第6話 辛勝と言う名の敗北
重い瞼を薄く開き、見つめる先は崩れた天井。
よく崩落に巻き込まれなかったな、などとぼんやりしたまま考える。
軽い頭痛がする頭を抱えて周りを一瞥して嘆息し落胆する。
「やっぱり夢じゃないよな…後頭部痛いし。いきなりベリーハードじゃやる気起きないよなぁ」
ぼやきつつ意識を失う前までのことを思い出し、ステータスを確認してみることに。
「ステータスオープン」
名前 ショウゴ・クスノキ
種族 ホモサピエンス
年齢 16
Lv.23
生命力 260
魔力 390
筋力 68
耐久 9
俊敏 126
知力 196
抵抗 234
運 豪運
一気に22もレベルが上がってる‼︎
ステータスも軒並み上がっているが、筋力と耐久は伸びが悪いな…耐久なんて5しか上がってない。これは今後も期待できないなぁ。
ということは、まともに攻撃受けたらそのまま三途の川までご招待って事だよな‼︎それは流石に勘弁してほしい‼︎
腕や脚なら多少は耐えられるみたいだけど胴体はアウトだろうな。
スキル構成からみても隠れて相手の意識外からチクチク攻撃してくしかないな。
魔法とか使えれば違ってくるんだけど、そんな簡単じゃないだろう。
リビングデッドの身体から出てきたあれが多分魔法の元、テンプレで言えば魔力や魔素とかいうものなんじゃないかな?
こんな惨状になるようなものを軽々に実験しているラノベの主人公は頭が残念なんじゃないだろうか?
まぁ現状は隠密で隠れて不意の一撃をって事ぐらいしかできないのが現状だけど。
姿丸見えだとあんまり効果ないみたいだけどな‼︎
手持ちが少ないからそれでなんとかするしかないのが泣けてくる。
スキルは変化なしだから考察はこのぐらいにして周りを漁ってみるか。
瓦礫の下には元リビングデッド達の防具や衣服がある。あるのだが、先の爆発崩落でほとんど使い物にならない状態だ。
かろうじて使えるものがボロボロの衣服の上下と小瓶、刃渡り15cm程の両刃の鋼の短刀、革製のグローブと手甲、ブーツぐらいか。
忌避感を感じつつも背に腹は変えられないのでそれらを身に纏い、小瓶には湧水を汲んでおく。
準備を終え瓦礫に埋もれた出口があった場所へ。
耳を澄ませばうめき声がかすかに聞こえる。
即座に無理だと判断し、天井部に視線を向ける。
天井があった部分は半分ほどが崩れ落ち上層の部屋が覗けるようになっていた。
瓦礫を足場に上層の床に手をかけよじ登る。
どうやら元いた部屋とは反対側に出入口があった為崩壊は免れたようだ。
幸運に感謝し油断なく出入口から外へ。
通路は左右に分かれ右側の通路から何やら物音が聞こえる。
迷わず音が聴こえた方へ気配を殺し歩き出す。
何がいるかわからない。
だが、出来るだけ情報がほしい。
リビングデッドの時みたいに何もできないじゃすぐに死んでしまう。
そんなの嫌だ‼︎必ず生きて此処を出る‼︎
何のために此処にいるのかなんて分からない。何のために生きているのかも分からないけど…分からないまま死ぬのだけは絶対に、拒絶してやる‼︎
短刀を握りしめて通路を歩く。
30m程進み、分岐に差し掛かり音のする方へそっと顔を出す。
そこには灰色の肌に額から5cm程の角を生やした鬼がいた。
体長は150cm程だろうか?
程よく脂肪が乗った鍛えられた体躯に革の鎧を纏い、槍を片手に何事かを呟いていた。
(何だ?ゴブリンに見えないこともないが…鑑定‼︎)
種族 ハイゴブリン(変異種)
Lv.41
生命力 468
魔力 395
筋力 329+40
耐久 332+50
俊敏 212
知力 157
抵抗 248
運 52
スキル
槍術Lv.2
豪腕Lv.5
闘気Lv.5
咆哮Lv.3
火魔法Lv.2
風魔法Lv.4
固有スキル
剛体Lv.3
ゴブリンの上位種で変異種って…しかもステータスが高い。
スキル構成はオールラウンダーかよ‼︎
あとは固有スキルとかよく分からんものまで…絶望的だよ。
でも、こいつがこの階層では強者なのか弱者なのかまだ分からない。
後者だったら最悪、前者なら他の奴から倒してレベル上げって感じかな?
どちらにしろもたもたしてられない。食糧なんてないから動けて3日。戦闘とかしたこと無いからもっと短いだろう。
水がある事だけが救いだな。
出来る限り周辺を索敵して行こう‼︎
あれから二時間ほど経過した。
結果からいうとゴブリンの変異種はこの近辺では最初の一体だけだった。
ハイゴブリンと変異種との違いは固有スキルの有無とステータスがハイゴブリンの方が3割程低い、という事が分かった。
階層がかなり広いので全て調べたわけでは無いが、最悪の結果じゃない事で少し安堵したよ。
これなら変異種以外を相手にしてレベル上げ、探索が出来そうだ。
猶予もないし、殺す覚悟どうの言ってられる場合じゃないから早くやろう…
これじゃラノベの主人公如何の斯うの言ってらんないな俺は…
通路の角からその先を視認する。
青白い肌をしたゴブリンの上位種、ハイゴブリンが背中を向くて蹲っている。
防具などは変わりはなく、こいつは片手剣に盾を持っている。
通路に出ている奴らは単独で行動しているのがほとんどだ。
気づかれないように隠密、歩法で静かに、素早く距離を詰め、手に持つ短剣を喉元に当てる。
力を込めて短剣を引き切る。
生々しい感触が手に伝わり、筋繊維の一本一本が刃の侵入を拒むが如く抵抗し、切断される。
想像以上の肉の抵抗に奥歯を噛み締め腕に力を込める。
喉を掻っ切り、傷口から鮮血が噴き出してはじめてハイゴブリンは自分が死を理解する。
絶望と恐怖に瞳は濡れ崩れ落ちる…
終わった。そう思いハイゴブリンから目をそらした瞬間、左脇腹に焼け付くような痛みが走る‼︎
「っ‼︎ぃがぁっ‼︎」
何だと思うよりも先に目に飛び込んできた光景は…ハイゴブリンが手に持つ剣で俺の腹を突き刺す光景だった。
反射で、震える手で、短剣をハイゴブリンの左目に突き立てる‼︎
当たり前だ!これは殺し合。どちらか一方が死ぬまで続く命のやりとりだっ‼︎
俺から仕掛けたくせに!死から目を逸らしてこのざまかよっ!全く笑えない‼︎
渾身の力を右手に込め、左手は刺さった剣を掴む。
ハイゴブリンはタダでは死なぬと、ゴボッゴポっと声の出ぬ喉を鳴らし、顔には狂気を張り付け一歩前へ。
狂気に気圧され後方に下がる将吾。
数歩下がったことで剣が抜け噴き出す鮮血‼︎
跪き見上げるは不敵な笑みを携えたまま立つハイゴブリン。
俺こそが勝者だと語るその姿に心が屈するのを無理やり奮い立たせ立ち上がる!
これが最後。
踏み込みハイゴブリンの胸に短剣を突き立てる!
手には何か硬い物が砕ける感触と共にハイゴブリンは天を仰ぎ倒れ…ゴボゴボと呟き、微動だにすることはなかった。
最初の部屋にゴブリンの遺体と共に戻った。
壁に背を預けて考える。
小瓶に入れた湧水がなかったら死んでいたな…辛勝。
いや、敗北だろ‼︎
今回生き延びたのはたまたまだ。
運が良かっただけだ。死んでてもおかしくなかった。
何の覚悟もなく、考えず、知らずに殺し合いに挑みこのざまかよっ!
震える身体を抱えて呟く。
「まだだっ!此処で逃げ出せばただ死ぬだけだろっ!俺はまだ何も分かってないんだ!何にも知らないまま死んでたまるかっ‼︎」
それだけ呟くと重くなった瞼を支えきれず意識は遠のいていくのであった。
遊びなしで書いてみました。どうでしたでしょうか?
評価や感想お待ちしてます‼︎