瀬戸内君とチームメイト
「…………」
瀬戸内君の体は一瞬びくりと跳ねて、すぐ固まった。
それでも諦めずに、体全体使って、ぐいぐい押してたらちょっとずつ前に進み出した。
うう。瀬戸内君、おーもーいー!
どう考えても、私に力負けしてるんじゃなく、自分の足で動いてるんだから、ちゃっちょっと歩きなさい! もう。世話がやけるなあ。……まあ、そういう瀬戸内君も、かわいいけどね。
「……お、今日のMVP発見。瀬戸内、お前どこいたんだよー! 探したんだぞ」
「お前と言い、大林と言い、協調性ないなー。まったく。せめて一言、言ってけよ」
しばらく瀬戸内君を押していくと、他のサッカー部の子と遭遇することに成功した。
顔はなんとなく分かるけど、名前まではわからない。確か、隣のクラスの男の子だ。
「……はい。そうだと思って、お届けにあがりました」
「っ!? ……う、後ろにいたのか……ちっこくて見えんかった」
「ええと……隣のクラスの舞子ちゃん、だっけ?」
「……ちゃん付けとか、馴れ馴れしいぞ。しかも下の名前……」
「いや、他意はないから。……てか、面倒くさいな。瀬戸内。お前」
「てか俺らの心配さしおいて、お前、何、単独行動してリア充してんだよ。眼鏡、折るぞ」
不機嫌そうな低い声を出す瀬戸内君に、呆れかえる二人。
……でも、真相聞いたら、もっと呆れると思います。
「……何だか自分は、邪魔だと思ったそうデス」
「はい?」
「三年間共に過ごした同士で積もる話もあるだろうから、一年しか在籍してない自分は邪魔なんじゃないかって」
「…………」
「…………」
私の言葉に、二人は黙って顔を合わせた後
「……うぐっ!」
「おいおい、瀬戸内くう~ん? ちょっとさあ、君さあ、俺らの友情の重さ分かってないんじゃないのぉ~君さあ」
「水くさいよね~。チビッコ鬼キャプテンの地獄のシゴキ一年耐えた仲じゃないの~」
「お、重いぞ! お前ら!」
息ぴったりのテンポで、一人はヘッドロック、もう一人は背中に肘を置いた状態で左右から体重をかけだした。
おお。なんかすごく、仲良さそう。男の子のノリだなあ。
「俺らの愛の重さだよ、おら。心して実感しろや」
「同じ三年で、同じチームメイトだろ? いつ入ったとか関係ねーし」
「……だ、だけど」
目を泳がせる瀬戸内君に二人は苦笑する。
「そもそもさあ……お前が、入部するまでの俺ら、そんなにサッカー頑張ってたわけじゃねーし」
「入部した頃からの絆とか、全然ねーよなあ。そもそも、同期半分以上辞めてっし」
……え?
明かされた衝撃の真実に驚いたのは、私だけじゃなかった。
「……初耳なんだが……」
……せ、瀬戸内君も、知らなかったの?
「だって、大林から瀬戸内にだけは言うなって箝口令しかれてたもん。瀬戸内の士気にかかわるからって」
「まあ、でも最後の試合終わったから、もう時効だな。……うちのサッカー部は、そもそもは一回戦敗退が当たり前な、お遊び部だったわけ。スポーツやって、ちょっと女の子にモテたいなーってくらいの軽いノリで、誰も本気でサッカーなんかやってなかったのに、二年で大林がキャプテンなった時に、ガラリと雰囲気変えられちまったの」
「ほら、あいつサッカー狂で、熱いだろ? でも、大部分の部員は、んな熱さ求めてなかったから、当時は大荒れよ。ばたばた人辞めて、辞めてなくても反発する奴らたくさんかいて、もう試合自体厳しいんじゃねーの? みたいになった時に転校して来たのが、瀬戸内お前だったわけ」
「あん時の大林の喜びようったらなかったなあ。『他校の実力ある奴が、うちの部に入ってきた! これで、上を目指せる! 優勝を狙える!』ってな」
大林君の口調をまねしながら、懐かしそうに笑っていた彼だったが、不意に真顔になった。
「……正直、よけいな奴が入って来たと思ったよ。これ以上、大林を調子に乗せてくれるなって」
「辞める決意まではできなかったけど、俺らも以前の緩いノリ、嫌いじゃなかったし。そもそも、熱血とか、ガラじゃねーし。さっさと大林に、目え醒まして欲しかったんだよなあ」
「………………」
「……だけど、さ。だんだん悔しくなってきたんだよ」
難しい顔で黙り込む瀬戸内君に、彼は微笑みかけた。
「お前と大林がさ、俺らより数段上のプレイして、楽しそうにしてる姿見たら、何だかめちゃくちゃ悔しくなったんだよ。サッカーって11人でやるもんなのに、なあに、二人だけで盛り上がってんだ?ってな」
「馬鹿にしてたはずの、泥臭く練習する姿が、やたら格好良く見えてさ。……特に、瀬戸内。お前、実際めちゃくちゃ女の子に騒がれてたし。モテてたし。ちょっと待て。俺、モテる為にサッカー部入ったのに、全くモテてねーって気づいて」
「今もモテてないけどな。お前は」
「うっせ。それでも前回のバレンタインは結構義理チョコもらったんだよ。……まあさ。んなわけで、ちょっと俺らも真面目にサッカー取り組むようになったわけ」
「必死に頑張ったら、優勝までは無理でも、結構勝てるようになって……強くなってくのが分かったら、だんだん楽しくなってきたんだ」
「マジで優勝狙えるかも! なんて、ちょっと前まではあり得なかったこと思うようになって、そうなったら自然と練習にも身が入ってーーそうしてたら、今日、ここまで来れた。決勝まではいけなかったけど、あと少しで、それも届くかもしれなかったところに。……一回戦敗退が当たり前だった俺らが、来れたんだ」
二人の目に、一瞬、光るものが見えたのは、多分見間違いじゃない。
「感謝してるよ。……本気になるきっかけをくれた、お前と大林に」
「先に辞めた奴らは、結局この程度かとか色々言うけどよ……誰が何と言おうと、俺にとって、今日のこの結果は最高の結果で、今日に至るまでの一年は最高の一年だったよ。……最高の青春だったよ」
「ああ……楽しかったな!」




