【5】
「なぜねずみが服を着ているの?」
ハツカネズミが、どうやら作り物ではなく、本物の生きたねずみのようだったので、チェイミーはおっかなびっくり、疑問に思った事をたずねてみました。
ところが、ハツカネズミは、自分の注意を無視されたのが、しゃくに障ったらしく、「失礼な子だな。」と甲高い声で言うと、入り口の扉をパタンと閉めてしまいました。
そして、豆粒を落としたような、小さな、かんぬきを掛ける音まで、聞こえて来ました。
チェイミーは「ごめんなさい。」と声をかけてみましたが、扉の向うはいくら待ってもしんとしています。
せっかく面白いものを見付けたのに、このままあきらめてしまうのはもったいない、と、チェイミーは思いました。
ですから、またハツカネズミが扉を開ける方法を、振り子時計の前でしばらく思案していましたが、考えに夢中になっているうちに、扉はゆっくり壁との境目があいまいになり、いつしか裏板と馴染んで、跡形もなく消えてしまいました。それと同時に、チェイミーの記憶の中でも、服を着たハツカネズミや、彼の住む可愛いミニチュアの部屋の様子は、薄らいで消えてしまったのですが、不思議な事に、チェイミーはそれに気が付きませんでした。
やがて、振り子時計の中をのぞき込むのに飽きたチェイミーは、立ち上がって、床に置いてあったオルゴールを拾い上げると、二階へ続く梯子段を下りて行きました。
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