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瀬戸内君は可愛い人【連載版】  作者: 空飛ぶひよこ


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瀬戸内君の告白

『俺は………もっと、俺が知らない世界を知りたいと思ってる』


 最初に違和感を抱いたのは、花火を見ながら瀬戸内君が夢を語ってくれた時だった。


『……そう、だな。でも最近、知らない世界って外国の文化にこだわらなくても、身近なところにいくらでもあるな、って思い始めて来たんだ』


 そう続けられた言葉が、まるで自分に言い聞かせてるみたいだと、そんな風に思った。


『受験が終わって、落ち着いたら春が来る。そうなったら、二人で桜を見に行こう。それで、夏が来たらまた花火を見て、秋には満月を見るんだ。きっと今野と一緒だったら、同じものを見てもまた新しい感動があるはずだから。……きっと俺の世界は広がるはずだから』


 その違和感は、文化祭の時にさらに確固たるものに変わった。


 それでも、傍にいたくて。

 ただの私の考えすぎだと思いたくて、必死で目を背けたけれど。


『いや、これは参考書というか………なんていうか、趣味みたいなものだから』


 趣味だと言った、その本は、ネットで検索をかけてみたら留学希望者向けの参考書で。


『ああ。あいつ編入した時から既に進路決めてたはずなのに、今頃になって急に変えたいとか言い出して……おっと』


 神崎先生の言葉が、疑念を確信に変えた。

 受験生の今、留学を考えているってことは、つまりはそういうことなんだと。

 瀬戸内君の成績を考えれば、海外の大学に進学することは夢物語でも何でもないんだと。

 気づいちゃったんだ。


「ーー昔の、話だ」


 瀬戸内君は私の言葉を否定はしなかった。

 未だ顔があげられずにいる私の肩に、そっと手が添えられる。


「確かに俺は、少し前まで海外の大学に進学するのが夢だったよ。小学校の頃から、それを夢見て色々準備して来たし、少し前まではその為に必要な試験を受けたりもしていた。……だけど、もういいんだ」


「…………」


「言っただろう? 知らない世界は、身近にいくらでもあるって。まずはそれを知ってから、それでもやっぱり海外の文化が気になるようならば、留学を検討すればいいんだ。今すぐ、どうこうする必要なんかない。……そう思って、取り敢えず地元の大学に進学するって決めたんだ。俺の意思で。だから、今野がそんな風に気にすることじゃない」


 瀬戸内君の口から出る言葉はやっぱり優しくて。

 そのまま信じて、流されそうになる。

 自分にとって、一番都合が良い未来を、望んでしまいそうになる。

 ……だけど、顔をあげた瞬間、そんな思いは吹き飛んだ。


「………嘘つき」


 そっと手を伸ばして、瀬戸内君の頬を両手で挟みこむ。

 ……やっぱり、言葉だけじゃ真実はわからないや。


「もう決めた人が、そんな苦しそうな顔をしないよ……」


 今にも泣きそうな瀬戸内君の表情が、何よりそれを物語ってる。


「……嘘じゃない。嘘じゃないんだ、今野」


 震える声でそう言って、瀬戸内君は私の体を抱き締めた。


「迷いがないかと言ったら嘘になるけれど……それでも俺は、もう決めたんだよ……」


「瀬戸内君………」


「今野の方が、大切だから………夢なんかより、今野といられる時間の方が大切だから、もういいんだよ……!」


 痛いほどに抱き締めてくる瀬戸内君の腕の中で、私は何て言えば良いかわからなくなる。

 瀬戸内君の夢を、邪魔したくないと思っていた。

 だけどこんな風に言われたら、簡単に気持ちは揺らいでしまう。


「ーーなあ、今野………初めて俺が編入して来た時のこと、覚えているか?」


 不意にぽつりと告げられた言葉に、頷いた。


「……覚えてるよ」


 忘れられるはずがないよ。あんな、強烈な出来事。

 瀬戸内君は私を抱き締めたまま、静かに思い出を語り出した。


「挨拶が終わって、案内された席に移動しようとした時に……俺、今野と目があったんだ」


 私だけじゃなかったんだ……あの時目があったと思ったの。


「つぶらな目で、じっとこっちを見上げている姿が小動物みたいで……普段なら単に微笑ましいってだけの話なのに、胸が変にざわめいたんだ」 


「………」


「気を落ち着かせる為に眼鏡を掛け直して……気がついたら派手に転んで、天井を見上げてた」


「……頭打って、悶絶してたよね」


「……忘れてくれ。それは」  


 ……さすがに、ちょっと、それは無理かな。

 なかなか衝撃的な場面だったもん。


「俺は今だからこそ残念王子って渾名されているけど、前の学校ではわりと女の子から人気あったんだ。完全無欠だって言われてたし、それを鼻に掛けてた部分もあったと思う。……だから、意味がわからなかった」


「…………」


「何かの間違いだと思って、以降は前の学校と同じように過ごそうとしても、今野の視線を感じる度に、何度も何度もやらかして。周りに間抜けを晒して。……今野は俺の疫病神かと思ったりもした」


 や、疫病神………ちょっとショックだけど、改めて考えると否定できないかも。


「だけど、気がつけば今野のこと視線で追っていて。……いつも友達と仲良くしてるとか。絵のことになると、生き生きと語り出すとか。……朝はちょっと弱いだとか。字は意外に大人っぽいとか。ピーマンは苦手だとか。……今野ことを知れば知るほど、胸のざわめきが大きくなっていった」


 ………知らない間に、よく見てたんだね。瀬戸内君。全然気づかなかったよ。

 嫌じゃない……というか、少しうれしいけれどね。


「大林に言われて始めて気がついたよ……それが、恋だって。俺は今野に一目惚れしたんだって」


「瀬戸内、君……」


「なあ、今野。……お前は一目惚れなんて、見かけが好みなだけだって思うかもしれないけど……」


 瀬戸内君は少し言葉につまってから、頬を赤くして目を伏せた。


「……俺は、運命を感じた。そう言ったら、お前は笑うか?」





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