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【7】


 スタンリーがみんなに訴えるようにチェイミーを指さして、

「ほらね。この子が悪いんだ。わざと僕に……」

と言いかけましたが、ロジャーはすぐに間に割って入って、「さあさあ、忙しいよ。何しろこの城は広いからね。案内が終わったら王様に謁見えっけんしてご挨拶もしなきゃいけないし。それなのに、こんなところでお客様に足止めを食わせたって事が王様に知れたら、またみんな甲冑を着せられて城の周囲を五、六周走らされるぜ。」

 それを聞いたワラビーたちは震えあがり、「早く、早く行ってくれ!」とロジャーとチェイミーを急きたてながら、城の中に押し込みました。

 ロジャーはチェイミーの手を引いて、長い廊下を小走りに駆け出しながら言いました。

「悪くもないのに自分が悪かったなんて謝るもんじゃないよ。君の国じゃどうか知らないけど、ここでは謝った者は必ず裁判にかけられて罰を受けさせられるんだぜ。」

「まあ、それじゃあ気軽に謝れないじゃない。」

「そう。だからこの国では、本当に悪い事をしたら、誰にも聞かれないように、相手を物陰に連れ込んで、こっそり謝るのさ。」

 チェイミーはあきれるのを通り越して、クツクツ笑ってしまいました。「そんな変な規則、誰が作ったの?」

「ちょうど良い。この部屋をご覧。」

 ロジャーは立ち止まって、【法律の間】という立派な銀の名札プレートが貼られた扉を開けました。

 五、六匹の尾の長い小柄な猿たちが、広い部屋を取り囲む引き出しのたくさんついた大きな棚と、中央の簡素な事務机との間を行ったり来たりして、大わらわに働いていました。事務机には大小さまざまな紙の束でできた塔が、天井に届くほどうず高く積まれて、今にも崩れ落ちそうに傾いて、隣の塔に寄りかかっている塔さえありました。

「ここは何をする部屋なの?」

 チェイミーがたずねると、ロジャーは、ちょうど目の前を「ヴァイオリン教師、ヴァイオリン教師、ヴァイオリン教師、ヴァイオリン教師、……」とつぶやきながら駆け抜けようとした小猿の手から、小さな紙切れをひったくりました。

 小猿は天井を見上げたり手を裏表にして確かめたり、突然消え失せた紙切れをきょろきょろ探していましたが、すぐにあきらめて中央の机の紙の束の方へ戻って行きました。

 紙切れを見せてもらうと、そこには、『ヴァイオリン教師は王に教える時に褒め言葉しか使ってはならない。もし、悪い点を指摘したら、一番高い鉄棒で前転五十回の罰。』と書いてありました。

「ムッシ王の命令さ。毎日百条の新しい法律を作る事を目標にしているんだ。」

「百条!」

 その時、扉が開いて、黒い繻子しゅすの法服を着て巻き毛の白髪のかつらをかぶったブルドッグと狐が、何かしきりに言い合いながら入って来ました。

「石工が削りかすの小石を三粒以上散らかしていたら、うさぎ飛びで城内一周ですよ。二週間前に王様がそういうご命令を出してます。」

「その罰は牛乳配達が三分遅れた時のだろう。石工の罰は逆立ちで庭園を二周だ。」

「断じて違います。逆立ちで庭園二周は、煙突掃除夫が敬礼をせずに屋根から王様を見おろしていた時のです。」

 どうやら、彼らは裁判官と弁護士で、法律の事で意見が分かれているようです。

 彼らの後ろには、判決を待っている石工らしい、帽子を胸に当てたレッサーパンダが、二匹を見比べながら心細そうにたたずんでいました。

 そこへ、運悪く、書類の束を山ほど抱えた小猿が部屋に駆け込んで来たものですから、前が見えない小猿はレッサーパンダの背中にぶつかって、抱えていた書類を部屋中の床にぶちまけてしまいました。

 小猿たちや裁判官たちはキーキー!ワンワン!コンコン!とそれはもうそこら中走り回っての大騒ぎです。

「面倒な事になりそうだ。巻き込まれる前に、行こう。」

 ロジャーは紙切れを放り出すと、チェイミーの手を引いて、こっそり部屋から逃げ出しました。


・習い事の間を見せてもらう 【12】へ


・宝物の間を見せてもらう 【14】へ



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