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瀬戸内君は可愛い人【連載版】  作者: 空飛ぶひよこ


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大林君と高梨さん

「佐藤……中島……」


 瀬戸内君は言葉を探すように、二人の名前を呟いた後、


「……俺も、楽しかったよ。お前らと、部活がやれて、よかった」


 ただ、それだけ言って、小さく笑った。


「……んじゃあ、友情の重さを確認できたところで、みんなで反省会行きますか! ヤケ焼き肉だ、ヤケ焼き肉! 今日は徹底的に食うぞ!」


「俺らはこれが最後だけど、一、二年のサッカーはまだまだ続くからな~。俺らみたいに、一年以上遊んでなかったあいつらなら、きっと次はもっと上行けるよ。……せいぜい、最後に三年らしいとこ見せてやろうぜ。俺らの屍を越えて行けって、な」


「……って、待て。となると、一、二年の分の、俺らのおごりか? 食い放題にしてもきつくね? 俺あんま金ねーぞ」


「……500円だけ負担で、良くね? 全額とか、無理無理」


 先程までのしんみりした雰囲気を一変させ、中島くんと佐藤くんは、明るく笑った。

 ……本当は多分、どうしようもない悔しさだとか、後悔とかも抱えているんだろうけども。

 それでも、笑って「楽しかった」と引退できるその姿は、とても格好良い。

 ……佐藤くんは、こう言う姿もっと女の子に見せたら、モテるんじゃないかなあ。って、よけいなお世話かな。


「じゃ、そんなわけで舞子ちゃ……今野。瀬戸内、借りてくな。悪いけど、今夜は女人禁制のむさ苦しい野郎同士の反省会だから」


「この水くさい眼鏡に、一人だけ、リア充満喫させるわけには行かねーからな」  


「どーぞ。どーぞ。……チームメイト同士、積もる話もあるでしょうから」


 私はこの辺で退散するとしましょう。


「……あ、今野! 今日は本当にありがとう。今夜またメールす……ぐっ」


「だから、リア充見せつけんなって言ってんだろ! こんちくしょー」


「お前がモテない八つ当たりすんな、佐藤!」


 瀬戸内君と佐藤君が言い合っている姿は、仲良さそうで微笑ましい。

 ……私にはわからない絆があるみたいで、ちょっぴり悔しいけど。

 これ以上、瀬戸内君が脇を攻撃されてもかわいそうだし、このまま、手だけ振って帰ろっと。


「……あ、悪い今野。もし、大林見かけたら、先に反省会会場言ってるって伝えてくれね? メールしたけど、見てっかわからないからさ」


「あ、うん。わかった。……でも中島君。大林君のこと、待ってなくて良いの?」


「いーんだ。いーんだ。好きで単独行動してる奴は、放っておいて……というか、今あいつは絶対、俺らと顔合わせられる状態じゃねーし」  


「え……?」


「んだんだ。途中退部組に絡まれてたみたいだったしなー。……瀬戸内と違う意味で、あいつも水くさい男だよなあ。一人で抱えこむなっつーの」


「まあ、落ちついてから焼き肉食いに来たら、焼きたてカルビ左右から口に突っ込んでやろーぜ。大林の、健やかな成長を祈願して」


「……高三だから、さすがに、もう上には伸びないだろ。大林がかわいそうだから、やめてやれ」


「もう、瀬戸内は固いなあ。横には伸びるから、いーんだよ。……じゃ、んなわけで、頼んだな。今野。会えなかったら、会えなかったでいーから」


 ひらひらと手を振って去っていく三人を見送って、私は家路に着くことにした。

 ……大林君、大丈夫かな。

 ちょっと帰る前に、ぐるっと一週してこっと。




「ーーれよ!」


「嫌だ」


「いい加減にしろよ! 高梨!」


 この声は……大林君と、高梨さん?

 聞こえてきた大林君の声の険しさに、私は物陰に身を隠して様子を見ることにした。

 ……何か、言い争ってる?


「頼むから、帰れよ! ……沙紀。……お願いだから、一人に、してくれ……」


「嫌だと言っているだろう。お前こそ、いい加減しろ、悟」


 高梨さんが、凛とした声で言い放つ。


「自分を責めて、泣いているお前を一人になんかできるか」


 高梨さんの言葉に、真っ赤に泣きはらした大林君の顔が、くしゃりと歪んだ。


「……お前は、どこまでも、俺をみじめにさせたいんだな……」


「お前がみじめな気持ちになる必要が、どこにある」


「みじめだろ! あいつらの言う通り、俺は結局は一人空回りしたあげく、無様な結果を晒したんだから!」


 血を吐くような、叫びだった。……大林君の悔しさが、ただひしひしと伝わってくる。


「……一人、勝手に夢見て、暴走して……結果的に、ダチだった奴らを追い出して、恨まれて……それなのに、俺は何も、残せなかった……無様以外の何ものでもないだろ。結局俺は、自己満足で部の奴らを振り回しただけだ……俺がいなければ、みんな、楽しくサッカーをやれてたのに」


「何も残せていない? ……ふざけるな」


 高梨さんは、うつむく大林君の頬を掴んで無理無理顔を上げさせて、額をぶつけるようにその顔を覗き込んだ。


「決勝まで進まなければ、結果にならないと思うのか? だとしたら、今までお前らが負かしてきた、他のチームに対する侮辱だ! お前らだけが……お前だけが勝ちたかったわけじゃない! どのチームも、優勝を夢見て部活に臨んでいたはずだろ!」


「……っ」


「お前は、一年間、チームメイトと共にずっと努力してきた。その結果、ここまで勝ち進んで来たんだ。なぜ、その結果を誇らない? 何も成さずに逃げた奴らの言葉になぞ、耳を貸すな! お前が耳を傾けるべきなのは、お前と共に努力を重ねてきた、チームメイトの言葉だ。お前の努力を、ずっと見てきた、私の言葉だ。違うか?」


「……沙紀……」


「胸を張れ、悟! 無様だというなら、自分の努力を悔いる今のお前の姿こそだ。努力を重ねてきた過去のお前じゃない。……頼むから、悟。これ以上私に、惚れ抜いた男を、無様などと言わせるなーー誰が何と言おうが、お前は、私にとっては世界で一番格好良いのだから」

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