【17】
ベルナルドの家は、丘の上の荒れ地にぽつんと立っている、崩れかけた土レンガの三階建てのアパートでした。
アパートの入り口の上がり段に腰かけて、日向ぼっこをしていた大きなゾウガメに、ロジャーは歩み寄りました。
「やあジョコ爺さん、元気かい?」
「んああ。元気だとも。」
ジョコ爺さんは、居眠りしていたらしく、しわがれた声を上げると、薄目を開けて、ゆっくりした動作でロジャーとチェイミーの方を向きました。
そして、「ベルナルドは出かけたよ。今朝からどうも、アパートの居心地が悪くなったと言ってね。」と教えました。
「居心地ねぇ。」ロジャーは所々にひびが入って、大きな穴まで開いたアパートの壁を見上げて、薄笑いを浮かべました。
「どこに行ったんですか?」
チェイミーが聞くと、ジョコ爺さんは、「フェネックが一番好きな場所だよ。お嬢ちゃん?」と言って、ふぁっふぁっふぁ、と歯のない口を開けて笑いました。
そして、「あーあ。」と、独り言ちると、上がり段にもたれ直して、目をつむり、早くもいびきをかきはじめました。
二人はジョコ爺さんにそっと別れを告げると、アパートを後にして、丘の向うの道のない乾いた斜面を下って行きました。
途中で、ロジャーが正面を向いたまま言いました。
「せーので振り返ってごらん。アパートの屋上を見るんだ。いいかい、せーの……」
合図に合わせて、チェイミーが振り返ると、アパートの屋上には、二つの黒い動物の影が立ってこちらを見ていましたが、すぐに隠れて見えなくなりました。
「見張っているんだ。ベルナルドを。ムッシ王の差し金でね。」
「どうして?」
「彼に会って話を聞けばわかるよ。」
当惑するチェイミーをうながして、ロジャーは足早に斜面を下って行きました。
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