【10】
城門をくぐって城の外に出ると、そこは淡い様々な色で彩色された土壁と三角屋根の可愛らしい家々が、石畳の目抜き通りをはさんで立ち並ぶ、立派な城下町でした。
通りには犬や猫などチェイミーがよく知った動物もいれば、見た事もない珍しい動物たちもたくさんいて、それぞれが和やかに立ち話をしたり、荷物を持ったり荷車を引いたりして、賑やかに行き交っていました。
「素敵ねぇ。こんな街に、一度でいいから住んでみたいわ。」
チェイミーがうっとりしながら言うと、ロジャーは、「住めるさ。好きなだけ、望む家にね。何なら、ネコノメランラン城とは別に、君だけの居城を作ってもいいんだぜ。何しろ君はこの国の王女なんだからさ。」と言いました。
その言い方が、何となく素っ気なく感じたので、チェイミーは、「何を怒っているの?」と聞きました。
ロジャーは大げさに肩をすくめると、
「怒ってなんかいないよ。ただ、君はまだ僕らの事をよく分かってないんだなってね。しかし、それも、ベルナルドに会って話すまでの事さ。」と、やっぱりつんとして言いました。
通りを歩いていると、周りの動物たちは誰もが、チェイミーに気が付いて、いかにも驚いたという顔でまじまじと見つめました。間もなく、通りかかったパン屋から、お腹の大きな山洋が出て来てロジャーに声をかけました。
「ちょいとお待ちよ。ロジャー、そりゃ人間だね。へぇ。私ぁ生まれて初めて本物の人間を見たが、絵で見た通り、毛が頭以外には生えていないんだねぇ。面白いねぇ。」
「ネミーさん、失礼な事を言うなよ。それに、この子は新しい王女様なんだぜ。おそれ多くもさ。」
「え、そりゃほんとかい。みんな!この子は新しい王女様なんだってよ。」
ネミーが大きな声を出したので、様子をうかがって立ち聞きしていた動物たちも、まるで山羊飼いの指笛を聞いた山羊の群れのように、先を争って集まって来ました。
動物たちの輪ができたところで、ネミーが聞きました。
「お名前は?」
「チェイミー。」
大きな縞柄のエプロンをしたカバが、しげしげとチェイミーを見下ろしながら言いました。
「人間がこの国に来たのは何年ぶりだかね。」
「さあ。おい、この中でジョン王子を見た事のある者はおるか。」白黒のチョッキを着たバクが周りの者に問いかけると、
「うちのおふくろは見たと言っとったが。」と、テンガロンハットをかぶったシマウマが応じました。
「エミリオじいさん、あんた見た事あるだろう?」ダルメシアンの若者が、後ろの杖をついたテリアの老犬に聞きました。
「あるよ。玉のようにかわいい子犬じゃった。」
「だめだこりゃ!」
みんなはいっせいに笑いました。チェイミーも思わず笑ってしまいました。
「王女様、生まれはどこですかい?」笑顔を見て安心した牡鹿が聞きました。
「リヴァプールよ。」
「川のプール?人間ってのは水生生物かね。」カワウソが俄然身を乗り出しました。
「いいえ。でも水泳選手はみんなあなたくらい泳ぎが上手よ。」
「そりゃあいつかお手合わせ願いたいね。」嬉しそうに前脚をかいて、カワウソは泳ぐ真似をしました。
ロジャーは「さあさあ、今日はこのくらいにしてくれよ。まだいろんなところを案内しなきゃならないんだから。」と、話したがる動物たちを遮って、チェイミーの手を引いて動物たちの輪から抜け出すと、通りを一散に駆け抜けて行きました。
「まあ、いい子そうで何よりじゃないか!」ネミーが見送りながら言うと、みんなも安堵した様子で、「ほんとになあ。」「私らと人間はたいして変わらないんだねぇ。」と口々に言いました。
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