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【19】


 狭い裏路地を再び抜けて、賑やかな表通りまで戻ったロジャーは、周りを用心深く見まわしてから、チェイミーを振り返って言いました。

「これから、君をベルナルドの家に案内するよ。そこで僕らは、君に大事な話をするだろう。それは、この国の将来に関する事だよ。でも、もし君に、その話を聞く心の準備がまだできてないって言うなら……」

 チェイミーは全てを聞き終える前に答えました。「ええ、ちょっと考えさせて。私には、あなたたちの問題がどうも難し過ぎるみたいなの……。」

 ロジャーは見るからにがっかりした様子でしたが、申し訳なさそうにうつむくチェイミーを見ると、「そうだね。君にはまだ、難し過ぎる問題かもしれないね。」とうなずいて、「さっき、アイリーンや僕から聞いた話は、忘れてほしい。」と言いました。

「ごめんなさい。」チェイミーはすっかりしょんぼりしてしまいました。

「君のせいじゃないよ。でも、この国の裏事情を聞いてしまったのはまずいな。用心のために、一度自分の世界に戻った方が良いかもしれない。」

 チェイミーは、もうオルゴールの国の観光を楽しむ気分ではなかったので、大人しくそうすることにしました。

 二人はそこから真っ直ぐにネコノメランラン城に戻りました。

 ムッシ王に会うと、またややこしくなりそうなので、二人は足音を忍ばせながら、建物の階段を上り、もと来た三十三番の歯車の塔の屋根まで続く、長い長い梯子がかかったバルコニーまで来ました。

 チェイミーは怖いのを我慢して、またせっせと梯子をのぼりはじめました。

 まん中くらいまで、休まずにのぼって、ちらっと振り返ってみると、ロジャーがいつの間にかいなくなっていたので、チェイミーはぎょっとしました。

 でも、今さら戻るわけにもいかないので、チェイミーは泣きたいのをこらえて上り続けました。

 ずいぶん息を切らして、チェイミーはやっと頂上の屋根まで上り詰めました。

「案外早かったじゃないの。」

 顔を上げると、ロジャーが手をさし伸べて待っていました。

 チェイミーはキツネにつままれたような気持ちで、

「どうやって追い越したの?」と、引き起こされながら聞きました。

 ロジャーは詰所の掘立小屋を指さして、

「あの中に昇降機があるのさ。僕らくらいの大きさの動物、専用のね。」と教えました。

「私がもしこの国の女王になったら、まず最初に、人間用の昇降機を設置するわ。」

 チェイミーは、努めて明るく冗談を言いながら、ロジャーと一緒に屋根裏の天窓のそばまで行きました。

「ぜひそうしなよ。」

 天窓を開きながら、ロジャーも笑って答えました。

 チェイミーが窓からのぞくと、すぐに、

「おおい、来るのかい?」

と声がしました。、オルゴールの機械が取り囲んだその先の、大きな四角い枠の縁から身を乗り出していたのは、やけに大きく見えるハツカネズミのウォルコットさんでした。彼は早くも縁からひもらして、こちらの返事を待っていました。

 チェイミーは、遠慮がちにロジャーに手をさし出しました。

「じゃあ、さようなら。」

「ああ。今日は来てくれてありがとう。案内できて良かったよ。」

 二人は、しっかりと握手を交わしました。

 それから、天窓の縁に屈んだチェイミーは、「ええ、行くわ!」と、ウォルコットさんに返事をすると、手を伸ばして、振り子のように揺れる紐を追いかけて、何度かつかみ損ねた末に、やっとつかまえました。

 そのとたん、チェイミーの体は天窓に吸い込まれて、来た時と同じように、オルゴールの中の機械のすき間を風のように通り抜けると、元いたグリーンウェイ伯母さんの家の屋根裏部屋に放り上げられて、ドシンという音と共に、床にうつぶせに投げ落とされました。

「いった~い……。」

 チェイミーがしかめた顔を上げると、その脇には、いつの間にか、あの猫の陶人形が付いたオルゴールが、ふたを固く閉じられて転がっていました。

「私、どうしたのかしら?そう、振り子時計の中から、鳴らないオルゴールを見つけて、それで……、伯母さんに見せに行こうとしたけど、うっかりつまづいて、転んでしまったのよ……。」

 チェイミーは、ぼんやり起き上がり、オルゴールを拾い上げると、二階へ続く梯子段をふらふらと下りて行きました。

 オルゴールの国での出来事を、チェイミーは何もかも忘れていましたが、その事にはちっとも気が付きませんでした。


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