真夏の天使
真夏の天使が煌めいている。
校庭で、白いジャージを煌めかせて、走っている。
東京には一緒に行くことになった。
だから、少しお金を貯めよう。
そんなことを考えて、ソフトボールのバットを持った。
「うおりゃあ‼」
哲司の投げたボールが、バットにヒットして、そのまま飛んでいく。
よし、手応えあり。
女子たちの声援が聞こえる。
その中に、涼子もあり、少し嬉しい。
真夏の天使が微笑んでいる姿を見て、ベースに走った。
早く、東京に行く日にならないか……。
そんなことを考えた。
ユラユラ揺れる陽炎の中で、真夏の天使がアイスを頬張っている。
「だからね、男塾じゃそんなこと通用しないって」
「なんだよ、世界観が違う」
「だって、センクウは鋼線を使うんだよ? 今時鋼線を使えないって」
「使えねえよ、普通は」
涼子が、俺のアイスを見る。
「頂戴」
間接キスになるが……。
ま、いいか……。
俺は持っていた、ソーダ味のアイスを涼子に向けた。
あむ、と涼子が食べた。
「そうだ」
「ん?」
真夏の天使がくりくりとした瞳で、俺を見た。
「花火大会」
「ああ」
地元で行われる花火大会。
「一緒、行こ」
「おう」
まあ……、少し金を使うから節約をしておくか。
男だから、払うかもな……。
「なに着て行こう」
「浴衣でも?」
「違う、そんなもの持ってないもん。多分、プロレスのティシャツ」
「いいじゃないか」
確か……、プロレス好きだったよな。
この子には、色んな側面と角度があって、数学みたいで楽しい。
自分は数学が好きだ。
色んな計算式が当てはまった時の快感、求めていくときの楽しさ、それと少し似ている。
「じゃあ、プロレスので行く」
「そうか」
不思議な魅力を持つ涼子には、色んな服が似合う。
ま、涼子には似合うだろう。
「蝙蝠―」
「ん?」
「何でもない」
「そうか」
他愛ない言葉。
それでも、俺には嬉しい。
今夜あたりにラインを入れてみようか……。
花火大会のことで話があるって……。
家に帰ると、姉が出迎えた。
「おかえりー」
「ああ」
「今度コミケに参加するんだけどさ、来る?」
「コミケ?」
「サークル参加、興味ある? それに間違えて二冊カタログ買ったから、あげるよ」
「ああ」
ふーん。
姉は腐女子だ。
腐女子の姉が何か同人誌を出すらしい。
別に自分の姉が腐女子なのはいいが……、ま、いっか。
「どのジャンル?」
「小説で、一緒に出る人もいるの」
コミケか……。
涼子も確か腐女子らしいのはあったような……。
ま、また誘ってみるか。
コミケに行かないか? って……。