第7話 無理をすれば食べられないこともない
小さい頃の夢を見た。
5歳ぐらいだっただろうか?父さんと公園で遊んでもらい家路に着いた。母さんが暖かく迎えてくれたのを覚えている。
母さんに促され、洗面所で手洗いうがいをしていると激しく暴れる物音と悲鳴がリビングから聞こえた。
怖くて反射的に洗面台の下の棚の中に隠れた。
物音が止み、どれだけ時間が経っただろう。
それほど経っていないような気もする。
恐る恐るリビングまで移動すると…変わり果てた両親の姿が…
血溜まりの中、寄り添うように倒れ伏す両親に歩み寄る。
血溜まりは暖かく脚にまとわりつき、一面を赤く染めかげている。
父さん、母さんと縋り付く俺の頭を優しく撫でる母の手。
生きてる!顔を上げ母さんと目が合う。助けを呼ばなくちゃ!
母さんが何か言っていた気がする。でもそれどころじゃない。
家から駆け出し泣き叫ぶ。
「だじげでーだれが‼︎父さんと母さんがじんぢゃうー‼︎だずげでー‼︎」
泣き叫んで助けを呼ぶ。
そこで俺は意識を失うと同時に両親も亡くした。
あの後何があったのか?
それを知ったのはだいぶ後だった。
両親は失血死。
俺は助けを呼んでいるところに空き巣強盗が戻ってきて暴行。
危ない所を騒ぎを聞きつけた近所の人に助けられた。
これを知った時後悔した。
すぐに119番していれば両親は死なずに済んだんじゃないか?
応急処置を出来ていれば?
母さんは俺に何を伝えようとしていた?
ちゃんと聞いていれぱ助けられたんじゃないのか?
なのに俺は…
目覚めは最悪だった。
腫れた目を擦る。
そう言えばあの頃からか。生きる為、生き残る為に何でも知ろうとし始めたのは。
知っていればあの時も、今も変えることができたかもしれない。
だから知らずに死ねるか‼︎
…でも、何でも助けるじゃなくて生き残る何だろう?
…何か忘れている?
まぁ、思い出せないものは仕方ないか。
さしあたっての問題は食料だなぁ。
どれぐらい寝てたのかはわからないけどお腹すいた。
ギュルギュル鳴ってるよ。
なんか気持ち悪くなってきた。かなりマズイ状況だ。
「ゴブリンって食べられるのかな…」
自分の口から漏れ出た言葉に軽く嫌悪するが、倫理がどうのと言ってられないのは確かだ。
短剣でゴブリンの首から肩にかけての肉を削ぐ。
皮を剥がし、筋張った部分を除いて湧水で洗って完成だ。鑑定してみるか。
ハイゴブリンの肩ロース 品質G
ゴブリンの肉。
食べられたものじゃないな。
食欲湧かないなぁ…食用には向いてなさそうだし。
火があれ焼けるのだが…残念ながら此処には枯れ木などは皆無だ。
リビングデッドの衣服などは火種になりそうだが、煙がな。
煙に巻かれるなんてごめんだ。死んじゃうし。
仕方ないか。
小瓶に湧水を汲み万が一のために準備する。
意を決してゴブリン生肉を一口大にして食べ始める。
…一噛み毎に舌を抉るような生臭さ。
絶妙なバランスの苦味と酸味が舌の奥と側面を刺激して今にも胃酸が逆流してきそうだ。
大腿部をつねり意識を保ち、拒絶する身体を意思でねじ伏せ吞み下す。
「ウップ…マズイなんてものじゃないな…うっ…吐きそう」
心折れながらもなんとか食べきる。
暫く吐き気と戦っていると…
ポーン
『称号:ゲテモノ喰いを獲得しました。』
新たな称号を獲得しました。