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 ライド王国魔術学園。その中の、手入れの行き届いた薔薇園の中心に立つ白亜のバルコニー。豪奢な__それこそ、その場に沢山配置される椅子をひとつ売れば、平民ならば一年遊んで暮らせるのではないかというほど__美しい調度品の並ぶそこには、今、三人の男女が対峙していた。


 方や、春の光を閉じ込めたかのような色の髪をし、みどり色の瞳を優美に細めた少年。

 方や、夜空を溶かし込んだかのような色の髪をし、すみれ色の瞳を涙で濡らした少女。

 方や、淡く色付いた赤薔薇のような色の髪をし、そら色の瞳でまっすぐと二人を見据えた少女。



「おや……私の婚約者に何かあったのかな、聖女殿」

「アルドリックさま……」

「まあ、殿下。滅相もありませんわ。わたくしはただ、エールデ公爵令嬢とお話をしていただけですわ」


 周囲は声も無く三人を見つめていた。それもそのはず、彼らはいずれ国の重鎮になる人物。その彼らが、空気が凍るほど険悪な雰囲気で対峙しているのだ。側近のものは胃を痛めながら、噂好きのものは面白がりながら、三者三様の瞳で彼らを見つめていた。

 みどり色の瞳の少年、第一王子であり王太子である彼は選定するように瞳を細める。その際に、周りの空気がより低まったのは気のせいではないだろう。現に彼の瞳には「嘘をつくな」とばかりに剣呑な光が宿っている。


「では何故、泣いている私の婚約者と、ふたりで、ここに居たんだい?」


 誤魔化すことは許さないとばかりに語気を強める王子。しかし、対峙する、聖女と呼ばれたそら色の瞳の少女は臆すること無く口を開いた。


「恐れながら、殿下。わたくしは曲がりなりにも聖女と呼ばれる者ですから、この時間には毎日、我らが神に感謝と祈りを捧げるのです。

そしてそのお祈りをするためにこの通路を通らねばなりません。……ご存じないのであれば、申し訳ございません」


 くっ、と喉で押し殺したように笑う少女の顔は、王子を挑発しているかのように歪んでいた。周りにどよめきが起きる。いくら聖女と呼ばれる彼女でも、王太子に向かってあまりに不敬である、と。この物言いには流石の王子も驚いたようで、美しいみどりを惜しげも無く晒すようにつかの間目を見開いた。聖女は飄々とした表情だ。まるで「学園内で生徒の立場は対等なんでしょう?」とでも言いたげですらある。

 どんどんと険悪になってゆく彼らの空気を破ったのは、他でもない、渦中に置かれたもう一人の少女、すみれ色の瞳をした王太子の婚約者だった。


「アルドリックさま、違うのです、わたくしは彼女に何もされていません。この涙は……そう、虫が!虫が入ってしまっただけで……」


 いや、それは無理があるだろう。その場にいる全員が思った。流石の王子と聖女も、そんな馬鹿なとでもいいたげな顔をした。

 しかし、実際問題、聖女が何かをしたという証拠も無い。そのうえ、聖女の身分はたかが男爵令嬢だ。公爵令嬢たるすみれ色の瞳の少女になにか手出しをできるような身分では無い。女狐のように油断ならない相手だからといきなり疑ってかかってしまった王子だが、少し落ち着いて考えると聖女が何かをしたという線は薄いだろう、と考え至ったらしい。そっと優しく、壊れ物にでも触れるように優しく公爵令嬢の涙を拭った王子が、「すみません、不名誉な言いがかりでした」と聖女に謝って、その場はお開きとなった。

 その際、聖女から出た「ほんとに不名誉ね」という皮肉の籠もった発言は無視された。


 そう遠くないうち、学園内には「王子と聖女の対立」と大々的に見出しの付いた、おもしろおかしく着色された新聞が張り出されることだろう。その場にいた見物人も、王子と公爵令嬢が立ち去ったことにより、一人二人と居なくなり、ついにその場には聖女と呼ばれた男爵令嬢のみが残った。


 彼女は貼り付けていた笑みをふっと消すと、低くおどろおどろしい溜息を吐き出した。そして小さく、無いな、と呟いた。



「……ない。絶対無い。あんな男が、あの婚約者捨ててこっちになびくもんか!はーあ、王太子はバツ__っと」



 聖女はどこからかメモを取り出し、そこに記載された王太子の名前の上に、大きくバツ印を付けた。その表情は、いかにも「面倒です」と言わんばかりに顰められている。



「あとはー、騎士団長んとこの脳筋と、宰相んとこのガリ勉ね。魔法ナントカのやつもいたんだっけ。後は隠しキャラの……なんだったっけ、あの教師……」



 ぶつぶつとメモを見ながら呟く彼女の周りに、精霊が舞う。整った顔立ちの聖女と、戯れる精霊。童話もかくやというほど神々しく美しい光景だが、聖女が鬼気迫る表情をしているため、その尊さも半減どころか8割方失わせてしまっていた。

 聖女は忌々しげに妖精を睨み付け、舌打ちをする。同年代の乙女が見れば、あまりのはしたなさに失神してしまうだろう。



「ったく、アンタら気楽すぎよ。私になにもかも押しつけて無理難題ふっかけてきたくせに」



 彼女が精霊をつつく。精霊は、面白がるようにちかちか光っただけで、なにが起こると言うことは無い。はあ、彼女は再度溜息をついた。





「……攻略失敗ペナルティで世界滅亡って、それなんてクソゲーよ……」





 はあ。彼女は再度、溜息をついた。




 この物語は、元クソゲーゲーマー主人公が、攻略失敗ペナルティで世界滅亡する乙女ゲームの主人公に転生して、愉快な仲間(笑)に囲まれながらどうにか運命(せいかい)相手(こうりゃくたいしょう)を探す、ハートフル(ボッコ)ストーリーです!


精霊・妖精の評価ぶれを修正しました

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