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【26】


 ロジャーが立ち上がって、

「そろそろ行こう。監視役に見つかるとまずいからな。」と言いました。

 チェイミーは、ベルナルドに聞きたい事、話したいことが山ほどありましたが、仕方なく立ち上がると、「これからどうするの?」とたずねました。

「ひとまず、この国の未来を変な風に書き進められるのだけは防げたんだ。後は、自分たちで何とかするよ。」

「何とかって?」

 ベルナルドはロジャーと顔を見合わせると、真面目な顔で向き直って、「ここからは俺たちの問題なんだ。あんたは関わらない方がいい。」と、はっきり言いました。

 チェイミーは、確かにそうかもしれない、と思いました。何の気なしにオルゴールを鳴るようにしようとした事が、思いがけず、この国にとって大きな災いを招きそうになってしまったのです。

 事情をよく知らないよそ者が、口をはさむ事ではないのでしょう。

「ちっ。見つかっちまった。」

 ロジャーが砂丘のふもとをあたふたと登って来る黒い二匹の動物を指さしました。

「こっちだ。」

 ベルナルドは素早く巣穴にふたりを招き入れました。穴はチェイミーが四つん這いでやっと通れる狭さでした。

「俺について来な。出口についたら、その足でネコノメランラン城に大急ぎで戻って、自分の世界に脱出するんだ。下手をすると、あんたもムッシ王に捕らえられて、無理やり女王の座につかされちまうぜ。」

 ベルナルドの後に続いて、時々枝分かれする真っ暗な穴の道を、右へ左へと進んで行くと、先の方に細い明かりが射し込んでいて、そこを目指して行くうちに、いきなりまぶしい地上に頭が出ました。

「じゃあな。ジョンによろしく。」

 ロジャーから引っぱり出されるチェイミーに、ベルナルドが後ろから別れを告げました。

「ベルナルドも逃げないと。」

 チェイミーはまだ明るさに慣れない目を細めながら振り返りましたが、ベルナルドはもうそこにはいませんでした。

「あいつなら大丈夫だよ。どんなに追い回されたって決してしっぽは掴ませないんだから。」

 ロジャーはチェイミーの手を引いて、丘を登ると、そこから城下町まで続くのどかな田園風景を一散に駆け抜けて行きました。やがて、街に入った二人は、そこから動物たちに見つかるのを避けて裏通りの家々の間を縫うように走って、半時ほどでネコノメランラン城に戻りました。

「ムッシ王に会うと、またややこしくなるぜ。」

 二人は足音を忍ばせながら、建物の階段を上り、もと来た三十三番の歯車の塔の屋根まで続く、長い長い梯子がかかったバルコニーまで来ました。

 チェイミーはへとへとなのを我慢して、またせっせと梯子をのぼりはじめました。

 まん中くらいまで、休まずにのぼって、ちらっと振り返ってみると、ロジャーはちゃんと後ろについて来ていて、「下を見るなよ。上だけ見て登りな。」と注意しました。たしかに、あまりの高さに肝を冷やしたチェイミーは、「ええ、もう見ないわ。」と、縮み上がりながら向き直ると、ぎくしゃくした動きで何とか一歩ずつ上り始めました。

 ずいぶん息を切らして、チェイミーはやっと頂上の屋根まで上り詰めました。

 ロジャーは疲れて座り込んだチェイミーを追い越すと、屋根裏の天窓のそばまで走りました。

 天窓を開いて、「おおい、ウォルコットさん!」と呼ぶと、すぐに、

「はいよ。来るのかい?」

と声がしました。

 チェイミーが這うように天窓の縁まで近づいてのぞき込むと、オルゴールのぜんまいや歯車が取り囲んだその先の、大きな四角い枠の縁から身を乗り出していたのは、やけに顔が大きく見えるハツカネズミのウォルコットさんでした。彼は早くも縁からひもらして、こちらの返事を待っていました。

 チェイミーは、名残惜しそうにロジャーに手をさし出しました。

「じゃあ、さようなら。」

「ああ。今日は来てくれてありがとう。自分たちの国の事は、自分たちでどうにかするんだから、心配はいらないよ。」

「うん。気を付けてね。応援してるわ。」

 二人は、しっかりと握手をしました。

 それから、天窓の縁に屈んだチェイミーは、「ええ、行くわ!」と、ウォルコットさんに返事をすると、手を伸ばして、振り子のように揺れる紐を追いかけて、何度かつかみ損ねた末に、やっとつかまえました。

 そのとたん、チェイミーの体は天窓に吸い込まれて、来た時と同じように、オルゴールの中の機械のすき間を風のように通り抜けると、元いたグリーンウェイ伯母さんの家の屋根裏部屋に放り上げられて、ドシンという音と共に、床にうつぶせに投げ落とされました。

「いった~い……。」

 チェイミーがしかめた顔を上げると、その脇には、いつの間にか、あの猫の陶人形が付いたオルゴールが、ふたを固く閉じられて転がっていました。


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