今野ちゃんと親友
二人はすごく大切な、私の親友で。
卒業してからも、ずっと友達だよっていつも話し てたし、それを疑ったことはなかった。
……だけど、瀬戸内君は、私が生まれてはじめて好きになった、男の子で。
これから隣にずっといたいと思ってる人で。
どうしよう………恋も友だちもどっちも失いたくない。
智ちゃんも、和美ちゃんも、瀬戸内君もみんな大好きだから、離れたくないよ。
どうすれば良いのかわからなくて、泣きそうになる私に、智ちゃんと和美ちゃんが二人同時に噴き出した。
「……嘘、嘘、冗談よ、冗談! 舞子があんまり水くさいから、からかってみただけ!」
「全く、そんな泣きそうな顔で困るくらいなら、ちゃんと私たちに報告しなさいよー。面白くないからつい、意地悪しちゃったじゃないの」
………え?
唖然とする私に、和美ちゃんはニヤリと笑いかけた。
「付き合ってるんでしょ? 瀬戸内と」
「……え……何で、知って……」
「あんな甘い空気、毎日かもし出してて、気づかないでか」
「てか、うちら、そもそも瀬戸内の片思いからして気づいてたし。舞子もまんざらじゃなさそうだから、いつくっつくか楽しみにしてたのに……高三になってからとか、時間かかり過ぎ。馬鹿だねぇ。受験生になる前なら、デートだってし放題だったのにさー」
「本当へたれだよねー。瀬戸内。いくらハイスペでも、あんなへたれごめんだわー。舞子に声一つかけられない癖に、いつも眼鏡ごしにジーっとこっち見てて気持ち悪かったし」
……え? え? え?
智ちゃんと和美ちゃんが、瀬戸内君を好きなわけじゃなくてよかったけど、なんか、私の知らない衝撃の事実が満載で脳がついてけない。
「あとさー……あんたら、朝早く学校来て、会話するなら、教室以外でやりなさいよ。早朝勉強したい組が、空気が甘すぎて教室入れないって嘆いてたわ」
「……そ、そこまでバレてるの!?」
「てか、多分クラスのほとんど知ってるって……男子の一部はいつあんたらがくっつくかトトカルチョしてたし」
……そんな……みんなに知られてたなんて!
恥ずかしさで、顔がどうしようもなく、火照る。
そして同時に、とてつもなく申し訳ない気持ちになってきた。
「……ご、ごめんね。智ちゃん、和美ちゃん……瀬戸内君と付き合ったこと、今まで秘密にしてて」
私の言葉に智ちゃんは、拗ねたように唇を尖らせた。
「……本当よねー。親友なんだから、真っ先に報告しなさいよ」
「薄情だわー。……そんなに私たち、あんたらのこと言いふらしそうに見える?」
「違……そうじゃなくて! 二人を信用してないとか、そういうのじゃなくて!」
智ちゃんと和美ちゃんが、秘密を言いふらすようなこじゃないことなんて、よくわかってる。二人とも、友達想いで、すごく優しいこだから。
だけど、そういうことじゃなくて。
そういう問題じゃなくて。
真っ赤になった顔を両手で隠しながら、必死に言い訳の言葉を口にした。
「……恥ずかし、かったんだよ……誰かと、お付き合いするのなんて、はじめてだから……大切な友達に報告するのすら、恥ずかしくて……言えなかったんだ」
……うう。智ちゃん、和美ちゃん、ごめんなさい。
だけど本当は今も、二人に私と瀬戸内君の関係がバレているのが、すごく恥ずかしくて仕方ないです。
「ーーああ、もう、全く舞子は、仕方ないなあ」
「舞子だからねー。身長同様、恋愛に関してもまだまだお子様なんだから、許してやるか」
呆れたようなため息と共に、両脇から二人同時に抱きつかれた。
そのまま髪を、くしゃくしゃと思い切りかき撫でられる。
……髪の毛ボハッボハなってるけど、ここは甘んじて受け入れさせて頂きましょう。
「……どうしよう。和美。私、今娘を嫁に出す父親の気持ちわかったかも」
「私もだよ、智恵……なんだか、無性に瀬戸内のこといじめたくて仕方ないわ」
「いーねー。小姑。今度、瀬戸内が近くいたら、うちの愛娘を奪ったことに対するイヤミを、二人でネチネチ合唱したろーぜ」
「ついでに告白が遅過ぎた罰として、眼鏡隠してやるか、眼鏡。瀬戸内、本体が眼鏡みたいなもんだから困るぞ~。舞子のことも見れなくなるし」
……ゆ、許してくれたのは嬉しいけど、瀬戸内君いじめの計画を練るのはやめてください。
瀬戸内君、下手したら泣いちゃうから。
しばらくの間、いかに瀬戸内君をいじめるかで盛り上がっていた二人だったけど、不意に真剣な表情で私を見すえた。
「……でもさ、うちらは冗談だけどさ。高梨さんは、本当に気をつけた方がいいよ」
「あ。それは私も思ってた。……いつも、舞子と瀬戸内が目で会話してる時、すごく険しい表情で舞子のこと、見てるもんね」
……え。高梨さんが?
「高梨さん、悪い人じゃないと思うけど、何考えてるかわからないからなー」
「警戒しとくに超したことないよね。……高梨さんと瀬戸内、見掛けだけなら美男美女でお似合いだし」
二人の言葉に、瀬戸内君からキスされた時のことを思い出す。
あの日、高梨さんは木の上から、ひたすらサッカー部を見つめていた。
……もしかしなくてもやっぱり、高梨さん。瀬戸内君のことがーー
「ーー果たし、状?」
 




