大林君はかっこいい
「……ねえ、ママー。あの光る奴買ってー」
「だーめ。あんなの買って、どうするのよ。お祭りの最中ならともかく、普段はあんなのつけたりしないでしょ」
「普段から、つけて遊ぶもん! 買って買ってー」
小学生くらいの子どもが、母親に出店のおもちゃを強請る姿を見てハッとする。
……バネでつながってる飾りが光るカチューシャ。
あれさえあれば身長差が15㎝くらいは埋められるかも。しかも光ってるから、存在感もばっちりで、私の存在主張してくれるはず。
よし、あれを買えば……。
「ーーいい加減になさい! あなた、もう三年生でしょ! あんな子どもっぽいの買って喜ぶのは、低学年の子どもくらいよ!」
……………………。
……小学校三年生の子ですら、こう言われてるのに、高校三年生の私が買うわけにはいかないよね。
ただでさえ七五三さんなのに、あんなのつけたらら、それこそ子どもにしか見られないし。瀬戸内君と並んだら、カップルじゃなくて、お兄さんに遊んでもらってるちっちゃいこでしかないよね。……あーあ。
「……何つーか、悪いな。今野」
一人ため息を吐いていると、なぜか大林君が謝ってきた。
「え? 何が?」
「いや……俺がもう少し背が高くて、沙紀とつり合ってたら、瀬戸内が沙紀の彼氏と間違われることもなかっただろうな、と思って」
「いやいやいや、そんなこと言ったら、私だって同じだよ。私がもっと背が高くて和風ビスクドールみたいだったら、高梨さんが瀬戸内君の彼氏と間違われることもなかったわけだし。大林君が謝ることじゃないよ」
……そう。悲しいかな、全ては私がコケシなちんちくりんなせいです。うう……。
「お互い小さいと辛いな。……好きで、背低くなったわけじゃねぇんだけどな」
「叶うなら、あと10㎝……いや、できれば15㎝欲しかったよね。……でも、大林君は160㎝はあるし、そんなに小さくないと思うよ」
「男で、160は普通にチビだろ。沙羅にも5㎝近く負けてるし。……まあ、今野は女だから、そんくらいでも可愛いんじゃねえの?」
「……いやあ。せめて140後半なら、そう思えるかもしれないけど、前半は……っ?」
大林君と、低身長談義で盛り上がってたら、不意に肩をわしづかみにされた。
「……今野。お前が悪くないのは、重々承知だが、これ以上悟と話さないでくれないか」
振り返って、声の主である高梨さんの顔を見て、ギョッとする。
……高梨さん、泣いてる!?
「ーーうわあ。あのちっちゃいカップル見てー。かわいい」
「小学生かな? それとも、中学生? ……なんか、甘酸っぱいよねー。ちっちゃい子同士の恋愛って」
「私もあったなあ……あんな時代」
周りの声が聞こえてきて、ようやく高梨さんが泣いてる理由に気がつく。
……まさか、私と大林君までカップルに間違われてた!?
「ご、ごめん! 高梨さん……」
「いや、仕方ないのは分かっているんだ……私が不本意にも、このデカブツと恋仲と勘違いされたのと同じで、全ては不可抗力だとは分かってはいるんだ……分かっているが、それでも、悟と身長つり合ってない自分が、ただただ悲しいんだ……」
私の肩から手を離しら無表情のままハラハラと涙を流し続ける高梨さんの姿に、ひたすら焦る。
ど、どうしよう。……どうやったら、高梨さん泣き止んでくれるんだろ。
……あ、そう言えば、さっきまで高梨さんと喧嘩してた瀬戸内君の様子は……。
「……今野と、大林がカップル……お似合い……」
……どうしよう。さすがに泣いてまではいないけど、瀬戸内君も高梨さんとあまり変わりないかも。
虚ろな表情で、一人なんかぶつぶつ話してるし。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
傷ついてる二人に、何て声をかければ良いんだろう。
どうすれば、ちょっと前までの楽しい夏祭りのムードに戻せるんだろう。
せっかくの夏祭り、こんな形でお開きにはしたくないよ……。
「ーーたく、しょうがねぇな。沙紀。お前、何泣いてんだよ。せっかく綺麗にしてんのに、台無しじゃねぇか」
私があわあわして動けないでいる一方で、大林君は泣いている高梨さんの顔を下から覗きこんで、ため息を吐いていた。
「だ、だって……」
「だって、じゃねえ。あーあ。顔、ぐちゃぐちゃ。ティッシュやるから、とりあえず鼻噛めよ」
大林君に言われるがままに、高梨さんはティッシュを受けとって鼻を噛んだ。
「全く。普段は、周りから何て言われようと気にしねぇ癖に、なんでこう言う時だけ振り回されてんだよ。事実じゃねえなら、周りが推測で勝手に色々言おうが、軽く流せよ。今後、二度と会わねぇかもしれない奴らに、どういう関係に思われようが、どうでも良いだろ?」
「良くない……事実じゃなくても、悟が今野と付き合っていると思ってる奴が、この世界にいること自体がいやなんだ……」
「面倒くさいな。お前。……まあ、いいか。ほら」
「……ああ。ポケットティッシュ、返すな。ありがとう。助かった」
「ちげえよ。手出せつってんだ」
キョトンとした表情で差し出した高梨さんの手を、大林君が握った。
「こうやって手を繋いでりゃ、周りも俺らがどういう組み合わせなのか、はっきりわかんだろ。……お前が誰のもんなのか、せいぜい周りに見せつけてやるよ。だからもう、泣くな」
……うわあ。大林君、かっこいい。




