないため、バルドヴィーノと一緒に居るとかき消されてしまうことに定評がある。正直本当に印象がなさ過ぎて詳しい話は覚えていないが、理想が高くて女の好みはコミュ障オタクの理想と変わらん言われた哀れなイケメン。

 婚約者にメンヘラ伯爵令嬢が居る。王太子の婚約者である公爵令嬢の取り巻きで、ガリオンルートに行くと彼女は主人公を公爵令嬢たちと一緒になって虐めてくる。


 四人目は、魔術師団団長の息子。

 名前はエドゼル・エデル・エカード。

 水色の髪に橙色の目、性格は根暗。決め台詞は「自然が……(オレ)を呼ぶ……」。彼の一人称が発表された時点で頭を抱えたオタクは数知れず。度重なる痛々しい言動のたびにプレイヤーは自身の黒歴史の回想で死に、最もプレイヤーを悶絶させたで賞ではぶっちぎりの首位である。ことあるごとに自然やら闇夜やらを語り出すうえ、此方にも「貴様もそう思うだろう、(オレ)は分かる。共に語らいそして闇夜の向こうへ」などと勧誘をしてくるため、プレイヤーからは「勝手にしとけ」「巻き込むな厨二病野郎」などとバッシングを受けている。

 婚約者に一つ年上の子爵令嬢が居る。彼女は魔術師団に所属が決まっている才能の持ち主で、エドゼルルートに入ると持ち前の魔法を生かして主人公を虐めてくる。


 最後に五人目の隠しキャラは、学園の教師。

 名前はヨハン・ヨシカ・ヨーゼフ。

 灰色の髪に茶色の目、性格は未知数。決め台詞は特になし。だが奇妙なことに、コイツに限ってはハッピーエンドが「存在しない」。各攻略者を一巡攻略すると解放されるヨハンルートは、毎回ヨハンが主人公の前から姿を消してエンドになる。これに関しては公式が予算や容量の都合で1ルートしか作れなかったとか、姿を消すことがハッピーエンドなのではないかとか、様々な説が流れている。色々と物議を醸しているキャラクターだ。

 尚これといった決め台詞は無いが、例の如くこいつも変人であるため安心して頂きたい。

 これには婚約者がいないらしいが、その間に他の攻略対象者に大量につばを付けているため、他の婚約者たちに袋叩きにされる。



 こう、ざっくりとした説明だけでも気が滅入りそうな人選である。世界のためとはいえこんな奴らの中から選ばなければならないのか。泣きたい。

 しかしまあ、「ふええ」「そんな……」「そうだったんですね」で大体乗り切れるゲームだったから大丈夫だろう、私はそう高をくくって入学したのだが。



 端的に言うと、攻略対象者の性格がおかしい。具体的に言うと、かなり常識人らしくなっている。

 顕著なのは王子だろう。といかそいつし会話してないけど。

 思いがけず会話することになってしまったが、何だあれは。まるで普通にしっかりした王子じゃ無いか。神殿で、現王太子は学に優れ武に優れた天才だ、という評価は聞いていたが、まさか誇張なしだったとは。てっきりお世辞かと思っていた。


 一人称は俺じゃなくて私だし、敬語を使っているし。なにより嫌っているはずの婚約者に対して、あの過保護っぷり。明らかにおかしい。何かが起こっているに違いない。


 おかしいと言えば、あの婚約者も。癇癪持ち設定は何処へやら、皆に嫌われる令嬢どころか皆に好かれるあの姿。元の悪役令嬢らしい、クラウディア・クレイ・カーラの姿は何処にも無い。高飛車ならばヨイショして転がそうかと考えていたのに、あれじゃあきっと上手くいかない。なんというか、私が苦手な純粋培養100%女って感じがする。もうやだ。



 因みに、ゲームでの王子との初エンカウントイベントは、さっきの中庭でだったりする。

 お祈りに行くために中庭を通る主人公が、偶然クラウディア率いる悪役令嬢軍団と鉢合わせ、軽くいびられているところに、「何をしている!」と王子が止めに入る……といった流れだったはずだが。



 実際に、さっき起こったことはこうだ。


 私がお祈りに行くために中庭を通るまでは同じだ。しかし、そこで鉢合わせたのはクラウディアではなかった。クラウディアを抜いた悪役令嬢軍団だった。


 そこで彼女らはくすくすと笑いながら、あろうことかクラウディアの悪口を言っていたのだ。あの方は王子に相応しくない、だの、血筋が汚れている、だの、本人が居ないことをいいことに好き放題言いまくり。さながらギスギスした女バス部員の裏の顔のようだった。おそろしや。


 確かにクラウディアの生家、エールデ公爵家は、比較的新しい公爵家だ。東の国の血が濃いために彼らの一族は皆黒髪で、色素が薄いことが多い古くからこの地にいる貴族と比べると、かなり目立つ。しきたりを重んじる旧式貴族は、エールデ公爵家の人間が王妃になることが気にくわないらしい。王家の金の血が汚れるとか云々。


 ぶっちゃけ、私にとってはどうでもいい。だれが王妃になろうがそこまで重要視していないし、正直悪評は自分の娘を王妃に出来なかった他の貴族が恨んで好き勝手言っているだけだろうと思うし。それよりも、次期王になる人間がいつ通るとも限らない場所で、次期王妃の悪口を言うなんて馬鹿をやる令嬢が居ることのほうが問題だと思う。実際すぐ後に王子来るし。


 まあそんな感じで、聞いていて思わず「馬鹿みたい」と呟いたとき、背後から物音がした。この音が聞こえた時点で走って逃げればよかった、と後悔しか無い。

 後ろにいたのは、案の定クラウディアだった。しかも、泣いている。


 人間は驚くと身動きが取れなくなるらしい。私は泣いているクラウディアと向かい合うことになり、そのうちに悪口を言っていた悪役令嬢軍団はそそくさと立ち去っていた。おい当事者どもふざけんな。

 そしてそのあとは、知っての通りである。



 原作とはかけ離れたストーリー。いや、かけ離れた性格か。

 ストーリーになぞって適当に相槌をうつだけでは、到底正解にたどり着ける気がしない。……これは思ったより、やっかいな話になりそうだ。




 攻略者の周りに、少しづつ探りを入れてみよう。そう決意をしたその日のうちに、チャンスは回ってきた。



微量の修正。内容は変わっていません

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