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【18】


 砂丘の頂上に着くと、巣穴らしい深い穴はありましたが、大きな耳の生き物は見当たりませんでした。

 チェイミーは、穴の中に顔を突っ込んで、「ベルナルド!」と呼んでみました。でも、返事はありませんでした。

 そこへ、ロジャーが息を切らして登って来たので、チェイミーは「ベルナルドは恥ずかしがり屋なの?」と聞きました。

「いいや。用心深いのさ。ほら、あそこ。」

 ロジャーが指差した、砂丘を陸側にずっと下ったあたりには、もう一つ穴があって、そこからさっきの尖り耳の動物が、顔を出してこちらを見ていました。

「ベルナルド、大丈夫、この子は味方だ!」

 大きな声で、ロジャーが呼びかけると、動物はクルリと身をひるがえして穴に引っ込みました。そして、ものの十秒も経たないうちに、チェイミーたちがいる砂丘の頂上の穴から、そのきょんとした可愛らしい顔をのぞかせました。

「初めまして。私チェイミーよ。」

「ベルナルドだ。どうだい、一通り観光はすんだかね?」

 チェイミーは、ベルナルドが見た目とは違った大人っぽい声だったので、どぎまぎしながら、

「ええ。ずいぶんいい所ね。」

とぎこちなく答えました。

 ベルナルドはさっと穴から出て、チェイミーのまわりを一周すると、いかにも迷惑そうに見上げながら、「お楽しみのところ、誠に申し上げにくいんだがね、王女様。あんたは俺たちにとって招かれざる客なんだ。率直に言って、この国からできるだけ早くお引き取り願いたいんだがね。」と言いました。

急にこんな失礼な態度を取られて、チェイミーは呆然ぼうぜんとした後で、次第に腹が立って来ました。

「あなたにそんなこと言われる筋合いないわ。ウォルコットさんは鍵をくれたし、ロジャーは私をオルゴールの中に引き入れてくれたのよ。それに、みんな行く先々で、私のこと歓迎してくれていたわ。何だってそんなひどいことを言うの?」

「あんたはこの国が好きかい?」

「ええ、大好きよ。」

「でも、あんたはこの国を滅茶苦茶にしようとしてる。」

「そんなことするわけ……」

 チェイミーはふと、ベルナルドが胸に付けている、歯車の形の金色のバッジが目に留まりました。

「それ、三十三番の歯車じゃない?」

 ベルナルドは、バッジを見おろしてから、誇らしげにその上に手を置きました。

「うん。ジョンから直接預かったものさ。」

「ジョン・グリーンウェイから?」

「そう。あんた、これを探していたんだろう?歯車をオルゴールに戻す事で、オルゴールの音色を聴きたくて。でも、そうすることが、どういう事なのか、ジョンから聞いているのかい?」

 チェイミーは、ベルナルドの言いたいことが、よく分かりませんでした。

「私、〝三十三番の歯車はベルナルドに預けてあります〟っていうメモ書きを見ただけなの。だけど、その歯車がオルゴールの歯車なら、元あった場所に戻せば、オルゴールを聴けるようになる、という事でしょう?」

 ベルナルドは周りに誰もいないのを確かめてから、やれやれと言うようにどさりと砂に腰を下ろして、言いました。

「そうだ。だが、それだけじゃないんだぞ。いいかい、オルゴールが聴けるようになると、あんたの世界にあるすべてのオルゴールと、このオルゴールの国が、つながる仕組みになっているんだ。」

「ええ?!」

 チェイミーはあまりに突拍子もない話に、どう受け止めていいのか分からず、とまどうばかりでした。

 でも、ベルナルドの隣に座ったロジャーから「まあ座んなよ。」と言われて、ようやく我に返ったように、ふたりの隣に腰を下ろしました。

「もっと多くの人が、私のようにこの国に来られるようになる、という事?」

「そうさ。」

 しばらく考えてから、チェイミーは、

「まあ、すてき!」

と言ってみました。でも、どうもそうじゃない、という気がして、次第に眉をひそめました。

「それが、本当に良い事だと思うかい?」

「うーん。」

 すぐに答えられないチェイミーを見て、ベルナルドは話し出しました。

「ムッシ王はこう言ったんだ。『領民が増える事は、この国の財産が増えるという事じゃぞ。王としては大歓迎じゃ。それに、あらゆる動物がいながら、人間だけがいないというのも、龍の絵に角を欠くというものじゃからな。』って。ムッシ王は、動物たちを支配できているもんだから、人間たちを支配するのも簡単だ、って思っているんだ。あんたもそう思うかい?」

「難しい問題ね。」

 チェイミーは、そう言った後ですぐにかぶりを振って、ベルナルドを見ました。

「いいえ。きっと、オルゴールの国はすぐさま人間に乗っ取られてしまうでしょうね。そして、動物たちは外の世界に連れて行かれたりして、今よりもっと悪い事になると思うわ。」

 ベルナルドは、よく気が付いてくれたというようにうなずきました。

「だろう。だからジョンは、歯車を外したままにしておいたんだ。しかし、あんたが歯車を戻したいと言うなら、俺は反対しないよ。あんたはこの国の王女なんだから。何でも思い通りにしていいんだ。」

 チェイミーは目をつぶって激しく頭を振ると、苦しそうに空を見上げて、

「ああっ、やっと、ジョンがこの国を立ち去った理由が分かったわ。私も、王女になってはいけなかったのよ。ベルナルド、教えてくれて、ありがとう。今ここで、私は王女の座を降りるわ。」

「イヨウ!」ロジャーが嬉しさに雄たけびを上げました。

「でも、どうしてムッシ王は私を王女や女王に据えたがっていたのかしら。歯車を戻すくらいなら、地位なんて与えなくてもできるのに。」

「この国は、建国者が書いた一冊の本でできている。その本を更新して、未来を書き換える事ができるのは権限を与えられた人間だけなんだ。だからムッシ王はあんたを権限のある地位に据えたがっていたってわけ。」

「ベルナルド、あなたどうしてそんなにこの世界の事情に詳しいの?」

「ジョンから教わったからさ。俺はあんたとは逆にオルゴールを通り抜けて、向こうの世界に行って、ジョンに再会して来たんだ。」

 チェイミーは信じられない話の連続に、「あきれた!」とつぶやくと、降参だと言うように両手を広げて、そのまま後ろに引っくり返りました。


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