真夏の残響
真夏の天使が屋台を見ている。
「こ、これは‼」
「何だよ」
「これは、何とも‼」
「だから、何だよ」
「こいつはあ‼ 素敵なことが起こりそうだぜ‼ 見て見て‼ PS4があるよ‼」
よくあるくじ引きのだった。
「やってみるか」
涼子が、300円を払って、やっていた。
「あー、ダメだった」
当たったのは、よく分からない人形だった。
「蝙蝠は?」
「俺はいいや」
「そう、じゃあさ、かき氷食べよ」
「そうだな」
俺たちって、傍から見ればどんな関係性で見られているんだろう。
恋人?
でも、恋人関係になるようなことはしてないし、まず告白というものをしてない。
だが、俺たちは学校内で噂になっているのは知っている。
あの哲司が聞いたからだ。
おめえら付き合っているの?
俺は友人としてだと言ったが、そこで噂になっていることを知った。
確かに傍から見れば、男女関係だと思われても仕方ないことはしている。
一緒に帰ったり、こうやって行動を共にしていたりなど……。
まあ、それは別にいいかもしれない。
俺は好きだし、構わない。
でも、その先にはいけなかった。
もし、行ってしまったら、何だか壊れてしまうように感じたからだ。
「これこれ‼」
涼子が、俺の袖を引っ張った。
そこには、かき氷があった。
色彩豊かなかき氷がある。
イチゴ、メロン、ブルーハワイ、レモン……。
「イチゴ味下さい」
「じゃあ、俺も」
「あいよ」
気の良さそうな店主が慣れた手つきで、かき氷を作り始める。
告白……。
そんな言葉が頭をよぎった。
告白するのに、絶好のロケーション、シチュエーション……。
あとは、演者の勇気次第。
「なあ」
「うん?」
「ちょっと、ここから離れよう。人も多いし」
「そうだね」
涼子が、俺の手首を掴んだ。
本当なら手を握りたいが……、まあ、いい。これで我慢しよう。
少し歩いていくと、華やかな祭りの残響が聞こえる位静かな場所になった。
「ここなら、花火も見れるだろうよ」
「だね‼」
にこやかに笑う真夏の天使が、微笑ましい。
「なあ……」
「なあに?」
「俺……―」
そう言おうとしたとき、花火が夜空を彩り、言葉を奪った。
キョトン、とした顔の真夏の天使が見えた。
花火は夜空を色彩豊かに彩ると、残響を残してそのまま散っていく。
「なあに?」
「かき氷、旨かったなって」
「そう? 何か言いたげだったけど」
「別に」
「あ‼ まさか‼」
「何だよ……」
「実は、僕は地球外生命体⁉」
「違う」
多分、この真夏の天使にとっては、日常にある出来事としての思い出となるだろう。
だが、俺は違う。
俺にとっては、神様がくれた真夏の贈り物だ。
でも、神様……。
タイミングが悪いですよ……。
俺は少し天を仰いだ。