鳩好きな人
「先輩はイヌ派ですか? ネコ派ですか?」
「んーどっちも好きじゃねぇなぁ」
飲み会の帰り、先輩と二人で夜道を歩いていた。
先輩はいつも気だるげだ。顔はわりとイケメンだし、厭世的なとこもけっこうアリだなーとか、わたしは思ってる。
「…強いて言うなら、鳩だな」
「ハトですかー。マニアックですね」
こういうちょっとズレてるとこも、わたし的にはアリだ。
先輩はからからと自転車を押している。こうしてわたしの家まで送ってくれるのだ。わたしのアパートの周りが夜とても暗い、という話をしたら、さりげなく送ってくれるようになった。
こういうところは、とってもアリだ。
「いやー、いつも送ってくれてありがとうございます」
アパートが近くなってきた。まだ話し足りないんだけど。
「っていうか、治安悪いわけじゃないんですけど、毎度すみません」
「いーよ。女の子なんだし、用心するに越したことはねぇ」
「えー? 先輩には用心しなくても良いんですかー?」
冗談めかして言ったら、先輩は黙ってしまった。
ヤバ。失敗だったかも。
「えっと……」
アパートの前まで着いて、そっと先輩を窺い見る。
「かぁーいいね、お前」
突然の言葉。
「ふぇっ?」
「かわいい」
もう一度、はっきりと言い直す先輩。
「えっ? えっ?」
待って。理解が追い付かない。
先輩そんなキャラじゃないじゃん。
「俺んち来る?」
「……行きます」
あっ、先輩って笑うと八重歯が見える。アリ。




