手旗信号を見、モールス信号で返す
2話目です
「いや~、毎回思うのだけれども、人が多いよね~」
朝日に照らされているきれいな景色を一望できる防空指揮所から、一般公開の開始時間はまだかまだかと、待ちわびる人の長蛇の列を見下ろして時津風は言った。
「そりゃあ、めったにないイベントだし、戦後初だろ?今回は」
隣には端島がいた。
「はっはっはっー人が○○のようだ」
時津風は、手を腰に当てて、人を見下したかの様な事を言った。いや、物理的に見下せる位置でしたが...
「やめいw」
そして、端島は時津風の頭を軽く叩き、艦橋に戻った。その時その時、丁度トランペットの演奏とともに、国旗、艦隊旗が掲揚された。これが、操業開始の時間だが、公開の時間まではまだまだ1時間以上先である。
公開の開始の時間が訪れて、大勢の一般市民が甲板に上がり、写真を撮っていたり、乗組員の説明を受けていた。しかしながら、艦橋への立ち入りは禁止されていたので、当然のこと説明をする相手もいなく、二人は暇をしていました。
「見て!あの人どう見ても、リア充だよね?」
時津風は、指を指していました。その方向には、明らかな、充実した人生を過ごしている人がいました。
「リア充爆発しろってか」
端島はあの人混みの中から見つけ出したことに関心を持ちつつ、何か心に来るものが感じた。
「あ~もしかして、羨ましいの~?」
時津風は、端島を煽った。
「いやいやいや」
「だよねぇ、端は、三次元より二次元の方が好きだもんね~」
「な、何のことでしょうね」
「うちのテルちゃん、呼んであげようか?」
時津風の言う「テルちゃん」とは、この船に搭載されているサポートAIであり、ほとんどの船に搭載されている。名前は搭載される船の愛称、略称からきている。そして今では、音声だけでなく、立ち絵も用意されていることもある。その立ち絵が、テルの場合は、とりわけ可愛いと一部の人アニメーション好きの人から評判なのである。
「はっ、べつにいいし」
「あ~っ、一瞬心揺らいだでしょ?」
「ほ、ほら、そろそろ手旗信号の展示のアナウンスをしないといけないだろ」
端島は、顔を赤らませて話をそらした。
「もう、そんな時間なのか」
そんなに慌てる様子もなく時津風は、艦内放送のマイクを取った。端島は、やれやれと思いつつ、手旗信号の展示の様子が一番見えるところで、風に当たっていた。
「この様に、右手に赤い旗、左に白い旗を持ちま~す」
艦橋付近にて、手旗信号の展示が、行なわれていた。展示というよりは、実演に近い事をして、説明や、クイズなどがこなされていた。
「それでは、艦橋にいる、二人のお姉さんとお兄さんに何かメッセージを送りたいと思いま~す」
乗組員のさすほうには、通信士...ではなく、時津風と端島でした。
一部の人は、早々に気が付いたが、それに気が付かない人が大半でその場の空気に流されていました。
「何か送りたいメッセージがある人~」
乗組員は、手を挙げて誰かが挙げてくれる事を願った。だが、誰も上げなかった。
「あの二人に質問でもいいですよー」
そうすると、小学生ぐらいの男の子が手を挙げた。
「質問はなにかな?」
乗組員は、近くにより、尋ねた。
「あの二人、付き合っているの?」
流石、小さい子は度胸があります。周りの人も共感していました。
「それでは、付き合っているのか聞いてみようと思います♪」
そして、通信士の人に頼み、メッセージを送った。
「うわあ、ちょっと待って、私たちに手旗信号が来たんだけどw」
「まじかwで、なんてきた?俺、手旗信号わかんないよ」
時津風は、動揺しつつも落ち着いて解読をした。
「二人、は、こ、う、さ、い、し、て、い、る、の、か、だって...って、なんじゃこりゃ‼」
「二人っきりでいたから、間違われたのかもなw」
「と、とりあえず付き合ってなんか無いんだから‼」
そして、時津風は、顔を少し赤らませて、ライトを使いモールス信号で、返信した。それは、過去最高のスピードだったのかもしれない。
「おっ、先程の答えが返ってきました!なんと、あの二人はあのように見えて、付き合っていないそうです‼」
乗組員が、観客に暴露すると、「お似合いなのに~」とか「そりゃそうよね~」などなど、色々な言葉がもれていた。
「それでは、次の質問を聞きたいと思いま~す」
今度は、50代ぐらいのおばさんはが、手を挙げた。
「では、何と質問をされますか?」
「それでは、あの銀髪の娘さんに、一度告白してみたらどうかとお伝えくださいな」
おばさんは、やさしい顔でそう乗組員に告げた。その瞬間、周りの空気が和んだように感じた。
「了解しました。」
そして、それは、手旗信号になって送られた。そうすると、女の人が、男の人をつまみ、艦橋の奥に行ったのが、見えた。
時津風が艦橋の奥に端島を連れ込んだかと思うと否や、質問を繰り出した。
「ね、ねえ」
「急に、どうしたんだ」
端島は、戸惑いを隠せなかった。
「私たち、結構前から一緒だよね?」
時津風が、珍しく頬をほてらし、もじもじしながら質問をした。
「そうだな」
「いつもありがとね...」
「ああ、」
「だから、これからも守ってくれるよね」
「誰がこんな、色々と危ないやつをほったらかしにするんだよ」
「そうだよね、なら私と付き合って付き合ってくれる?」
「ああ、お前がそういうならば...」
「ありがと‼」
そう言うと、時津風は、端島に飛びつき、2人が同時に一回転したかと思うと、すぐに離して、ライトの方へ嬉し涙がこぼれそうななか、走っていった。
「え~返信まで長らくかかりました。さぞかし戸惑っていたのでしょうw」
乗組員が待ちくたびれたかのように話し出した。
「それで答えは何なんだw」
どこかのおじさんが、野次を飛ばした。しかしながら、怒っているというよりは、早く知りたいという期待の籠った野次だった。
「それでは、発表します。返信内容は、あ、り、が、と、うでした。皆さん拍手ー‼」
想定外の結果に観客は、湧き上がり、拍手喝采だった。
一通り落ち着いた頃、乗組員は、最後の質問と称し、尋ねた。そうすると、中学生の男子が、手を挙げた。
「それでは、バ○スとお願いしますw」
なんだか送るのが気むずかったが、要望に応じた。
「今度は何てきた?」
「バ○ス」
「まじかw、せっかく付き合うことになったのに酷なものだなw」
「そうだよねwそんな奴にはお仕置きが必要だね」
そうすると、時津風は、悪いことを思いついた時は決まってする顔をして、信号を送った。
勿論、そんな顔が見えるはずもなく、着々と展示は進んだ。
「えー、返信は、見せてあげようテラピッツの雷を、だそうです」
少し嫌な予感が乗組員だけが、感じたが、観客は笑いに満ちていたので、気にせずにしめにもっていこうとした。
「それでは、これにて手旗信号の展示を終わらせていt」
『二番主砲、左90、仰角10』
突如、艦内放送が入り、二番主砲が言われるがまま動く。基本的に主砲が動くときは甲板には誰もいないためいつもよりも迫力があるように乗組員には見えた。客はその動く様をたた佇んでいるか、写真や動画をとるしかできなっかった。
そして、乗組員の頭の中に、先程の時津風からの返信内容がフラッシュバックした。テラピッツの雷をみせる、つまり主砲を発砲するという解釈だ。ただ、今一番問題なのは、そこではなかった。そう、問題なのは、このまま発砲すると、甲板上にいる人の大半が焼け死ぬ可能性がある事だった。もちろん、普通の人ならば旋回しただげで、発砲はしない。そう、普通の人ならば。つまり彼女ならばやりかねなかった。
「悪魔かよ...」
そして、最悪な事態へとさらに近付けるかのように、発射前のベルが鳴り響く。不安に思う人がちらほらでてきた。そして、ベルが鳴りやみ、轟音が轟き...ませんでした。代りにパンっと、クラッカーの音が艦橋から聞こえた。そこには、仕返しが出来て嬉しそうな、時津風と、呆れた顔をした端島がいた。
「よく、こんな女の子と、付き合おうと思ったな~」
どこかのおじさんが、微笑みながらそう言った。そして、賑わいは再び戻った。今日は、二人にとってとても長い日に思えた。
後日、この主砲を動かした件については、問題になりそうであったが、展示の目玉の一つとしてこれからは、動かすことになったそう。
だんだんとさむくなっております...
次回にご期待を