二番目のノノ
『二番目のノノ』
…それはとても甘やかで苦たらしい記憶。
「ばあちゃっ」
自分とお姉ちゃんが預けられたママの親…じいちゃ、ばあちゃの家は裏手に山があり、強い吹き下ろしの風でもびゅうびゅう吹けばペコンと屋根が剥がれ、そのまま倒れるんじゃないかと思うような古びた平屋だった。
川に流れる水は綺麗で、夏場に冷たいのが良いと思ったけど近くにお店はなくて、街では当たり前なコンビニエンスストアもない。
唯一…本屋と薬屋と文房具屋が一緒になった…それが良いのかはわからない…雑貨屋一件が何かを得られるアイテム屋だ。
夏休みでもおない歳の他の子に会うのはマレだったし、たまたま出会っても自分は要領よくは喋れず、相手からヨソから来た子だと言う気持ちがヒシヒシと伝わって来て息苦しかった。
あっさりとゴム飛びに混ざるお姉ちゃんを無視して先に家に帰った事もある。
お姉ちゃんと色違いのブルーのサンダルを地面に擦り付けるように。
「のの。
お客さんいるからあっちで遊べ」
じいちゃは洋服を直す仕事をしていて、お客さん相手によく喋り、笑い、器用な人に見えた。
それに対してばあちゃは無口で、お客さんが来ても口を結んだままお茶椀を差し出すような人だった。
目が悪く、目付きも良くはなく、畑の仕事が終わるまでは遊んでちゃあ困ると平気で言う。
じいちゃみたいに優しく笑えばいいのにと思った。
ある日。
その日は天気も良く、何も不満はなかった日だ。
夕飯時。
たまたまちゃぶ台に座るとき、私はじいちゃの左となりになった。
ほんのたまたま。
そこはいつもお姉ちゃんの席だったが、せっせとばあちゃに何か話しかけていたから、そっちを譲っただけで。
「…ののは違うじゃろ。こっちこう」
祖父がお姉ちゃんを呼んだ。
それは大きな事ではなかったのかもしれない。
けれど、熱いものが喉をぐっと込み上げて来た。
夕飯のおかずがマズそうに見える。
お姉ちゃんに笑いかけながら、冷たい水を飲むふりをしてお勝手に逃げ込んだ。
泣く、と思った。
泣くな、泣くな。
たまたまだから、じいちゃはお姉ちゃんが好きで…。
どうしようもく込み上げて来る涙と悔しさに、とうとつに自覚して、気持ちが悪くなった。
あの時も、あの時も、あの時も…。
「ののは別の場所であそべ」
もし、その時にママがいるととがめるような視線をじいちゃに向けて、それがイヤだった。
だから笑って。好きじゃないけど笑って。
手が頭に乗った。
ぽんっと置いて、それから何故か冷凍庫にあるうつわから氷を出した。
それをいくつかくれる。
「のの太…食べっか」
ボクは生まれて初めてばあちゃに出会ったのだ思った。
込み上げていた悔しさが…溶けた。
そんなことボクはもう知ってたんだよ。
でも、
その手が嬉しかった。
明るくてハキハキ喋るお姉ちゃん、二番目のノノ太。
でも、二番目でもいい。
それからもじいちゃはずうっと変わらなかった。
お姉ちゃんはピンクのサンダルで遊びに行って、ボクは一冊の本をひと夏に三十回は読んだ。
新しい本はまだあのアイテム屋には入らない。
その横で無言のまま、ばあちゃがお茶うけの木の皿にりんごのむいたのをトンっと置いたりする。
それを食べる。甘くて嬉しい。
ばあちゃに会えた。
二番目のノノは何回も、何回も本を読んだ。
じいちゃが使うミシンの音を聞きながら。
end
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