【14】
習い事の間のある階から、大きな中央階段を下りて、一番下の階に来たロジャーとチェイミーは、再び長い廊下をしばらく歩きました。
窓からは広い庭園の明るい日差しに輝く色とりどりの草花と、生垣の間を忙しそうに駆けまわるダチョウの長い首が見えました。
「ダチョウは何をしているの?」
「園丁のスコッティだよ。今日は罰をくらったようだから、なおさら時間に追われちまってるのさ。」
ロジャーは間もなく、【宝物の間】という金の名札が張られた、可愛らしい草花の浮き彫りが施した真っ白な扉の前で足を止めました。
「ここは別名、【人間の望みの間】とも呼ばれている部屋だ。」
扉を開けると、左右の棚には、ピカピカに磨かれた金の延べ棒の山や、大理石でできた大きな猫の彫刻、水晶と青水晶の二つの竪琴、金銀を細かく細工したブローチやネックレスやイヤリング、美しく草花が描かれた古い時代の壺や食器、大粒のダイヤモンドがちりばめられた化粧箱、こぶし大もあるルビーやサファイヤやエメラルドの裸石など、数えきれないほどの宝物が、博物館のように解説をつけられて、整然と並べられていました。
「やっぱり、王様ってすごいのね。こんなに価値のある物をしこたま貯めこんでるんだもの。」
チェイミーは、いかにも高価そうな宝物の数々に目を奪われながら、ロジャーについて奥に進みました。
「価値がある?こんな物にかい?」ロジャーはどんなに立派できらびやかな宝物にも、まるで関心がない様子でした。
「ここでは、こういう物には価値がないの?」
「ないね。だって、僕ら動物には無用な物ばかりじゃないか。価値があると思っているのは、ムッシ王だけさ。しかも、王だって人間から言われてそう思っているだけで、本当の価値なんか分かっちゃいないんだ。こういうのを、何て言うんだっけ?ああそう、『猫にかばん』ってやつさ。」
「ふぅん。」
宝物の棚の間を抜けると、部屋の奥の広い場所に出ました。壁には一面に、動物や風景が描かれた大小の立派な油彩画が掛けられていて、正面の壁には、ひときわ大きな、戴冠式らしい光景を描いた写実的な油彩画が飾られていました。
「これが元王子のジョン・グリーンウェイだよ。」
「まあ!本当だ。この子供はジョンだわ。」
ロジャーが指さした絵の中の人物、たくさんの動物たちが見守る中、青いマントをまとい、ひざまずいて、ムッシ王から金の冠を授けられている黒髪の少年、彼の顔からは、たしかに、チェイミーの従兄のジョン・グリーンウェイの面影が見て取れました。
「ジョンはこんな面白い体験をしたくせに、私にはちっとも話してくれなかったわ。私なら、家族や親戚、友だちや知らない人にまで喜んで話して回るのに。」
戴冠式の絵の前には、大理石でできた円柱のテーブルが据えてあって、テーブルの上には、一冊の古びた日記帳が置いてありました。
日記帳の表紙には、『アンリとオルゴールの国』と題名が書いてあって、下の方には、A・Gと、イニシャルらしいサインも書き込まれていました。
表紙をめくると、最初のページには、『オルゴールの国を訪れた者は、誰でもその魅力のとりこになる。何しろ、この国は、生きたおとぎの国だからだ。しかし、せっかく楽しい思い出を作ったとしても、いったん外の世界に戻れば、とたんにオルゴールの国で体験した事を忘れてしまう。よほど、忘れたくないという気持ちを持ち続ける、頑固者以外は……。』
という書き出しで始まる、長い文章が書いてありました。きっとこの日記帳は、A・Gという人物が物語を書き記した手作りの本なのでしょう。
ロジャーがテーブルを見上げながら教えました。
「その本にはね、オルゴールの国の歴史が全部書いてあるらしいよ。何しろ、建国者がこの国を作る時に、書き始めてくれた本だからね。」
「歴史が全部書いてあるなら、その建国者は、今でもこの本を書き続けている、という事?」
「さあ。歴史が全部書いてあるという事は、仲間から聞いた話でね。でも、僕がこの城で建国者を見た事は一度もないから、もしかしたら別の誰かが引き継いで書いているのかもしれない。どちらにせよ、僕の手の届かない本だから、よく分からないや。」
ロジャーが前脚をうんと伸ばして届かない所を示して見せたので、チェイミーは読むのが面倒臭いんだな、と思って笑ってしまいました。
※アイテム『イニシャルの記憶』を手に入れた。
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