第12話 転移酔いは異世界のてんぷらです。
うぼぇぇぇぇっ!
「ハァ…スッキリした‼︎」
天井にあった魔術陣みたいなのに触れた瞬間真っ暗な空間にいた。
何処かへ移動して来たみたいだ。
移動の際の感覚が最悪だった。
エレベーターに乗った時の浮遊感と脳を直接シェイクされてるような感じと視界が切り替わる時の歪みが、もうね…我慢できなかったよ。
「しかし暗いな…何かないかなあかりになるものないかな?」
手探りで辺りを調べていく、数歩歩くと何かに触れる。
(これは…机かな?椅子もあるみたいだ。…ってことは、人がいるかもしれない‼︎…いや、人とは限らないか?でも、机があるって事は読み書きできる知性があるって事だよな…だったら意思疎通は出来るかもしれないな!考え込んでも仕方ないからとりあえず灯を探そう…)
机の上をあさっていると何かに球体のような物に手が触れる。
触れた瞬間、身体から何かを抜き取られる感覚に襲われて素早く手を引く。
すると謎の球体が淡い光を放ち、辺りか薄っすらと手出し出された。
軽く驚きつつ辺りを見回すとそこには…
閉ざされた空間か広がっていた。
5×10×3ぐらいの部屋の中に机と椅子。
本棚には数十冊の本、部屋の中央に魔術陣があるだけだった。
誰もいない部屋を見回し机に目を落とすと…長年誰も使用していなかったことを裏付ける蓄積された埃が積もっていた。
(気落ちしていても仕方ない。ここに知性ある誰かが居たのは変わりない。本などがあるなら情報が手に入るかもしれないしな…前向きに考えていこう‼︎)
本棚に向かおうとして立ち止まる。
机の上には薄い…手帳のようなものが置いてあった。
(目の前にあったのに見落とすなんて…全然落ち着けてない証拠だなぁ)
苦笑しながら手帳を取り、埃を払う。
椅子に腰掛けページをめくると…灯が消えた。
(何でこのタイミングで消えるかなぁ…そう言えば触れた時に何かを抜き取られる感覚があったな…考えられるのは魔力かな?少し長めに触れておこう)
灯がともり、手帳に視線を移して目を見開く。
そこには見慣れた文字、日本語が書かれていた。
それほどこのダンジョンで時を過ごしていないが、懐かしさを覚えて読み進めていく。
どうやらこの手帳の持ち主は社会人のようだ。始めの方は仕事関係のことなどが乱雑に、時には愚痴などを交えて書かれている。
プライベートな所は読み飛ばしていくと…あるページから様相が変わる。
名も無き者の手記
久しぶりに手記を開いた。
日本にいた頃のことを思い出す。
この場所に来てからはそれどころではなかった。
毎日命懸けで闘っているからだろうか?どれ程日本という国が恵まれていたのか痛感する。
豊かに溢れる食べ物や情報。安全な住居や親切な人々…帰りたい…
少し…暗くなった気分を払い読み進めていく。数ページを斜め読みして有益な情報を捜す。
名も無き者の手記
ここはまるでゲームの中のようだ。
私のステータスは魔道士寄りの伸び方をしている。
戦闘などしたことのない者にとっては幸いだろう。
スキルは火魔法、水魔法、風魔法が使える。
そして先日、魔術書なるものを宝箱から取得した。もしかすれば何か脱出の手助けになるかもしれない。
暫くは魔術書の解析に時間を割くことにする。
…魔法使えるんだ?しかも三属性も。
この人イージーモードなんじゃないかな?火と水あるから最低限の生活出来そうだし。…少しぐらいイラっときても仕方ないよね?
名も無き者の手記
魔術書の解析が終わった。この書によれば、魔法と魔術は似ているが別物らしい。
魔法とは自分に内蔵する魔力を用いて、詠唱を引き金とし無から有を創り出す。魔法の利点は魔術陣などを時間をかけて刻む必要がなく、臨機応変に対応出来る。しかし、魔力が無くなれば使用できない。
魔術とは魔術陣に起こしたい現象を文字を使って術式を編み、魔力を込める事によって望んだ現象を起こす。
魔術の利点は必ずしも自分の魔力を使わなくても良い。
編み込む術式によっては相手の魔力を利用して発動する事も出来る。
しかし、複雑な術式を編むとそれに倣って魔法陣も大きくなり、時間と手間がかかる。
どちらも一長一短。
しかしこの魔術陣を使えば転移などが出来るもしれない。
引き続き調べていこう。
魔術と魔法は違うか…なるほど、今の俺は魔術は使えるが魔法は使えないという事か。魔法は使わなくて正解だったって事かな?暴発してたら危ないしね。
名も無き者の手記
あれからダンジョンの中を探索し、かなりの数の魔導書、魔術書を手に入れた。
魔術の研究をしていく中で魔導の探求者と言う称号を得た。
これによりかなりの前進が得られた。
もう少しで…希望が…いや、まだ問題はある。
焦らずにやっていこう。
僅かに胸の高鳴りを覚えてページをめくる。
名も無き者の手記
基本的に、転移魔術陣は二対で用いる。故に、魔術陣を設置していない場所には移動できない。原則ではだが。
この世界には魔素という名の魔力の源が大気に満ちている。
世界中に網目のように張り巡らされた道によって供給されている。
日本で言うところの龍脈みたいなものだろう。
これを利用して道を作り、魔術陣にある程度の出口となる環境の設定をする。
これによって出口となる場所を限定し、ある程度の危険を排除する。
あとの問題は消費魔力だろう。
此れには魔物の体内にある魔石を使用する事にする。
どれ程必要か…こればかりはどうしようもない。地道に手に入れていこう。
なるほど。転移先は選べないが脱出は出来るのか。でも、何でそんな不確かな事をする?このダンジョンを攻略すれば出られるんじゃないのか?もしかしたら出口なんて…
名も無き者の手記
必要な魔石を集めきった‼︎
長かった…どれ程の死線をくぐった事か…だが、その苦労もこれでも報われる。
もし、誰か。
私のようにこの場所に訪れてしまった者の為に、この手帳や魔術書、魔導書は此処に残していく。
これは警告だ。
決してこのダンジョンを攻略するべからず。
私は15階層ほど上に行った。
そして絶望した。
このダンジョンは絶望の監獄だ。
正攻法では出られない。故に私は転移の研究をしたのだ。
もう一度言う、このダンジョンを攻略するべからず!
ただ、5階層までは進む事を推奨する。理由は…行けば分かるとだけ明記しておこう。
この手帳を読む者が現れない事を心から祈っている。
…もし、君がこの手帳を読んでいるのならば、この情報が君の助けにならん事を願う。
〜はぁ…どれ程の魔法が使えたのからわからないけど、俺より強いのは間違いないだろう。そんな人が言うんだ、これは攻略は無理だなぁ…
この人が本当に脱出出来たかはわからないけれど、取り敢えずの目標は出来た。
さしあたっての問題は、憎きリビングデッド・ストーカーだよな。
あれをどうにかしないと飢え死にだ。
それと5階層までも行けないしな…何でかは説明してくれないけどね。
さて、問題解決のために本から情報を引き出しますかねっ‼︎




