今野ちゃんと浴衣対決
……だけど、瀬戸内君がこんなに反応してくれるなら、やっぱり浴衣着て来てよかったな。
お母さんからは、「七五三みたい」って言われて凹んでたけど……そっかあ。瀬戸内君は可愛いって思ってくれてるんだ。えへへ。髪の毛あんま長くないから大変だったけど、一時間かけて無理やりアップしたかいあったかなあ。
うわあ。勝手に口元がにやにやして、人に見せられない顔になってるかも。どうしよう。
ーーだけど、私がそんな風に浮かれてられたのも、一瞬だった。
「ーー悪い! 髪型を整えるのに、思いがけず手間取って遅くなった」
……………っ!?
「いや、俺らが早く来たただけだから。時間ぴったりだし、別に気にすんな。……てか、沙紀。お前、浴衣で来たのか」
「……ど、どうだ!? に、似合うか」
「ああ。似合ってる。お前スラッとして背筋良いから、大人っぽい柄の浴衣似合うな。いつもより、さらに美人だ。……つっても、お前、元々美人だから、今さらか」
「び、美人!? 悟、それは本当か!? 私のことを、お前は美人だと思ってくれてるのか!?」
「……いや、沙紀。俺がどうこう関係なく、お前は客観的事実として、美人だからな。もっと自分の容姿を自覚しろよ」
「客観的事実とかはどうでもいい! 私は、他の不特定多数の評価ではなく、悟、お前の評価が聞きたいんだ!」
どうしよう……高梨さん、今日めちゃくちゃ、綺麗だ。
元々すごく美人なのに、浴衣着たら本当美人過ぎて、直視できないくらい。
藤の花が描かれた大人っぽい紺色の浴衣が、まるで、そのデザイン専属のモデルさんみたいにぴったりだ。長くて綺麗な黒髪も、絶対私じゃアレンジできないくらい複雑に結いあげられてるし。
「……それに比べて、私は……」
高梨さんを見た後に、我が身を顧みると、一気に現実に戻された。
瀬戸内君に可愛いと言われて舞い上がってた気持ちが、しゅんしゅんと音を立てて一気に萎んでいく。
ーー高梨さんが、人形職人が作った一点ものの和風ビスクドールだとしたら、私は、体験教室で小学生が絵付けしたコケシだ。プロによる芸術作品と、素人の作った量産品だ。
うう……これじゃあきっと瀬戸内君も、高梨さんに見惚れてるはず……。
ちょっと泣きそうな気持ちになりながら、ちらりと瀬戸内君の方に視線をやると、頬を赤らめながら、ぽおっとした表情でこちらを見つめる瀬戸内君とバッチリ目があった。
「わ、悪い! じろじろ見つめて……」
……う、うん?
「……今野から見られてるとまともに直視できないのに、見てない時だけジッと見てるとか、気持ち悪いよな……悪い。慣れるように頑張るから、ちょっとだけ、我慢してくれ」
瀬戸内君……顔赤いまま、視線を逸らしてるけど……あれ?
「瀬戸内君……高梨さんの浴衣、ちゃんと見た?」
「え?」
瀬戸内君は、ちらりと高梨さんの方に視線をやってから、怪訝そうに眉をひそめた。
「見たけど……それが、どうかしたか?」
……あれー?
「……高梨さん、浴衣すごく似合ってるよね」
「まあ、似合う方なんじゃないか。元々なんか、武士っぽいし。和装は似合うだろ」
「ぶ、武士? ……いや、じゃなくて、綺麗だよね。高梨さん」
「綺麗というか、想像した通りというか。……あんなもんだろ」
………………………。
「……私の浴衣姿は、どう思う?」
「すっげえ、可愛い……まだ、まともに見れない……」
「……………」
これ、本気で言ってるよね?
………なんというか、瀬戸内君。
「……瀬戸内君って、女の子の趣味、おかしいよね」
「えっ!? 何でだ!?」
誰が見ても綺麗な高梨さんの浴衣姿はどうでも良くて、ちんちくりんな私の浴衣姿に見惚れる辺り、どう考えても、瀬戸内君の審美眼はおかしい。
私と高梨さんなら、10人中9人が、スタイルも良くて美人な高梨さんを評価するだろうに。
そう思ったら、自然と口元が緩んできた。
「……でも、瀬戸内君の趣味がおかしくて、よかったよ」
他の誰もが日本人形を選んだとしても、瀬戸内君がコケシを選んでくれるなら、私はコケシのままでいいかな。
他の誰かが何て言おうと、瀬戸内君さえコケシを可愛いと思ってくれるなら、それだけで十分だもん。
よかった。瀬戸内君が、コケシ好きで。
……と、思ってたんだけど。
「……見て、見て! あのカップル、美男美女! モデルさんみたい!」
「二人とも身長も高いしね……もしかしたら、何かの撮影かな?」
「いや、でもカメラないから、やっぱり一般のカップルだよー。いいなあ、すごくお似合い」
「ああいうスタイル良い美男美女カップル、素直に憧れるよね~」
……だけどやっぱり、周りからカップルだと思ってもらえないのは、悲しいね。
一応、私、ちゃんと瀬戸内君の隣歩いてるんだけどなあ。
「……おい、デカブツ。何で、私とお前がカップル扱いされねばならんのだ。私はちゃんと悟の隣歩いているというのに……不愉快だ」
「奇遇だな。高梨……俺も今、全く同じ不快感を抱いていたところだ」
「お前の無駄にデカい身長が悪いんだ。ーー縮め」
「そっくりそのまま、お前に返す」
頭上で刺がある会話を交わす二人に、ため息を吐く。
……この身長差が問題なんだよなあ。
私ちびだから、人ごみに紛れると、周りから見えなくなるし。
ちびなのは私のせいだから仕方ないんだけど……やっぱり瀬戸内君が高梨さんとカップルに思われるのはやだなあ。
……思いきりジャンプして「瀬戸内君は、私の彼氏です!」って叫んだら、みんな間違わないでくれるかな? ……なあんて、できないけどね。そんなこと。




