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瀬戸内君の部活光景




「……もう。神崎先生ったら。近くにいたってだけで私を使うんだから」


 放課後。私は先生に雑用を頼まれて遅くなってしまった私は、急いで部活に向かっていた。

 私の部活である美術部は、そんなに厳しい部活ではないのだけど、絵のコンクールが近いから、出来るだけ長く部活動に時間を割きたいところ。しかも、こうみえて私は美大志望。今回の作品も推薦入試要求のポートフォリオにいれようと思ってたから、特別力入れてたのに。

 いくら係の子がさっさと帰っちゃったからって、なんでよりにもよって、私指名するかなあ。みんなには内緒だよって、飴くれたくらいじゃ誤魔化されないんだからね。身長は140ちょっとでも、私だってれっきとした高校三年生なんだから。


「イチゴミルク味で、おいしいけどね……あ、そうだ。近道してこっと」


 美術室には渡り廊下を通った方が早い。たまに筋トレしている運動部がいるから普段はあまり使わないけど、今日は遠慮なんかしてられない。

 もらった飴玉をなめながら駆け足で渡り廊下を進むと、五月の温かい風が吹き込んできた。

 ……三年生になってからもう一ヶ月も経ったのかあ。クラスメンバーは二年の時と変わらないから、あんまり実感わかないけど、月日が経つのは早いな。これじゃあ受験までもあっという間かな。……やだなあ。


「……て、あれ? もしかしなくても、あれって高梨さん、だよね。あんなところで何してるんだろ」


 現実逃避をするように、新緑を見上げたら、すぐ近くの木の上にまさかの人がいた。

 同じクラスの高梨たかなし 沙紀さきさんは、すらっと背が高くて学年で一番美人なんだけど、何を考えているかよくわからない、ちょっと不思議な人だ。話かければ、普通に返してくれるのだけど、基本的に寡黙で、みんなでわいわいするより一人でいる方が好きみたい。ミステリアスでクールビューティな人なんだ。

 そんな高梨さんが、木の上によじ登って、下にいる私に気づかないまま、一心不乱に遠くを見つめているんだから、さすがにちょっとびっくりした。

 ……うーん、ますます不思議な人だな、高梨さん。私みたいなちんちくりんがやれば、怪しいストーカーにしか見えないけど、高梨さんがこういうことをしていると、なんか忍びみたいで格好よい気がする。なんでも絵になる美人ってすごいな。今度、作品のモデルになってほしい。


「で、何見てるんだろ。……サッカー部の試合?」 


 高梨さんの視線の先では、サッカー部が部内で練習試合をしていた。その中には瀬戸内君もいて、思わず足が止まった。

 女子の注目が集まるとおドジを発揮する瀬戸内君は、不思議なことに部活中ならどれほど注目されても大丈夫らしい。

 トレードマークの黒縁眼鏡をずれにくいスポーツ用のものに掛け換えて、真剣にボールに向き合う瀬戸内君は、普段と別人みたいに格好良かった。瀬戸内君の噂を知っているだろう女の子達も、渡り廊下とは反対の方向からきゃあきゃあ声援を送っている。(なお、高梨さんは一言も発することなく、ただひたすら試合を見つめているようだ……サッカーが好きなのかな?)


 ……みんな、こんな声援を送っているなら、私も一声くらい掛けても、試合の邪魔にならないかな?

 高梨さんに、私がここにいること気づかれるかもしれないけど、別にやましいことするわけじゃないし、いいよね?


「瀬戸内君、頑張れー」


 言ってから、何だか少し恥ずかしくなった。

 もう半年くらいは一緒のクラスにいるとはいえ、別に私と瀬戸内君は特別親しいわけじゃない。たまに、ちょっと会話するくらいの、友達未満なクラスメイトだ。

 それなのに、名指しで応援するとか、ちょっと気やす過ぎたかな? あれ、なんだか、どんどん恥ずかしくなってきたぞ。……さっさとここから、移動しよっと。

 赤くなった頬を押さえながら、居たたまれない気持ちで急いで美術室に向かおうとした瞬間、背後から悲鳴があがった。

 慌てて振り返ると、そこにはなぜか倒れている瀬戸内君と、心配そうに駆け寄るサッカー部員たち。

 な、何があったの?

 私が思わず唖然と立ちすくんでいると、サッカー部の一人……クラスメイトの大林君が、苦々しい表情で私の元に近づいてきた。


「瀬戸内がいきなりいつもの発作を起こして、脳天にボールを直撃させたと思ったら……原因は、今野、お前か」


 わ、私のせいなの?


「え、え、でも瀬戸内君は部活動の時は、注目されても大丈夫だって……」


「それは部活動の時間はお前が……いや。何でもない。とにかく、お前のせいだから、責任もって、瀬戸内が目を醒ますまで保健室で付き添ってやれ。あと、お前は部活動中の瀬戸内には絶対に声を掛けるな。大会が近いんだから、瀬戸内に大事があったら困るんだ」


「え? あ、はい? ……うん?」


「……ちょっと休憩中の二年ー。瀬戸内、保健室運ぶの手伝ってくれ。俺一人じゃ無理だから」


「……ああ。確かにキャプテンの身長じゃ、きついっスよね。潰される」


「今は身長は関係ねぇだろ! こんなでかい奴、誰だって一人で運べないっつーの。……あー、武田と早瀬。お前らは瀬戸内と俺の代わり入って、試合続けてろ。じゃあ、副キャプー。後は任せたからな。多分俺はすぐ戻るけど」



※高梨さんの名前、修正しました。

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