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今野ちゃんの運命

 初めて瀬戸内君を見た時、すごく格好良い人だなって目を奪われた。

 ドジをする瀬戸内君を見て、可愛い人だなって、もっと好きになった。

 付き合うようになって、瀬戸内君のことを深く知れば知るほど、ますます瀬戸内君のことを好きになって、一緒にいない未来が考えられなくなった。

 ……同じだよ、瀬戸内君。

 私と瀬戸内君は、同じようにして、お互いを好きになっていったんだ。


「片方だけだったら、たまたまそういう風に恋に落ちただけなのかもしれないけど……二人同時なら、やっぱりそれは運命だよ。……私は、運命だって信じるよ」


 生まれた場所も育った場所も違う、今まで全然関わりがなかったはずの二人が、巡り会った途端、同時に初めての恋に落ちる確率は、一体どれほどのものなのだろう。

 そして知れば知るほど、ますますお互いを好きになっていく確率は、一体。

 ……私には、それが奇跡のような確率に、思える。

 奇跡のように、私達は出会って恋に落ちたんだ。

 だったら、この奇跡はきっと、これからだって続いていくはず。


「それでも、瀬戸内君は運命と、私を、信じられない?」


 私の問いかけに、瀬戸内君は暫くの間黙り込んだ。


「ーー……信じる、よ」


 瀬戸内君の頬に、光るものが見えたと思った途端、再び私は瀬戸内君の腕の中にいた。


「信じるから……俺のこと、待っていて。……大学を卒業したら、必ず今野のもとに戻るから、それまで俺のこと、待っていて……」


 涙声で告げられた弱々しい言葉に。すぐ傍で聞こえる鼻を啜る音に。思わず笑みがこぼれた。


 ーーああ、やっぱり。


 やっぱり瀬戸内君は、可愛い人だ。


「待ってるよ……ずっと待ってる」


 瀬戸内君の背に手を回して、ぎゅっと抱き締め返した。

 私の腕の中で、別れが怖くて震えている瀬戸内君が、ただただ愛おしくて仕方なかった。


「……メールするから。毎日一通、今野にエアメール送るから……俺のこと、忘れないで……」


「ありがとう……でも、無理はしなくて、良いんだよ。瀬戸内君がメールくれなかったとしても、私が瀬戸内君を忘れることはあり得ないから」


「……長期休みには、日本に戻るよ。……だから、その時は……」


「季節にぴったりなデートコース探して、待ってるね。外国での面白い想い出話聞かせてもらうの、楽しみにしてる」


「……も、もしも……もしも、今野に好きな人ができたとしても……恋人になるまでば、言わないでぐれ……俺、絶対、今野のごど簡単に諦められないがら……少じでもヂャンズがあるなら、縋るがら……」


「大丈夫だから、瀬戸内君、落ち着いて。涙と鼻水で、顔と声がすごいことになってるから。……瀬戸内君以上に好きな人なんか、まず絶対できないから、安心してよ。……でも、私はもし瀬戸内君が向こうで好きな人ができたら、早く教えて欲しいかな……瀬戸内君を縛りつけたくないし」


「ぞれごぞ、あり得ない……!」


 そのまま、日が暮れるまで、二人で抱き合って過ごした。

 瀬戸内君の肩越しに見えた夕日は、涙で滲んでいたけど、それでもやっぱり綺麗で。

 

 また一つ、生涯忘れられない風景が増えた。




 それから、五ヶ月後。

 「今野と一緒の時期に、大学を卒業したいから」という理由でクォーター制の大学を選んだ瀬戸内君は、桜が花開く前に日本を発って行った。




「ーーうー……何で、集中講義用の講堂には、クーラーないのよ。教授は受講生を、熱中症で殺す気?」


「……なんか、去年壊れちゃってから、修理する予算がないんだって。公立だと、やっぱり私立より予算厳しいのかなあ」


「教授の研究室は、がんがんクーラー効いてるのに!」


「……まあ、研究室は、絵とか画材とか置いてる教授も多いし。画材とかが変質考えると、ね。でも、代わりに実技用の部屋はちゃんとクーラー完備だから……」


「そもそも、何で夏休みなのに、大学に来ないと行けないわけ? おかしいでしょう!」


 ……それが、うちの大学のカリキュラムだからです。

 と、突っ込んだところで仕方ないのは分かっているので、苦笑いで誤魔化した。

 ……美波ちゃん、単に愚痴りたいだけなんだよね。こう暑くちゃ、仕方ないよね。わかるよ。うん。


「……しっかし、今年は暑いわねえ。蝉もうるさいし。……去年はもっと暑かった気もするけど」


 美波ちゃんの言葉に、8月の空を見上げる。

 青い空を切り裂くように、もくもくと高く延びる入道雲の白さに、思わず目を細めた。

 ……そう言えば、瀬戸内君達と花火を見に行ってから、もう一年以上経っちゃったんだなあ。


「……去年は、引き込もって受験勉強ばっかりしてたから、そのせいじゃないかな?」


「……それね、それ。特に私は一浪して予備校漬けな日々だったから、そもそも去年の夏の記憶自体が薄い気がするわ。……あの地獄の日々は思い出したくもないし。その点、舞子は良いわよねー。ストレートで一発合格だったわけだし」


「運がよかっただけだよ。私、推薦合格だし。……一般受験で、主席合格した美波ちゃんのが、ずっとすごいよ」


「そりゃ、一年、舞子より勉強しているわけだし? 去年舐めてかかった結果、ずっこけたから、今年はめちゃくちゃ頑張りました! 特にセンター! さらに言うなら、数学!」


 ーーあの夏から、一年。

 私は志望の美大に推薦で合格を果たし、夢への第一歩を踏み出していた。


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