【21】
ロジャーが立ち上がって、
「そろそろ行こう。監視役に見つかるとまずいからな。」と言いました。
チェイミーは、ベルナルドに聞きたい事、話したいことが山ほどありましたが、仕方なく立ち上がると、「これからどうするの?」とたずねました。
「ひとまず、この国の未来を変な風に書き進められるのだけは防げたんだ。後は、自分たちで何とかするよ。」
「何とかって?」
ベルナルドはロジャーと顔を見合わせると、真面目な顔で向き直って、「ここからは俺たちの問題なんだ。あんたは関わらない方がいい。」と、きっぱり言いました。
「それは違うわ。この世界は、建国者によって書かれた物語の通りにしか未来を作れないんでしょう?だとしたら、この国の未来をどうするかは、最初に物語を書いた人に責任があるのよ。」チェイミーも、ふたりに劣らず真剣でした。
「建国者はもういないんだ。それとも、君が女王になって、この国の未来を書き進めてくれるのかい?」ロジャーが聞きました。
「いいえ。私じゃきっと、全ての問題を解決するほど上手には書き進められないと思う。でも、建国者ならできると思うわ。建国者は、今、この国にはいないけれど、私の住む外の世界では健在なのよ。その人が建国者なのは、おそらく間違いないと思うわ。」
ロジャーが「えっ。」と驚いて、
「それは誰なんだい?」とたずねました。
「今は言えない。名前を明かすかどうかや、この国の未来を書き進めるかどうかは、その人自身に決めてもらいたいの。」
ベルナルドは、腕組みをして考えていましたが、「ジョンも昔、同じ事を言っていたんだ。『僕は建国者を知っている。この国の未来を明るい方に書き進めてもらう。』ってね。でも、結局は長年の間なしのつぶてさ。再会した時だって、あんなに張り切ってたのも忘れて、『無理だ。』って諦めてたぜ。」と言いました。
「もう一度、私から頼んでみる。みんなが困っている事を一生けんめい話せば、きっと気持ちが変わると思うの。」
その時、ロジャーが砂丘のふもとの方を見やって、
「ちっ。見つかっちまった。」と言いました。
砂に足を取られながら、あたふたと登って来る黒い二匹の動物が見えました。どうやら、ベルナルドのアパートを見張っていた、忍者姿の黒装束の黒猫たちのようです。
「こっちだ。」
ベルナルドは素早く巣穴にふたりを招き入れました。穴はチェイミーが四つん這いでやっと通れる狭さでした。
「俺について来な。出口についたら、その足でネコノメランラン城に大急ぎで戻って、自分の世界に脱出するんだ。下手をすると、あんたもムッシ王に捕らえられちまうぜ。」
チェイミーは、ベルナルドとロジャーの後に続いて、時々枝分かれする真っ暗な道を、右へ左へと進んで行きました。すると、先の方に細い明かりが射し込んでいて、そこを目指して行くうちに、いきなりまぶしい地上に頭が出ました。
「じゃあな。ジョンによろしく。」
ロジャーから引っぱり出されるチェイミーに、ベルナルドが後ろから別れを告げました。
「ベルナルドも逃げないと。」
チェイミーはまだ明るさに慣れない目を細めながら振り返りました。
「俺なら大丈夫だ。しっぽを掴ませないくらいの心得はあるつもりだぜ。」
ベルナルドは、チェイミーの手をとって、手のひらに何かを握らせました。それは、ベルナルドがバッジにしていた、三十三番の歯車に違いありませんでした。
「あんたに任せてみるよ。頼んだぜ。」
「ええ。やってみる。」
ベルナルドが巣穴に消えたので、チェイミーとロジャーは小さな森のわきを通って丘を登り、そこから城下町まで続くのどかな田園風景を一散に駆け抜けて行きました。やがて、街に入った二人は、そこから動物たちの目につかないように、裏通りの家々の間を縫うように走って、ようやくネコノメランラン城にたどり着きました。
「ムッシ王に会うと、またややこしくなるぜ。」
二人は城内に入ると、足音を忍ばせながら、広い中央階段を上って行きました。
ところが、途中で、ロジャーが「ああ、大事な物を忘れてた!」と言って立ち止まりました。
「何?」
「この国の歴史を書いた本だよ。持って行った方がいいだろう?」
「ええ。あれを建国者に見せれば、説得力があるものね。」
そこで、ふたりは本がある〝宝物の間〟に立ち寄って行く事にしました。
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