【11】
せっかく、面白い事になりそうなのだから、ためらってなんていられません。チェイミーは、自分の人差し指を確かめて、オルゴールの底の、窓のあるあたり目がけて突っ込んでみました。
あまり思い切りよく突っ込んだので、向こうでも驚いたらしく、「ひゃ!」と小さな叫び声が、機械のすき間から聞こえて来ました。
やがて、指先に、少しむずがゆさを感じるな、と思ったとたん、チェイミーの体は、風船の空気が抜けるよりも早く縮まり始めて、機械でいっぱいの工場のようなオルゴールの中を風のように通り過ぎたと思った時には、もう窓の向う側の青空の下の、小高い建物のオレンジ色の瓦屋根の上に放り出されて、手を握ってくれていた大きなカピバラの上に覆いかぶさるように倒れ込んでいました。ええ、ねずみだと思っていたのは、人間の子供くらいある、青いジーンズのつなぎを着たカピバラだったのです。
「重い、重いよ!」
カピバラがじたばたするので、チェイミーは「ごめんなさい!」と言って急いで退いてあげました。
そして、そこから見渡せる大小の可愛らしい家並みや、郊外に緑や茶色のパッチワークのように広がる田園地帯の美しい光景に感心しながら、
「何が起こったの?」とカピバラに聞いてみました。
起き直ったカピバラは、チェイミーの後ろの、開いた天窓を指さすと、
「その天窓が、君の住む世界とつながる出入り口になっているんだ。ちなみに、僕は案内役のロジャー。」と、手慣れた様子で説明してくれました。
「はじめまして。ロジャー。私チェイミーよ。」
上の空で挨拶しながら、チェイミーが天窓をのぞき込んでみると、確かに、とてつもなく大きくなったオルゴールの機械が並んだその奥に、グリーンウェイさんの家の屋根裏部屋らしい、くすんだ板張りの天井が、逆さに見えていました。
「ちなみに、この『ネコノメランラン城』の屋根裏部屋から天窓を見上げると、この世界、つまり、オルゴールの国の空が当たり前に見えるだけなんだ。どうだい、素敵に不思議だろう?」
チェイミーは、短い前脚で気ぜわしく身振り手振りしながら教えてくれるロジャーを、あらためてしげしげと眺めながら、
「ええ、何もかも本当に素敵だわ。」
と夢のようにつぶやきました。
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