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瀬戸内君は可愛い人【連載版】  作者: 空飛ぶひよこ


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瀬戸内君と試合

 瀬戸内君にそう言ってもらえたら、何だか本当に受賞できるような気がしてきた。

 メールで一回、今日直接もう一回で 二回も太鼓判押してもらってるし。……根拠はなくてもね。


「あ……今野、頬に絵の具ついてる」


「え? この辺り?」


「いや……こっち」


 瀬戸内君の手が、そっと頬に触れた瞬間。

 除きこむような瀬戸内君の視線が、自分のものと交差した瞬間。

 心臓がどきん、とはねた。

 ただ、絵の具をぬぐってくれているだけなのに、何でこんなにどきどきするんだろう。

 私が頬が熱くなったのを感じてから、一拍遅れて瀬戸内君の顔も赤く染まり、慌てて手を離された。


「……って、俺がぬぐっても、絵の具で伸びるだけだな。悪い。後から、自分で鏡で見てくれ」


「……あ、ううん……ありがとう」


 ……ああ、やっぱり私、瀬戸内君が好きだなあ。

 何だか昨日よりも、今日。今日よりも、明日。

 日を追うごとにますます、瀬戸内君が好きになっている気がする。


「と、ところで、今野……次の土曜日は、時間あるか?」


「今週の土曜日は、予備校も入れてないけど……だけどその日って瀬戸内君……」


「ああーーインターハイの、県予選の日だ」


 そう言った瀬戸内君の表情が、あまりにも真剣だったから、一瞬呼吸を忘れた。


「だから、できるなら、今野に応援に来て欲しいんだ。……これがもしかしたら、俺達の最後の試合になるかもしれないから」


 瀬戸内君が、次に当たる相手は、県内一のサッカーの強豪校だ。インターハイの常連校で、昨年の冬の国体予選でも、この高校に破れたと、瀬戸内君は言っていた。

 瀬戸内君達のチームの調子はばっちりで、今のところ順調に勝ち抜いているけど、ベストコンディションでなお厳しい戦いが予想されるらしい。

 だから、できることなら、私も応援したいのだけど……。


『それは部活動の時間はお前が……いや。何でもない。とにかく、お前のせいだから、責任もって、瀬戸内が目を醒ますまで保健室で付き添ってやれ。あと、お前は部活動中の瀬戸内には絶対に声を掛けるな。大会が近いんだから、瀬戸内に大事があったら困るんだ』


 瀬戸内君が保健室に運ばれた日、大林君に言われた言葉が頭をよぎる。

 ……もし、私のせいで、瀬戸内君がベストを出し切れなかったら。

 それが怖くて、これまでの試合も応援にはいけなかった。自意識過剰かもしれないけど、私のせいで瀬戸内君が悔しい想いをするのは、いやだ。



 何も言えずに黙りこむ私の手を、瀬戸内君は掴んだ。


「頼む。今野。……俺を、信じてくれ」


「……え……」


 スポーツ眼鏡ごしに、瀬戸内君の真剣な瞳が私にまっすぐ向けられる。


「散々情けない姿を見せた俺が、こんなこと言っても信じられないかもしれないけど……今の俺なら、今野が応援してくれれば、実力以上の力が出せる気がするんだ。お前が俺を、見守っていてくれれば、きっと」


 握られた瀬戸内君の手からは、瀬戸内君の気持ちが痛いくらいに伝わってきた。


 ……そっか。そうだよね。


 瀬戸内君の手を握り返しながら、微笑む。


「信じるよ。……根拠はないけどね」


 瀬戸内君が信じて欲しいと言うのなら。

 私に、応援して欲しいと言うのなら。

 根拠なんてなくても、私はただ瀬戸内君を信じて、それに従おう。

 だって、それがお互いにとって、一番後悔しない道だと思うから。


「今野……」


「ーーおい、瀬戸内! お前いつまで休憩してんだ! 今野といちゃついてねぇで、さっさと戻って来いっ!」


 遠くから聞こえてきた、大林君の怒鳴り声に、慌ててつないでいた手を離した。

 ……と言うか、話にばっかり集中してて、あんまり意識してなかったけど、今堂々と私達手を握りあってたよね。もしかしなくても、大林君にも、見えてたよね。……う、なんか今さら恥ずかしくなって来ちゃった。


「わ、悪い! ……じゃ、じゃあ、今野! また夜、連絡するから」


 私同様再び顔を赤くしながら、瀬戸内君はチームメイトのもとに走って戻っていく。

 ……は、恥ずかしいけど、どうせ恥ずかしいことしてたんだから、今さらだ。

 私は、遠ざかっていく瀬戸内君の背中に向かって、精一杯大声で叫んだ。


「ーー土曜日の試合、楽しみにしてるから!」


 一瞬振り返った瀬戸内君の顔が、微笑んでいた気がするのは、きっと気のせいじゃない。




「………人、思ったよりいるなあ」


 そして、土曜日。

 私は、一人でサッカーの試合会場に足を運んでいた。


「もし、高梨さんに会えたら合流しようかなあって思ってたんだけど、これは無理かな」


 ……まあ、見つかったとしても、高梨さんの性格的に一人で大林君の応援に集中したがる気もするから、これはこれでよかったのかもしれない。

 試合がよくみえるベンチに陣取り、必勝とかかれたタオルを、ひざ上に広げると、試合開始を待つ。


 ……あ、見つけた。あれが、瀬戸内君で、あっちが大林君だ。


「頑張れ……!」


 誰に聞かせるでもなく、小さくそう呟くと、ぎゅっと両手でタオルを握りしめた。



 ーーそして、試合が開始した。


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