表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

2

 株式会社らぶあんどすうぃーと☆はぁとゲーム。読んで字の通りのゲーム会社である。

 らぶあんどすうぃーと☆はぁとは創業して一年程の新しい会社で、販売したゲームはたったの一作だけ。それも販売数は極わずか。

 しかし、らぶあんどすうぃーと☆はぁとはただのゲーム会社ではない。

 たったの一作しか出していないゲーム会社であるが、らぶあんどすうぃーと☆はぁとは、ネット界では名の知れた会社であった。


 クソゲーメーカーとして。


 らぶあんどすうぃーと☆はぁとの代表作(代表も何も一作しかないのだが)は、「ぴゅあらぶすとーりー〜あなたとわたしのナイショのキス〜」という名の乙女ゲームである。


 物語の詳細は省くが、名前の地雷臭を裏切らない地雷展開の乙女ゲームは瞬く間に話題になり、クソゲーオブザイヤー堂々の1位を飾ることとなった。そして、かくいう私もその話題に飛びついたオタクのひとりだった。



 では何故、急にこの話をしたか、というと。

 それは単純明快、私がそのクソゲー世界の住人であるからだ。



 ここでもったいぶっても仕方が無いので白状するが、私は小さい頃から前世の記憶があった。それは何の変哲もない、日本という異世界で平々凡々と暮らしていた女の記憶だ。

 まあ、前世の記憶、というと大層立派な物に聞こえるが、これがなかなかお粗末で、さっき言ったようなクソゲーをプレイしていた記憶と、ねじ曲がったオタク女魂があるだけだった。おかげさまで、幼児にはなかなか酷い環境でも逞しく生きることは出来たのでどちらかといえば利点だったと言える。

 兎も角。そんな前世の記憶持ちの私だが、何も最初からここが例のクソゲーの世界だということに気付いていた訳ではない。なんか見覚えのあるファンタジーっぽい世界に居るんだなあ、とはぼんやり思っていたが、なんせこの手の世界観のゲームは星の数ほどある。決定的な情報が無い限り、一つに絞り込んで特定することはほとんど不可能だ。

 ではどうやって私がこの世界のシナリオに気付いたのか。それは教会で神に祈りを捧げている時の話だ。


 ああ、急に教会に祈るとかいうと、熱心な教徒なのかと思われるかも知れないが違う。これっぽっちも敬う気持ちはない。……ざっくり説明すると、私は聖女の再来として教会で祈りを捧げることを義務づけられていた。この世界にはありきたりだが魔法という物が存在していて、それらは精霊に力を借りて具現化する。この魔法という物は王侯貴族しか扱えず、それは彼らが保持する魔力というものを糧にしているからだとか。詳しいことは不明だが、教会の教えによると、過去精霊と交わったものの血を引くものが魔力を持ち魔法を扱えるとかなんとからしい。わりとあやふやだった気がする。まあなんというか、文明もそれなりに発達しつつあるのに王侯貴族が優位に立ち続けている理由は、魔法が使えることに由来し、精霊との関わりで土地に恵みをもたらすからだとか。持てる物こそ与えるべしという我が国の教えの如く、貴族はより強い魔法を扱い民に施すことを至高とし、より強い魔法を扱えるものこそ至高であるという考えがある。

 そして私は平民の出でありながら、類い希なる魔法の才能を発現させてしまった。

 正しくは平民ではない。私は平民として産まれ育っていたが、父は一応貴族籍に身を置いていたらしい。とはいえ父も男爵家の出だし、ここまでの魔法の才能は一般人の母と男爵家令息程度の父との間の子供では本来あり得ないのだが。よく分からない。興味ないし聞いていない。父は私が乳幼児のうちに流行病で亡くなり、母も私が6歳の頃に亡くなった。それにより教会に存在を知られた私は、教会の後ろ盾を得て、父の実兄という男爵に引き取られ晴れて貴族令嬢となった。まあ、魔法の才能のある娘を野放しにするわけにも行くまいし。それでなくとも私が発現した魔法とやらは光魔法、200年前聖女と呼ばれた女性以降全く使い手があらわれなかったSSR級の魔法だったし。国としては囲い込みたいらしい。即日で16歳になったら魔法学園に入学することが決まっていたし。勿論私の意見など無い。人権はなかったのだ。

 まあ、長くまとめると、希有な魔法の才能を有していたがために今代の聖女として祭り上げられてしまった、という話だ。


その聖女の仕事の一環として祈りを捧げることがある。月に一度教会に顔を出して祈りを捧げるだけの簡単なことだ。

 

 話が大分逸れてしまったが、まあ、その決まり事の祈りを捧げているとき、急に、それはもう雷に打たれたように、ではないけれど。ふっと、頭の中に声が響いてきて。そうしって自分の使命を言い渡されたのだ。



 __ますか__

 __聞こえますか__

 __我が愛し子__

 __貴女が真実の愛を見つけし時__

 __闇夜は光を手にし世界に平和が訪れるでしょう__

 __まあ間違えると世界滅亡しますが__

 __どうか真実の愛を見つけなさい__



 本当に愛しい子だと思っているならばもう少し情報を与えて欲しかった、といまでも思う。脳内に直接話して言い逃げしやがったこの世界を司る女神(クソビッチ)は結構な役立たずである。

 そしてそのとき私は、あのときやったクソゲーもこんな導入だったなあ、と現実逃避し、ふと自分も身の上話を思い出して、全身の血の気が引いたのだ。こんなことなら気付きたくなかった、とは今でも思う。



 身内の不幸。光魔法を扱える男爵令嬢。いかにもらしいピンクの髪。なによりも、名前。

 そのとき、私の身体に衝撃が走る。そう、私ミーナは、この乙女(クソ)ゲーのヒロインだったのだ!



 そのとき思わず床に膝をついた。もはやちょっと泣いた。何が悲しくてあの女に転生したのか、と。

 それに、いろんな男に粉掛けまくり、婚約者持ちの攻略対象を陥落し「ふえぇ困っちゃうぅ」などとのたまいやがる主人公(クソビッチ)に、人類託して良かったのか女神様。とも思った。

というか、普通の乙女ゲームだったはずなのに、攻略失敗ペナルティがしれっと追加されてるし。世界に嫌われている。



 ……そのあと、どんなに泣き叫んでも私が主人公だと言うこと、私の恋愛に人類がかかっていることは変わらなかった。這いずり回って地団駄踏んだら、流石の女神もちょっと困ったような声をしていたが、ついぞ変えてくれることは無かった。クソビッチめ。

 そのうえ情報も出し渋るし。唯一手にした情報は「まあ相手は割と処女厨だから選定ガンバレ」という死ぬほどいらない情報だった。このクソビッチめ。



 __こういった経緯があり、私は晴れて乙女ゲームの主人公に転生してしまったのであった。全く嬉しくないね。

 あー、鬱になりそう。




魔法についての記述を改正しました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ