【8】
チェイミーは、オルゴールに添えられた紙片に書かれていた鍵の預かり主が、たしか〝ウォルコットさん〟だった事を思い出して、もしかしたら、このハツカネズミが、ウォルコットさんかも知れないと思ったので、「鍵を下さい。」と言ってみました。
すると、ハツカネズミは「ああ、やっと取りに来たんだね。」と、手に持っていた紅茶入りのティーカップをテーブルに置くと、壁で隠れた部屋の右手に歩いて行きました。
しばらく、家具を動かす物音がしていましたが、やがて、ハツカネズミは花輪の飾りが柄の頭に付いた、自分の体と同じくらいの大きさの真鍮製の鍵を、重そうに背中に負って、引きずりながら表に出て来ました。
そして、鍵をチェイミーの前に置きながら、
「もしかして、君はジョン・グリーンウェイの親戚か何かかな?」と聞きました。
ジョンというのはグリーンウェイ伯母さんの子供の名前で、チェイミーとはいとこ同士に当たります。
「ええ。ジョンは私のいとこよ。でも彼は私とは年が離れていて、もう大人なの。今はロンドンに住んでるわ。」
チェイミーが説明すると、ハツカネズミは細長いひげを一本ずつ整えながら、「実は僕も、ジョンに直接会った事はないんだがね。面白くて良い子だった、って話が、代々我が家に伝わっているものだから、それを聞いているうちに、だんだん顔見知りなような気持ちになってしまっていた、ってわけさ。」と言って、
「はい。鍵ね。確かに返したよ。いらなくなったら、また持っといで。」と言って、自分の部屋に戻ろうとしました。
チェイミーは「あなた、ウォルコットさんでしょう?」と聞いてみました。
ハツカネズミは、ちょっと振り返って、
「そうだよ。ウォルコット百三十八世!」と、答えて、行ってしまいました。
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