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瀬戸内君と運命

「……運命?」


「ああ。……だって、そうだろう?」


 瀬戸内君は顔をくしゃりと歪めて、泣きそうな顔で笑った。


「だって俺、別に今野と出会う前まで、今野みたいな女が好みだとか、思ったことはなかった。正直夢やサッカーのことでいっぱいで、恋愛自体興味はなかったし……それなのに、今野と目があって瞬間から、俺の世界はいきなり変わったんだ」


「…………」


「一目見た瞬間、恋に落ちて。中身を知ったら、もっと好きになって。付き合えるようになったら、もう今野が隣にいない未来は考えられなくなった。……こんなに好きになれる相手、他にはいない。世界中探したって、絶対、今野しかいないよ。運命以外の何だって言うんだ。……だから、離れたくない。大切だった夢を捨ててでも、一緒にいたいんだ……!」


 瀬戸内君の気持ちは、痛いほどに理解できた。 

 瀬戸内君が、そこまで私のことを想ってくれていることが、うれしかった。

 ーーだけど。


「瀬戸内君……私、今まで瀬戸内君がどんな失敗しても格好悪いなんて思ったことはなかったけど……今の瀬戸内君は、格好悪いよ」


 だからこそきっと、私は瀬戸内君の言葉を肯定してはいけないんだ。

 世界で、私だけは、きっと。


 私は瀬戸内君の肩を掴んで、抱き締めてくれていた瀬戸内君の体を離した。


「本当は全然諦められていないのに……私の為だって言って、捨てなくても良い夢を捨てる瀬戸内君は、すごく格好悪いよ……っ!」


 だって、瀬戸内君の夢は、まだきっと死んでいないはずだから。瀬戸内君の胸で、まだ生きているから。

 

 ……今度は、見ないふりなんかしない。


「今野………」


「ねえ、瀬戸内君……私もさ、考えたことがあるんだ。夢とか友達とか、大切なものと瀬戸内君を天秤にかけた時、私はどっちを取るんだろうって」


 イラストレーターになるという夢も。

 何年もずっと一緒にいる友達も。

 瀬戸内君とは違う意味で、かけがえのない大切な存在で。

 天秤はいつも平行なままで、答えは出なかった。


「私はいくら考えても選べなかった……全部大切だから。きっと、実際にその状況になってみないと、答えなんかだせない。瀬戸内君の為に、全てを投げ出せるなんて、今の私には言えないよ」


「……いいよ。俺は夢や友達を大切にする今野が好きだから、俺のことは気に……」


「ーーだから! だから、瀬戸内君にも、簡単に捨て欲しくない!」


 瀬戸内君の言葉を、途中で遮って叫んだ。

 私は、夢や友達の方が、瀬戸内君より大切だなんて、言いたいわけじゃない。

 そんな風に言えるなら、今、こんなに苦しくなんかない。


「……瀬戸内君……私と夢って、天秤にかけて、必ずどちらか捨てないといけないものなのかな。絶対に、片方を選ばなければならないものかな」


「……ごめん。俺は、今野が何を言いたいのか、わからない」


 困惑する瀬戸内君の服の胸元あたりを、ぎゅっと握り締めた。

 瞼を閉じれば、今も幸福な未来の幻影が見える。

 瀬戸内君と二人で、四季を過ごす未来が。


「……春になったら、桜を見に行こうよ。夏には花火を、秋には満月を見て、冬にはクリスマスツリーを一緒に見に行こう? ……瀬戸内君が、夢を叶えて、日本に戻って来てから」


「……っ」


「瀬戸内君が、大学を卒業するまで……私は、自分の夢を追いながら、ずっと日本で待ってるから。私は、どこにもいかないから」


 隣で過ごす幸せな未来を、諦めたわけじゃない。

 ただ少し、先延ばしにするだけだ。

 桜は毎年咲くし。花火だって、毎年どこかで行われるし。満月なんて、もっと見れる機会が多い。

 クリスマスツリーだって、毎シーズンあちこちで飾られてる。

 だから……いいんだ。来年じゃなくても。

 今は、瀬戸内君には夢を追って欲しい。


「私も、自分の夢を追うから、瀬戸内君も一緒に追ってよ。……夢の形は違うけど……追いかける場所も離れてるけど……それでも私は、瀬戸内君と一緒に夢を追いかけて行きたい」


「でも………」


「……離れるのが、怖い?」


「怖いよ……離れている間に、今野を失いそうで、怖い。今野は、怖くないのか?」


 私が、高梨さんにしたのと同じ質問だ。

 あの時なら、きっと答えは返せなったけど、今ならはっきりと言える。


「怖いよ。外国には私みたいなちんちくりんとは違う、スタイルがいい美人さん、たくさんいそうだし。瀬戸内君が、心変わりしないか、すごく怖い。……だけど、私は、瀬戸内君のことを信じるよ。だって瀬戸内君が、私との出会いを運命だって言ってくれたから」


「…………」


「瀬戸内君も、運命だって言うなら、信じてよ。……離れても、ずっと繋がってるって。その先の未来では、一緒にいるって信じてよ」


 数年間離れたくらいで壊れる関係なんて、運命じゃないから。

 だから、瀬戸内君も私のことを、信じて欲しい。


「ーーねえ、瀬戸内君。私も、同じだったんだよ。同じように瀬戸内君に一目惚れして……運命、感じてたんだよ」


 一目見た瞬間、恋に落ちて。

 中身を知ったら、もっと好きになって。

 付き合えるようになったら、もう隣にいない未来は考えられなくなって。


 瀬戸内君のその言葉の意味が、痛いほど、わかる。

 

 だって、私も全く一緒だったから。

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